委員会
「もう…ルート様、そんなこと言っても騙されませんよ!」
「えぇ~…本気なのにぃ~。」
とルート様は戯けていたが「やっぱり伝わってないか…。」という小さな呟きは僕の耳に入ることはなかった。
それから僕は念の為、ルート様に忠告をする。
「あの…ルート様…こんなこと僕の口からは言い辛いのですが、バイオレット様にはお気をつけ下さいね。」
「えっ?どうして?」
「…今は詳しく言えませんが後々分かると思います!とにかく気をつけて下さい!」
と僕の鬼気迫る様子にルート様は渋々「…?分かったよ。」と応えてくれた。
その後、僕達がたわいもない話をしていると「トルー!」と勢いよく扉が開き、サンバックが入室して来る。
僕は毎度のことなので驚きはしないが「兄様…せめてノックくらいはして欲しいな。」と呆れながら告げる。
サンバックは頬を掻きながら「ああ…すまん。またルート様といると聞いて、いてもたってもいられなくてな…。」と苦笑いで答える。
僕は内心「(僕のことを心配したところで僕がルート様に手を出すことなんかないんだけどね…。)」と溜息を吐いた。
サンバックはルート様の隣にドカッと座ると机の上にあるクッキーを指差し「これは…?」と言う。
するとルート様がニヤッと笑い「いいでしょ~?トルーの手作りクッキーなんだ~!僕の為に作ってくれたんだって~。」とサンバックに見せ付けるように告げる。
その瞬間サンバックが「何!?」と言って僕を睨んだ。
「(えぇ!?僕が悪いの?)」と僕がドギマギしていると「トルー…ルート様の言ってることは本当か?」と聞いてくる。
「(まぁ…手伝ったから手作りってことは合ってるけど…その通りにいったら余計誤解されちゃうよね…。)
手作りなのは本当だけど、兄様にも作ったよ?」
と勉強机に置いてあった包みをサンバックに手渡す。
すると途端に兄様はフフンッと勝ち誇った顔でルート様を見る。
ルート様は「もう…ネタばらししたら面白くないのにー…。もっとサンバックをからかわなくっちゃ。」と笑った。
そして次の試練は明日の委員会である。
明日は各クラスの委員長と副委員長、そして生徒会が集まり会議という名の顔合わせがある。
各学年は2クラスなので3学年で計12人、それに生徒会4人が集まり16人の顔合わせである。
確かゲーム内では主要人物だけの自己紹介がサラッとされ、そこに生徒会長とヒロイン、そして新しく攻略対象である先輩のスチルが現れる。
姉さんが「生徒会長のスチルがカッコいいのよ!」と叫んでいたのを覚えている。
「(新しい攻略対象…ナルシスト系だったか?2年のどちらかのクラスの委員長をしてたはず。ヒロインの可愛さに一目惚れし、自分と付き合うならこの人が相応しいとか言ってしまうイタイ人…。でも実は自分に自信がない為、カッコいい自分を演じてないと不安になるらしい…。もっとまともな奴いないのかよ!)」と思わずツッコミを入れてしまった。
次の日の放課後、僕とヒロインは委員会が行われる会議室に向かっていた。
「…バルサム様、緊張いたしませんか?」
「えっ…緊張ですか?
(なんで緊張するんだろ?)」
「だって1年生はともかく他の学年の先輩がたくさんいらっしゃるんですよ?」
「まぁ、そうですね…しかし僕達は1年生なので特に何も話すことはないんじゃないですか。」と他人事のように告げる。
するとヒロインは
「…ッ!バルサム様!甘いですわよ!学校に入っての初めての委員会!自己紹介があるに決まってるじゃないですか!その時、たくさんの方々にお会いして交流を深めなければならないのですよ!」
と興奮している。
「あっ…はい、そうですね…。バイオレット様はお美しいので、きっとたくさんの人に注目されると思いますよ。
(いや、僕は別に何でもいいから早く終わらせたいんだけど…。)」
僕のお世辞にヒロインは「えっ…そんなこと~。恥ずかしいですわ。」と頰に手を当て満更でもないように身体をくねらせる。
僕はそれを和かに見つめると会議室に到着したことを告げた。




