変化
僕はマリタイムの頰に手を添えると「よく見ると面影は有りますね。」と呟く。マリタイムは一瞬驚いた表情を見せたが直ぐに顔を真っ赤にして「トッ…トルー様…!」と叫ぶ。僕は慌てて手を下ろし、すみませんと謝った。
「…申し訳ございません…。言われてみれば、あの頃の面影が垣間見え、懐かしく思ったのです…。しかし、不躾に触るものではありませんね、マリタイム様、失礼致しました。」と今度は僕が謝る。
てっきり怒られると思ったがマリタイムは「いえ!驚いただけで怒ってはいません!」と言う。なら良いのだけど…と思いながら「当時、僕はまだ5歳でしたがあの時のことはよく覚えているんです…。」と告げる。
なんせ、当時の僕はこの世界に馴染むのに必死だったからだ。
「…あとマリタイム様、敬語はやめて下さい。僕は貴方にそんな言葉を使って頂くほどの者ではありません。」
「…それを言うならトルー様こそ、話し方が敬語に戻っています…。トルー様が戻さないのなら私も戻しません。」
そのマリタイムの頑なな姿勢に僕は折れ「…じゃあこれでいい?」と応える。するとマリタイムは嬉しそうに「はい!それでお願いします。」と言った。
しかし、マリタイムは元に戻っていない。
「えっ!?マリタイム様もいつも通りに…!」
「私はこのままで。トルー様は私にとって生きる理由を下さった敬う存在です。それは今も変わりません。よって、この話し方はいくらトルー様でも変えられません。」
「…自分はあれだけ敬語やめて、って言ってたのに…。」
「それはそうでしょう。私ばかり歩み寄っているみたいで嫌だったんです。それに私の敬語はトルー様と距離を取る為ではなく、きちんと上下関係をはっきりとさせる為に使うのです。」
「…まぁいいよ。どうせ僕が言ったところで変わらないんだろうし。それよりさっきの事だけど…。」
と僕はマリタイムに手を差し出した。マリタイムは不思議そうな顔をして握り返す。
「…たまになら良いよ。僕だってマトモに話せる友達がいないからね。協力してもらうことがあればお願いするし。」
「…!ありがとうございます!なんでもお申し付け下さい!あの…トルー様…ご体調は大丈夫なんですか…?15歳まで生きられないとおっしゃってたので、病弱だと思っていたのですが…。」
その言葉に僕はなんて言い訳をしようか考えた。
病弱にしては今から設定するのが遅すぎるし、かといって本当のことは言えない…。
「…理由は言えない…でも病弱ではないことだけは言っておくよ。だからマリタイム様も僕の心配ばかりしないでね。」
「…わかりました。何か理由がお有りなんですね。あとトルー様…私のことはコールとお呼びください。せっかく敬語をやめて頂いたのに名前だけ様付けなど寂しいです…。」
マリタイムは先程の頑なな態度とは一変し、次はしおらしい態度をとる。僕はその類稀なる容姿を利用した使い分けに「…ああもう!わかったよ!コールね、次はそう呼ぶよ、コール…。」と項垂れた。




