保健室
「(セイロンかな?)」と思っているとマリタイムが入ってきた。それには先生も驚いている。
「マリタイム君、今はまだ生徒会の仕事中では…?」
そう先生が声を掛けたにも関わらず、マリタイムは真っ直ぐと僕を見つめたまま「私のすべき事は終えましたのでご心配なく。フラン先生は私とトルーの貴重な時間を邪魔しないで下さい。」と淡々と告げる。
そんな失礼な発言をしたマリタイムだったが、先生は「…はい、分かりました。」と大人しく返事をすると保健室を出て行った。
「(えっ…なんで先生が敬語…?てか先生、出て行かないで…!)」と僕が戸惑っているとマリタイムがツカツカと近付いてくる。
僕と対峙したマリタイムは途端に雰囲気を変え「トルー…怪我の具合はどう?トルーが山道を落ちた時は私の心臓が止まりそうだったよ…。」と心配そうに僕の頰を撫でる。
「(えっ…何?ちょっ…近い!)」と僕は少し距離を取ろうとするがマリタイムはその態度に哀しそうな顔をする。
僕は未だにこの状況に頭がついていかないでいた。
先程のマリタイムの発言と先生の敬語。2人の関係はどういうものなんだろう…。
そんなことをグルグル考えていると彼はスッと手を下ろし「左腕の調子はどう?」と聞いてきた。
僕はパッと左腕を見つめ「あっ…はい、山道を落ちた後、気付いた時には既に折れていて…ん…あれ?痛くない…。」と自分の左腕を持ち上げた。ギプスらしき物もしていない。
「…良かった!光魔法を使える人に頼んでトルーの腕を治してもらったんだ!どう?指は動く?」
そう言われ、手のひらをグーパーグーパーと動かしてみる。本当に何事もなかったかの様に動くことに驚いた。
「…大丈夫そうです。マリタイム様が頼んで下さったんですね、ありがとうございます。」
と素直にお礼を言う。
しかし、マリタイムは途端にムッとした顔になり「トルー、私達の間に敬語は無しだよ。対等に話そう、敬語は禁止ね。」と告げてくる。
「あの…しかしマリタイム様は副会長ですし、先輩には変わりないので敬語は使わなくてはいけないですよ?」
そう一度、断ってみたが、副会長命令だ、と言われると断れない。
「…分かりました。でも敬語を使わないのは2人きりの時にして下さい。僕は学校で極力目立たず過ごしたいのです。僕のお願いも聞いてくれませんか?」
と言ってみる。こういう時は素直が一番だ。
案の定、マリタイムも了承の返事をくれる。
「…うん。分かった、じゃあ今後は2人きりになる時があるんだね。それなら許すよ。」
「えっ、いやそれは言葉の綾というか!とりあえずそれでお願いしますね!」
と揚げ足を取られたような形になったが、どうにか納得してもらえたようだ。
「あの…今更なんですが、マリタイム様、聞いてもいいですか?」
「…敬語をやめてくれたら良いよ。」
「…うん、わかった。僕とマリタイム様は何処かで会ったことがあるの?だからそんなに親しげに話してくるんでしょう?」
と僕は前から思っていた疑問をぶつける。
すると彼は静かに「やっぱり…。」と呟いた。




