攻略対象3人目
僕がそう決意した次の日、ブルーマリーはいつも以上に機嫌が悪かった。
朝食の席でもブルーマリーは不機嫌さを前面に出し、皆気を遣って誰も喋らない静かな食卓となった。
理由はだいたい分かっている…。
昨日、ルート様に会えなかったからだ。
僕が昨日、ルート様に挨拶をして暫く経った頃、ルート様が来訪している情報を聞きつけたブルーマリーはサンバックの部屋を訪れたらしい。
しかし、その数分前にルート様はブルーマリーを避ける様に屋敷を後にしたことでブルーマリーはルート様に会えず仕舞いとなった。
そのせいでブルーマリーは朝から不機嫌である。
学校に着いてからもブルーマリーは不機嫌オーラ全開で誰も寄り付いていない。先生でさえ、若干気を遣うほどだ。
僕はブルーマリーも気になるところだが、それ以上にヒロインも気になる。
昨日の発言以来、ヒロインが何を仕出かすか僕は姉さんの記憶を頼りに後をつけなければならない。
しかし、僕の記憶によると次にヒロインが出会うのは授業で出会う先輩だ。なので同じ属性ではない僕はヒロインの授業に着いていけない。そこは仕方無しに授業が終わり次第、見に行くしかないだろう。
僕はドキドキしながら自分の授業が終わるのを待った。
それから僕の方の授業が終わり、急いでヒロインの元へ向かう。
「(ハァ…ハァ…!)」と息を乱しながら駆けていくとちょうどヒロインが先輩と別れるところだった。
この世界は光魔法を使える人は貴重な為、学校でも使える人は少ない。なので、光魔法の人だけが先輩からマンツーマンで教えて貰えるという特徴がある。
今回もそれでヒロインは攻略対象である先輩に出会うのだ。
この先輩は物腰が柔らかく、常に敬語。そしてヒロインが悪役令嬢に色々されている時に庇ってあげたり相談に乗ってくれるらしい。
ヒロインがこの人をターゲットにする場合、図書館によくいるのを利用して、事あるごとに図書館へ行くとこの人との好感度が上がる。更にこの人の好きな歴史について話をもっていくといいらしい。
そして、この人を攻略する上で1番大事なのは"積極的であること"だ。
この人はその性格から、なかなか積極的にこちらにアピールはしてこない、なのでヒロインの方から積極的にいく必要がある。しかし"常識的な範囲"でだ。姉さんは攻略本をよく読んでいなかったせいか、積極的に行きすぎて逆に引かれたらしい。
僕に説明する時も「適度にって大事よ!」と言ってきた。その時は「(別にするつもりないからそんな情報はいらないけど…。)」と思っていたが、今はその情報がありがたい。
姉さんは優しい人がタイプらしく「オール様は地味だけど包容攻め最高ー!」と興奮していたのを覚えている。
僕はそんなことを思い出しながらヒロインの動向を見つめた。
ヒロインは飛び切りの笑顔でオール様にお礼を言う。
「オール様!先程はありがとうございました!」
「いえ、先輩として当たり前のことをしたまでです。」
「そっ…それでお礼に宜しければ、一緒にお茶でも如何ですか?」
とヒロインが恥ずかしそうにモジモジしている。
僕は「(ヒロインのバカー!積極的すぎる!)」と心の中で叫んだ。
案の定、オール様はその発言に驚くと「いっ…いえ…結構です!」と走り去ってしまった。
ヒロインは走り去った先輩の後ろ姿を呆然としながら眺めると、持っていた教科書を地面に叩きつけた。
「なんで!?攻略本に積極的に、って書いてたじゃない!?」
と叫ぶ。
「(あぁ…姉さんと同じ失敗をしている…。)」と僕は項垂れた。