ルート様
僕はてっきりサンバックが顔を出すと思っていたので驚きで身体を固まらせる。目を見開きながら、その美しい人を見つめた。
「やぁ、君がトルー君かな?」とその人は和かに挨拶してくれる。
「あっ…えっ…あの…?」
と僕がドギマギしていると「ルート様!?」とサンバックが慌てて出てきた。
「兄様…。」と助けを求めるように兄様を見つめると「ああ…トルーか、こちらはこの国の第二王子ルート・バレリアン様だ、自己紹介して。」と告げる。
「(えぇ!?そんな人が家に!?)
あっ…初めまして、トルー・バルサムです。宜しくお願い致します。」
と名前を言うと「こちらこそ、初めまして。ルート・バレリアンです。宜しくね。」と返してくれた。
「トルー、どうしたんだ?ブルーマリーと遊んでたんじゃないのか?」
「…うん…今度は僕が隠れる番…。」
なんだかこの空気で言うことではないが仕方ない…。
するとルート様は「かくれんぼしてるの?」と聞いてくる。それに「はい。」と答えると「じゃあサンバックの部屋に隠れよう!」と提案してきた。
それにサンバックは何を言い出すんだ、というような顔でルート様を見「ルート様、これから大事な話をする予定では…?」と告げる。
しかし、ルート様は「いいよ、いいよ。込み入った話は後で。せっかく可愛い弟君が来てくれたのに無下にはできないよ。」とルート様は笑っていた。
「あの…ルート様…僕、違うところに隠れるので大事なお話をして下さっても構いませんよ…?」
と僕が言うと突然、ルート様が僕を抱き上げた。僕は思わずルート様の首にしがみ付く。
それには、いつも冷静なサンバックも「ルート様!?」と驚いていた。
ルート様は気にした様子もなく「私、弟が欲しかったんだ~。」と呑気に僕を膝に乗せソファーに腰掛ける。僕はどうしたらいいか分からず、取り敢えずルート様を見つめた。
その後、ルート様は機嫌良く僕を膝に乗せたまま僕の口にサンバックが隠し持っていたお菓子を運ぶ。
モグモグ…
「美味しいです、ルート様。」
「そう、それは良かった。じゃあコレも。」
と言って、雛鳥にエサを与えるようにルート様は続ける。サンバックはそれをハラハラとしながら見つめ、結局、それはルート様が満足するまで続いた。
しかし、かくれんぼはというと一向にブルーマリーが探しに来ない…。
先程はルート様の運ぶお菓子に夢中で気付かなかったが、結構な時間が経っている。
やっとお菓子を食べ終え、膝から下ろしてもらった僕は「姉様、遅いなぁ…。」と呟く。
「もしかしたら、ブルーマリーは俺の部屋だと知っているから敢えて避けているのかもしれないぞ?」とサンバックが言ったことで僕はハッとした。
「(そんなことまで考えてなかった~!)
じゃあ僕、探しに行かないと!ルート様、兄様、失礼致します!」
と急いで廊下に飛び出した。
その時遠くから「トルー見つけた!!!」とブルーマリーの声がする。安心して返事をするとブルーマリーが勢いよくこちらに駆けてくる。
「サンバックお兄様の部屋にいたの?それは見つからないわよ~!だって人が来てたら入らないようにしてるんたもん。」と少し不満気に怒っている。
「ゴメンね、姉様。たまたま兄様のお客様と会って(嘘だけど)、中に入れてもらったんだ。」
「…そうなの?なら仕方ないわね~。ところで、そのお客様って?」
と僕がそこで口を開いた時「初めまして。」と声が重なる。ブルーマリーも僕の時と同様、驚きで固まった。
ルート様は先程の様にブルーマリーにも自己紹介をしている。ブルーマリーは顔を赤くしながらもそれに応えていた。
ルート様と別れた僕達は、ブルーマリーの部屋を訪れていた。
「ルート様、凄い素敵な方だったわね…。」
「うん、そうだね。
(あれ…ブルーマリーの様子が…?)」
「…よし、決めた!私、お父様に頼んでルート様の婚約者に推薦してもらうわ!」
「えぇ!?」
僕はブルーマリーの突拍子も無い発言に目を丸くした。