ヒロインの動向
その後、中庭に到着した僕達はベンチに座る。
「あの…オール様、日頃のお礼にコレどうぞ。」と僕はクッキーの包みを差し出す。
「…ありがとう。開けてもいい?」
「はい。」と僕が頷くとオール様は嬉しそうに包みを開けた。
「わぁ!クッキー?トルー君が作ったの?」と微笑む。
「はい、姉様と作りました。」
「え…ブルーマリー様と?どうしたの、急に?」
やはりオール様も急にブルーマリーが料理をすると驚くらしい。
「すみません。日頃のお礼に、というのは建前で最初はルート様に差し上げる為に作ったんです。僕は料理をしたことがない姉様の手伝いをしました。でも、日頃の感謝の気持ちは本当ですよ?」
すると、すぐに状況を理解したオール様は
「…そうだったんだ。うん、ありがとう。大事に食べるね。」
と応えた。
僕は横でゆっくりとクッキーを食べるオール様を見ながら昨日のフランさんとイモーテルのやり取りを思い出す。
その時、ふと笑いが込み上げ、フフッと笑うと当たり前だがオール様が「どうしたの?」と尋ねてきた。
僕は昨日のやり取りを掻い摘んで説明する。
するとオール様までもが「じゃあ僕もお願いしたいな…。」と遠慮がちに強請られ、結局全て僕がアーンで食べさせる羽目となった。
それからオール様と別れた僕は屋敷に帰宅する。
するとそこには嬉しそうなブルーマリーの姿が。
思わずブルーマリーに話しかけた。
「姉様、ルート様にお渡しできたのですか?」
「…ええ。最初は驚いていましたが、喜んで受け取って下さいましたわ。ありがとう、トルー。」
と久しぶりのブルーマリーの素直なお礼に僕も嬉しくなった。
「これからもルート様と仲良くなさって下さいね。」と念押しするのも忘れずに。
僕が部屋で休んでいると扉がノックされる。返事をすると来訪者はルート様だった。
不思議に思いながらも中へと促すとルート様は開口早々「コレ、トルーが言ったの?」とテーブルにクッキーの袋を置いた。
それは昨日、ブルーマリーが時間をかけてラッピングしていたクッキーである。
肯定すると「やっぱり…。」と呟かれた。
「何かいけませんでしたか?」
「…いや、ダメってわけじゃないんだけど急にこんなプレゼントされたら何かあるって思うじゃない?それにブルーマリーのことだから大丈夫だとは思うけど、私は基本、人から物を貰っても口にしないんだ。」
その瞬間、この人の立場を思い出した。
「(ああ…そうか…毒が…。)
…考えが至らず、すみませんでした…。」
すると「いや、いいんだ。トルーが手伝ったって言うんだったらコレ食べるよ。」と1つを口に入れる。
「あっ…!ルート様!それでいいんですか?」と若干、呆れながら告げる。
この人は僕に対する信頼度が高すぎだ。
「いいんだよ、私はトルーのことを信頼してるからね。…さぁ、トルーも手伝って、私1人じゃこんなに食べきれないから。」と笑うルート様につられて僕も笑うと「…ありがとうございます。」とクッキーを頬張った。
それから僕が紅茶を淹れ、暫くティータイムを楽しむ。
僕はここぞとばかりに今日の出来事を尋ねた。
「ルート様、今日の授業は如何でしたか?」
「ああ、今日はトルーのクラスの授業だったね?1人やたらと積極的なご令嬢がいたよ。」
「それは…?」
「たしかニア・バイオレットだったかな?」
「(やっぱり…。)」
僕はさり気なく彼女の動向を窺う。
「それは良かったですね、彼女に魔法の才能はありそうですか?」
「そうだねぇ…まだまだ魔力のコントロールは下手だけど、魔力だけ見たら高いからこれから鍛えれば強くなるかもね。」
「(たしか…このままルート様に狙いを定めるとマンツーマンで教えてもらえて、好感度が上がるはず。それにルート様率いる騎士団とある討伐に参加して一気に好感度が上がるんだ。姉様が「ココが大事なのよ!」と叫んでた…。)」
僕が1人考え込んでいると「何?彼女が気になるの?」と聞かれる。
「えっ!?いや、そうではないのですが…ちょっと…色々ありまして。」と答える。
ルート様は「ふーん。」と言いながら「トルーに気にしてもらえるなんて羨ましい。」と零した。




