再会
「…これはあの時…マリーに…。」
僕がそう呟くとマリタイムは嬉しそうに「思い出してくれたんですね…トルー様。」と答えた。
訳が分からない。万が一、マリタイムがあの時のマリーだとしてもどうしてドレスなんか着て…?
「えっと…マリーがあの時のマリタイム様なの?僕はあの時、少女にこのハンカチを渡したけど…。」
「…はい、あの時の少女は私です。お恥ずかしい話ですが、当時の私は父親に"息子"として認識されていなかったのです。私の父は第1に魔力を重視する人でした。待望の長男である私が生まれ、跡継ぎも安心だと思った矢先、私が妹にさえ負ける実力ともなれば息子として、跡継ぎとして外に出すのが恥ずかしかったのでしょう。父は学校以外、私に女性の格好を強いる様になりました。よって、あの日トルー様の誕生パーティーも女性の格好をして参加せざるを得なかったのです…。そしてトルー様と出会ったあの日、私は連日、父や妹に馬鹿にされ心身共に弱っておりました。それに加え、同級生のからかいに心が折れ、とうとうあんなことを…。しかし、そのお陰でトルー様に出会えたことは後悔しておりません!入学式でぶつかった時も運命だと思いました。年齢的に私の在学中に学校で出会えるのは不可能だったにも関わらず、こうやって再会できた!長年、私が夢見てきた、やっと貴方に私が頑張った姿を見せれると…!それ以降はトルー様に会いたくて、会いたくて…!とうとう我慢できず、食堂では馴れ馴れしくも声を掛けてしまいました。今までの度重なる無礼な態度をお許し下さい。貴方に再会してすぐ貴方に思い出してもらえなかった哀しさからあんな態度をとってしまいました…。ただ、あの時の言葉は本心です!貴方の1番になりたい…。」
そう言ってマリタイムは頭を下げる。
「(そう言えば、いつの間にかマリタイムが敬語になってる…。トルー様って…様なんかいらないのに…。)
マリタイム様…頭を上げて下さい。別に怒ったりしていません。それに貴方を見てすぐに思い出せなかった僕にも非はあります。僕はあの時、15歳まで生きれるか分からないことに戸惑いを感じ、貴方に八つ当たりをした、だからこれでおあいこです。それに…こうやって貴方が頑張って今の地位にいることを知れて僕も嬉しいです。沢山、努力なされたのですね。ただ…僕もまだ15歳を迎えていないので今後どうなるか分かりません…。でも僕は生きる為に足掻きます。そして、その際はマリタイム様にご迷惑をおかけしないよう努力します、だから僕のことは放っておいて下さい。」
そんな僕の突き放した発言に「そっ…そんな…!」とマリタイムが涙ぐむ。
「マリタイム様に失礼なことを言ってるのは百も承知です。しかし、僕にとっては生きるか死ぬかの瀬戸際です。僕の気持ち、分かっていただけますよね…?」
「…ッはい!分かりました。…しかし、トルー様…ほんの少しでいいのです。私の為に時間を設けてはくれませんか?せっかくこうして会えたのにお話することも出来ないなんて…。」
そう懇願してくるマリタイムが何故か、あの時の幼い少女のマリーに重なり、僕は自然と手を伸ばした。




