庇護
"ルート様暗殺計画"
これは姉さんがルート様を攻略するのに1番鼻息荒く説明していたので覚えている。
ルート様の兄であり、次の王様候補であるシスト様が部下に命じてルート様を暗殺させる事件である。
ルート様はその容姿もさることながら、物腰の柔らかい雰囲気も相まって街の人々からの評判がいい。それは元々自分が跡継ぎ候補から外れているのが分かっているから自由に街へ出て人々と交流しているだけなのだが、それを跡継ぎになる為の策略だと勘違いした長男がルート様を殺そうとする。
そして、それを助けるのが類稀なる魔力を持ったヒロインなのである。
ゲームではこれでルート様の好感度が抜群に上がり、ルート様はヒロインに意地悪ばかりするブルーマリーを婚約者から外し、ヒロインと結ばれるというシナリオだ。
なので、ここでヒロインを退学させてしまってはルート様を助ける人が居なくなってしまう。ルート様がいなくなればブルーマリーも結婚どころかショックのあまり何をしでかすか分からない。それは何としても僕が防がなくては。
僕はヒロインに尋問する2人に声を掛けた。
「あの!差し出がましいのは重々承知で申し上げますが、バイオレット様が棄権になってしまったのは僕のせいですし、彼女を許しては頂けませんか?」
僕の発言に皆、目を見開く。
「確かに物を盗むことはいけないことですが、自分を引き取ってくれたご両親のことを思ってしてしまったという彼女の優しい心に免じてどうか穏便に済ませて頂けませんか?」
苦しい言い訳だとは分かっているが…僕の将来の為、引くことは出来ない。
「…バルサムは自分のせいだと言われて腹が立たないのか?」
「そうですよ、それこそ言い掛かりです。」
2人はそう言うが、僕がゲームの流れを変えてしまったことには変わりない。
「僕は気にしませんよ、事実ですから。それよりこのことは他の生徒の方々は知っているんですか?」
「…いや、生徒会で事件を収拾させたから教員以外は知らないだろう。」
「…!良かった!なら、このお話はこの場で終わらせて下さい。」
「しかし!盗みを働いたバイオレットにお咎め無しというのは軽すぎる。何か罰を与えなければ。」
「じゃあ1週間、生徒会のお手伝いというのはどうですか?」
「なんだと?」
「そしたら彼女がどれだけ反省しているか、真面目にやっているかが分かっていいと思うんです。どうですか、マリタイム様?」と僕はあえてコールの方を見て微笑む。
するとコールは「えっ…?えぇ…良い案だね、トルー…。」と無理くり納得してくれた。
「おい、スコッチ。お前まで了承するな。…なら、お前達はどう思う?」
そう言った会長は書記と会計の方に目線を向ける。
書記のメチルは「私も出来れば大事にしたくないので、それでいいですよ。」と言い、会計のダマスは「食堂のチケットは返して下さいね。」と答えた。
「はぁ~…お前達は甘すぎる…。しかし、今回はバルサムの厚意に免じてそれくらいにしといてやろう。バイオレット、次は無いと思え。」
僕はバイオレットの肩を持つと「それでは失礼します。」と言って部屋を後にした。
2人で廊下を無言で歩き、校門に差し掛かった頃「余計なお世話でしたか?」と聞いてみる。
しかし彼女は僕から鞄を受け取ると無言で立ち去ってしまった。僕はその後ろ姿を見ながら「これで良かったんだよね…。」と呟いた。




