乙女ブルーマリー
その日の放課後、僕は図書館に足を運ぶ。
ヒロインが図書館に行くかもしれないという予想もあったが、それよりもオール様が気になったのだ。
僕は図書館の扉を開けるとオール様を探す。
「オール様。」
「あっ…トルー君、こんにちは。」
「お久しぶりです、ここで会うのは初めてですね。」
と声を掛けた。
何故僕がこんなにもオール様と親しいのか、それはルート様経由で知り合いになったからだ。
ルート様はしょっちゅう僕の屋敷を訪れる際にお菓子と面白い話を聞かせてくれる。
僕からすればこの世界は魔法も有りのファンタジーそのもの。歴史や伝統、文化など面白いことが沢山ある。日本にいる頃は日本史とか世界史とかあまり興味はなかったが、この世界のことなら沢山知ってみたいと思ったのだ。
その流れで同じ歴史好きのオール様を紹介してもらい、お互いに歴史話に花を咲かせたというわけだ。
「オール様、今日下級生と授業されましたよね?如何でしたか?」と僕が窺うとあからさまに動揺している。
オール様は「あぁ…うん、とても明るい女性とペアになったよ。」と苦笑いで応えた。
僕は思わず「フフッ、そうですか。良かったですね、あまりオール様の周りで女性関係の話を聞いたことがなかったので僕からすれば新鮮です。」と笑う。
すると慌てたように「あの!トルー君…勘違いしてたら嫌だから言うけど…僕には昔から心に決めた人がいるからね?」と衝撃的なことを告げる。
「えっ!?そうなんですか!?それは知らなかったです…。」
と僕は単純に驚いた。
「(えぇ~…じゃあヒロインの攻略対象が1人いなくなっちゃうのか…?でもオール様がヒロインの被害にあわなくて良かった…。)」
「だから、今日ペアになった女性と今後も僕はペアを組むけど勘違いしないでね?」
「あっ…はい、わかりました。勘違いしてすみません。」
その後はお互い少し気まずい雰囲気が流れたが好きな歴史話になるとすぐに楽しい時間となった。
そして帰り道、僕は次の攻略対象のことを考える。
「(たしか…次こそルート様だったはず…!明日も光魔法の授業があるから…ブルーマリーも心配だけどルート様には頑張ってもらいたい!)」
僕は馬車内で気合いを入れる。
イモーテルはそれを不思議そうな顔で見ていた。
帰宅した僕は早々に宿題を終わらせ、ブルーマリーの部屋を訪れる。少しは機嫌が直ってるといいのだが…。
「姉様、トルーです。少しお時間宜しいですか?」
しかし姉様はドア越しに「今、忙しいの、後にして下さる?」と言ってくる。
僕は必殺技の「ルート様のことなんですが…。」と告げる。すると途端にドアがバンッ!と開き、ブルーマリーが「どうぞ、中へ。」と促してくれた。
僕は「ハハッ。」と笑いソファーに腰掛ける。
「…それで、ルート様のこととは?」と早速聞かれた。
僕はその必死な姿を微笑ましく思うと
「実は…少し前になるんですが、ルート様が"チョコクッキー"が食べたいと仰ってまして…ルート様の婚約者である姉様が作って差し上げたらどうかと。」
とアドバイスする。
ブルーマリーは驚いた表情で「チョコクッキー…ですか。私も作って差し上げたいのは山々ですが、私が料理をしたことがないのはトルーも知ってるでしょう?」と告げる。
「ですから、それは僕も料理長もお手伝い致します。姉様もルート様に何かしてさしあげたいのではないですか?
(それで、2人は仲良く結婚して下さい!)」
「…そうですね…最近はなかなかルート様に会えておりませんし…せめて手作りのお菓子でもお渡ししたら喜んでくれるかしら?」
と恥ずかしそうに笑う。
「(おぉ!ブルーマリー!ルート様に関しては乙女だな…。)
きっと、喜びますよ!頑張りましょう!」
と僕はガッツポーズをした。