怪我
皆、その声に立ち止まりシトロが飛び出して来た時には目を丸くした。
更にシトロが飛び出して来たのはちょうど僕とアンジェリカ様が歩いていた場所で、彼の傾いた身体は彼女とぶつかりそうになる。僕は思わず彼女を突き飛ばした。すると、その反動で僕がシトロとまともにぶつかってしまい、2人であっと言う間に山道の斜面に落ちてしまった。
僕はその時、何故かシトロに対して"守らなければ"という気持ちが働き、彼を抱き込む。きっと反射的に攻略対象である彼を庇わなければと思ったのだろう。
2人して斜面を転がる様に落ちていく。
落ちている最中は何も考えれず、背中や肩を打ち付け、ただただ痛みだけを感じていた。
そしてそれが止んだ頃、僕は彼を抱き締めたまま目を開ける。節々が痛くておもわず唸った。その声にシトロも「大丈夫か!?」と声をかけてくる。
僕は唸りながらも「…はい。」と答え、彼を解放する。彼は僕から這い出ると「ここは…?」と呟く。
すると上から「トルー様!シトロ様!大丈夫ですかー!」とセイロンの声が聞こえた。それに僕は大丈夫だ、と声をあげようとしたが、打ち付けた身体は思ったよりも重く咳き込んでしまう。その様子に代わりにシトロが「大丈夫だ!」と叫んでくれた。
セイロンはそれから「マリタイム様が助けを呼びに行ってくれています。少しだけそこで待っていて下さい!」と続ける。
僕はやっと上体を起こしたが状況は思ったよりも厳しい。
「(…左腕が折れてるかも…。そういえば落ちている時、左腕に何か固いものが当たってかなり痛かったような…。)」と他人事のように考える。
シトロはこちらを見ると「お前、怪我は!?」と聞いてくる。
この際、シトロには黙っている方がいいだろう。
僕は「左腕が少し痛いですが、大したことありません。それよりシトロ様は…?」と伺う。
「…俺はなんともない。誰かさんに羽交い締めにされていたからな。」
とツンっとした態度をとる。
「あっ…ああ、そうですね…失礼しました。僕の名前はトルー・バルサムです。シトロ様にお怪我がなくて良かったです。」
「そうか…お前も大したことなくて良かったな。」
「ええ、お気遣いありがとうございます。あの…良ければ助けを待つ間、あそこの木陰に行きませんか?
(流石にこの腕じゃあどうしようもないし休みたい…。)」
「わかった、あっちへ行くとしよう。」
そう返事をした彼はそそくさと移動し、僕もそれに続いて一歩を踏み出した。




