忘却
その時、扉がノックされる。
「…サンバックだ。イモーテル、緊急とはどういう内容だ?」
その声に緊張が走る。とうとうサンバックと対峙しなければならない。僕の様子にイモーテルは安心させる様に微笑むと僕から身体を離し自ら扉を開けに立った。
「突然、お呼び立てして申し訳ございません。サンバック様に会っていただきたい方がいらっしゃるのです。」
「客人か?そんな予定は無かったが…。それにこの部屋は一体…?」
そう言ってイモーテルの影からサンバックが出てきた。僕と目が合っても反応は薄い。彼は僕をジッと見つめた後「初めまして?になるのか…。何処かで会ったことが…?」と告げる。
その言葉に僕は絶望する。
やっぱりあの時、リセットされてしまったんだ…。
僕はポツリと「兄様…。」と呟く。その声は静かなこの部屋では十分に響き、彼の耳に伝わった。するとサンバックは突然頭を押さえ、唸り声を上げながら膝をついた。
「ゔっ…頭が…!」
慌てて駆け寄る。
「大丈夫⁉︎」
しかし「触るな!お前は誰だ⁉︎俺に何をした⁉︎」と怒鳴られてしまう。そして「イモーテル…お前までグルだったのか…!」とイモーテルを苦々しく睨むと再び唸り出す。
僕はショックで身体を震わせ、彼に伸ばした手を引っ込める。
「(僕…やっぱり戻ってこなかった方が…。)」
そう後悔の念に囚われていると「トルー様、私と共に行きましょう。」とイモーテルが告げる。
僕は彼に手を引かれ、扉の近くまで来る。そしてこれが話せる最後であろうサンバックに向かって涙ながらに叫んだ。
「兄様、僕はトルー・バルサム!正真正銘、貴方の弟だ!兄様は覚えてないかもしれないけど僕には貴方との思い出がいっぱいある!僕がテストで困っていれば勉強でも剣術でもなんでも教えてくれた!僕が落ち込んでる時には大好きなチョコレートもくれたし、頭を撫でてくれた!僕…僕は兄様に忘れられても僕は忘れない!僕にとって貴方は自慢の兄様だから!さようなら!兄様!もう会えないかもしれないけど、今日のことは忘れて!不快な思いをさせてごめんなさい!」
僕はそのまま彼に背を向ける。そして扉が閉められると共に唸るサンバックの姿は見えなくなった。