記憶
「どちら様ですか?」
中から声が聞こえる。イモーテルの声だ!
「僕だよ!トルー!トルー・バルサム!イモーテル開けて!」
すると勢いよく扉が開く。
「そんなイタズラはやめ…!」と、大声を出した彼と目が合う。お互い暫く沈黙が続く中、固まっているイモーテルを僕はマジマジと見つめた。記憶の中の彼は黒髪長髪だったはずが、今は肩までの長さに短くなっており前と変わらず燕尾服を着ている。
「イッ…イモーテル…?」
固まっている彼を窺うように声を掛けると彼は「…トルー様…なのですか?」と呟く。なんとか僕のことを分かってくれたようだ。
「うん!うん!僕だよ!」
僕は彼が存在していたこと、自分を覚えてくれたことに安堵し、笑顔を作る。そして今更ながら自分が透の姿ではないことに気付いた。
「(良かった…コッチの世界に来て、ちゃんとトルーの姿に戻ってたんだ。)」
しかし、イモーテルの様子がおかしい。僕のことはトルーだと分かってくれた様だが、疑わしげに僕のことを見ている。
「イモーテル…?僕、何か変かな…?」
僕は鏡を見たわけではないので顔までは分からないが、自分の服装などをチェックする。あの時、ヒロインに魔法をかけられた時と同じ服装だ。
「いっ…いえ…そうではないのですが…トルー様の姿が2年前…行方不明になった時から変わらないのです…。」
「えっ⁉︎そうなの⁉︎鏡!鏡見せて!」
僕は驚きながらもイモーテルに案内され、洗面所に移動する。鏡に映った自分はあの時のまま…彼の話が正しければ僕は成長せずに止まっている状態だ。
「イモーテル…さっきから気になってたんだけど、僕が居なくなってからどれくらいの月日が経っているの…?」
嫌な予感がする…。
「…あれから2年以上は経っています。トルー様が居なくなってから…様々なことが起きました…。トルー様、今から説明致しますのでどうぞ、こちらへ。」
僕はイモーテルと共に自分の部屋へと移動する。中は"2年前"と同じままだ。
「(僕からしたら2~3日しか経ってないんだけど…。)」
ソファーに座り、彼に紅茶を淹れてもらう。
「…こんな悦ばしいことはありません。昔の様にトルー様にご奉仕できるなんて…。懐かしいです。」
彼は僕を見つめたまま目に涙を溜め、そう告げる。
「イモーテル…。」
「もっ…申し訳ありません…泣くなんて従者失格ですね…。トルー様、トルー様の帰還については先程、使いの者を走らせました。きっと直ぐに皆様、駆け付けて下さいます。今暫くお待ち下さい、その間、私がこの2年間のことをご説明します。」