回想
「それから私1人で出来る限り捜索を続けました。ですが、やはり1人で捜索を続けるには限界があり、泣く泣く断念しトルー様の帰りを待つ日々を過ごしておりました。そしてこのお部屋…唯一トルー様との思い出が残るこの部屋だけは旦那様に頼み込んで残して頂きました。その時程このお屋敷の広さに感謝した日はありません。」
「…そうだったんだ…ありがとうイモーテル、最後まで僕のことを探してくれて…。でも大丈夫だった?僕のことが忘れられたのならイモーテルの仕事がなくなったんじゃ…?」
しかし、彼は静かに顔を振ると「それでしたら心配ございません。」と告げる。
「トルー様の従者ではなくなりましたが、お屋敷での仕事は沢山ございます。それを手伝いながらトルー様の帰りをお待ちしておりました。」
そう笑顔で告げる彼は本気で僕が戻ってくるのを信じて疑っていないようだった。
「…イモーテル…本当にありがとう。君がいてくれて本当に感謝してる。この2年間、辛かったでしょう…?いつ帰ってくるか分からない僕を待つなんて途方も無いこと…。」
僕は涙を溜めたまま御礼を告げる。すると彼は僕の前に跪き、手を握るとこう続けた。
「いいえ、私はトルー様が帰って来て下さると信じておりました。勿論、全く辛くなかったと言えば嘘になります。ですが、この部屋で貴方と過ごした10年以上の月日は私の全てであり、貴方の存在が確かにあったことを表す希望でした。ですから、トルー様が気に病む必要はありません。それにこうやって戻って来て下さった…。」
彼は僕の存在を確かめるように頰に手を添える。
「…トルー様、私は今から貴方にとても酷いことを言います…。私はもしかしたらサンバック様やルート様が再び貴方と会えば、トルー様のことを思い出して下さるのではないかと思っています。しかし…心の何処かでこのまま彼等の記憶が戻らなければと思ってしまうのです…そうなれば貴方のことを知る者はこの世で私だけ…一生、貴方と共にいれる。そんな浅ましいことを考える私をお許し下さい。ですが…もし…もしも…本当に彼等が記憶を取り戻さなければ私と共にこのお屋敷を出て一緒に暮らしませんか?」
彼が真剣にそう訴えてくる。
「私は今後どんなことがあってもトルー様を忘れません。それにこれから一生、貴方の手を離さないと誓います。どうか…どうか私の願いを叶えてもらえませんか?」
今まで僕を優先し、自分のことは後回しにしてきたイモーテル。彼がここまで言うのはこれが彼の想いの丈全てなんだろう。前々からイモーテルの気持ちを知っていた僕だが、このタイミングで応えていいものか悩む。
しかし、僕は頷いた。
正直言うと彼のことを100%好きというわけではない。しかし今までお世話になった恩もあるし、彼となら今後一緒にいて好きになれそうだと思った。それにここまで熱烈に言われて彼に気持ちが傾かないわけがない。同情…と言われるかもしれないが、勿論それだけではない。元々、イモーテルのことは好きではあったし、漠然と彼と付き合ったら上手くいくような気持ちもあった。だから今は僕の気持ちよりも彼の気持ちを優先しようと思う。
「…僕で良ければお願いします。」
僕の返事に彼は嬉しそうに僕を抱き締めた。