あの日の出来事
「(やっぱり…?)」
彼の呟きの意図は分からないが、何か思い当たる節があるのだろうか。
「トルーはコレを覚えている?」
そう言って彼は水色のハンカチを取り出した。
僕はそれを見て記憶を遡らせる。
「(コレは確か…。)」
8年前…僕がまだトルーとしての人生を歩み始めたばかりの頃、僕の5歳の誕生日パーティーが行われた。この国は日本と同じ様に成長の節目にお祝いをする習慣があるらしく、僕もそれに当てはまった。
あの日の僕は父様に言われ、ステージの上で椅子に座りながら挨拶に来る人達にお祝いの言葉を貰っていたはず。
父様には「笑顔で座っているだけでいいからな。」と言われ、その通りにしていたと思う。
しかし、いくら転生している僕とはいえ、それを何十分も続けられると正直飽きる。僕は失礼だとは思いながらも父様とお客様が話している間、会場をキョロキョロと見渡し、人間観察をしていた。
その時、視界の隅に頭の悪そうな3人組の少年が1人の少女を追いかけ、ベランダに走っていくのを見つけてしまう。
僕は父様に「お手洗いに行ってきます。」.と立ち上がり、止める父様を振り切って歩き始めた。僕は色んな人を掻き分け、先程の少年達が走って行った場所へ急ぐ。
そして、ベランダに近付くとこんな声が聞こえ始めた。
「よく、この場に来れたな!」
「お前みたいなやつが来ていい場所じゃないんだよ!早く帰れ!」
「この男女!」
その罵声に居ても立っても居られなくなった僕は「おい。」と声を掛ける。
その時、少女の目元からは一滴の涙がポロリと溢れた。少年達もまさか誰かに見られていたとは思っていなかったのか、少し動揺している。
「何をしてるんだ、寄ってたかっていじめるのはやめろ。」
「なんだ、お前は!」
「関係ない奴は引っ込んでろ!」
「うるさいぞ、このチビ!」
なんて低レベルな発言だろうと溜息が出る。
「…僕は君達とは関係ないけど、今日という日にそんなことをする人達は見過ごせないな。そういう行為は貴族として恥ずかしいことだと分かった上でやっているの?」
その時の僕は苛立ちから自分の年齢を忘れて随分偉そうな態度で責め立てていた。
少年達はこんな年下の僕に指摘され恥ずかしそうに「もういい、行こうぜ!」と足早にその場を去って行く。
僕はそれを横目に少女に近付き、自分の持っていた水色のハンカチを差し出した。




