照れ隠し
「(さっきの何…?なんのイベント?そもそも僕と生徒会長は初対面だよね…。てか、僕の好感度は上がらなくていいからヒロインの好感度上げてよ…!僕、姉さんから話を聞いただけでここまでやってきたのにさ…あ~…ヒロインに口出ししたい…!)」
と僕は溜息を吐きながら帰りの馬車に乗り込む。
僕の帰宅時間が遅くなったことと疲れた様子にイモーテルは心配そうに告げる。
「トルー様…本日はいつもより遅かったようですが…。」
「あぁ…うん、今日始めて委員会があったんだけどね、その後、生徒会長に仕事を任されてさ…。それが思ったより大変だったからこんな時間になっちゃった…。」
「そうですか…それは大変でございましたね…。しかし、何故トルー様に?」
「それは僕もわからないんだよ。今日、初めて会ったのに…普通そんなこと頼まないよね?」
「…そうですね、私なら少なからずその方が仕事を任しても良い相手かどうか見定めてから仕事を頼みます…。」
「でしょう?はぁ~…今日は疲れちゃった…!イモーテル、膝貸して?」
「…ッ!勿論ですッ!私の膝で良ければ何時間でも!」
とイモーテルは相変わらず嬉々と膝を差し出した。
僕はいつもなら遠慮するこの行為だが、今日は有り難く甘えることにした。
その日の夜、珍しくブルーマリーが部屋に訪ねてきた。
「姉様?珍しいね、僕の部屋に来るなんて。」
と言いながらブルーマリーを部屋に招き入れる。
「たっ…!たまにはいいでしょ?久しぶりなんだから私のこと、もてなしなさいよ。」
「はいはい。」
僕は照れ隠しにそう告げるブルーマリーを微笑ましく思いながら紅茶を用意する。
きっとルート様の件でお礼を言いに来たんだろう。
しばらく2人でゆっくりお茶していると、ブルーマリーが唐突に口を開いた。
「…トルー、この前のルート様のクッキーの件…ありがとう…助かったわ。」
パッとブルーマリーを見ると顔を真っ赤にさせてそっぽを向いている。
僕はクスッと笑うと「いいよ、僕はこのまま姉様とルート様が結婚して欲しいと思ってるしね。これがキッカケで少しずつ2人の中が縮まると嬉しいな。」と告げる。
ブルーマリーはこちらを向き直すと「そっ…そうね…。ルート様、美味しく召し上がってくれたかしら?」と呟く。
僕はこの前のことを言うか迷ったが、ブルーマリーの為に伝えることに決める。
「うん、美味しそうに食べてたよ。姉様の前では食べるのが恥ずかしいからって僕の前で食べてたけど。凄く喜んでた。」
「そう!?それなら嬉しいわ!また次、何か作って差し上げなくっちゃね!?トルー、また手伝いなさいよ!?」
「うん、僕はいつでも…。姉様…幸せになってね。
(僕、最初は自分が没落ルート回避の為に奔走するって決めたけど、こんなブルーマリーを見たら本気で応援したくなっちゃうな。ゲームのこともあるけど、最後までブルーマリーのことを見届けよう…。)」
「何よ、急に!?私はルート様と幸せになるに決まってるんだから!」
とブルーマリーは息巻いていた。
次の日の昼休み、僕の教室にはあの人が現れた。
そう…ナルシストのグリーン・ランドモスだ。
彼はカツカツカツと僕の机の前に現れると僕の髪に昨日とは違うバラを差し込んだ。
僕は何が起こったか分からず、椅子に座りながらランドモスを見上げる。そして隣ではヒロインが目を見開いていた。
ランドモスは僕に手を差し出すと「さぁ昼食を食べようか、子猫ちゃん。」と告げ、僕が手を出せずにいると手首と腰を掴み、立ち上がらせた。
「(強引だな!)」と思いつつも教室には居たたまれないため、彼に着いて行く。
彼は僕の手を取り、更に腰に手を添えたまま悠々と歩いている。
僕はこの時、羞恥心で死にそうだった。




