開かずの引き出し
僕はイモーテルに手を引かれるまま、彼の部屋に移動する。涙が止まらない。
「トルー様、あまりゆっくりは出来ませんが荷物を纏めてまいります。その間だけ暫しお待ち下さい。」
僕は嗚咽交じりに頷くと彼の準備が終わるまでベッドに腰掛けた。そして数分で準備が整い声を掛けられる。
「トルー様…申し訳ございません…。サンバック様の記憶が戻ると踏んでいたのですが…。」
そう言って彼は落ち込んでいたが、勿論彼のせいではないことは分かっている。
「ううん…イモーテルのせいじゃないよ…。兄様に思い出してもらえなかったのは悲しいけど、どうしようもないことだから…。今後、皆の記憶がどのタイミングで戻るか分からないし、このまま戻らないかもしれない…。それならいっそこのままイモーテルと2人で過ごす方がいいと思う…。」
「…いいのですか?私個人の気持ちを言えばトルー様と共に過ごしていけることは大変喜ばしいですがトルー様は…。」
「仕方ないよ…だって僕はこの家からしたら知らない人なんだもん。そんな人を住まわせるなんておかしいでしょう、だからもう…いいんだ。」
僕の諦めたが伝わったのか「…分かりました。では、参りましょう。」とイモーテルが手を差し伸べてくる。それに手を置くとイモーテルがドアの方へ振り返った。その瞬間、何かが絨毯へ落ちる。
「イモーテル…何か落ちたよ?」
僕は光る何かを拾い彼に手渡そうとした。
「(鍵…?)」
「それは…鍵ですか?」
「えっ…イモーテルのじゃないの?」
「いえ…私のではありません。見覚えもありませんし…。」
僕は鍵をジッと見つめる。
そういえば、忘れてたけど僕の部屋に開かずの引き出しが…まさか…。
「あの…イモーテル、コレ持って行ってもいい?僕の部屋に…あっ、兄様が居るんだった…。」
どうしよう…戻り辛い…。
「…一度様子を見てみましょう。いらっしゃるようなら戻れませんが、もう出られているのなら中に入れます。」
イモーテルはそう言うと荷物を持って再び歩みを進めた。僕もそれに着いて行き、再び自室の扉を開ける。運良く既にサンバックは居なくなっていた。
「イモーテル、実はこの引き出しだけ鍵が見当たらなくてずっと閉まったままだったんだ。もしかしたらその鍵がここに合うかもしれない。」
僕はそう言いながら鍵を突っ込む。
「あっ!はまった!」
鍵を時計回りに回すとカチッと音がする。僕はドキドキしながら引き出しを開けた。