別れ
「兄様、ルート様、彼女の目的は僕です。このままでは全員殺されてしまいます。それなら僕が行かないと…今更ですが、兄様、ルート様、今までお世話になりました。父様、母様、姉様…それにイモーテルにも宜しくお伝え下さい…。」
思いの外、簡素な挨拶になってしまった。本当はもっとお礼も言いたいし、抱き着いて死にたくないと泣いて縋りたい…でも今はそんな時間は無い。
僕なりに最期は精一杯、笑顔を作って挨拶をした。
「トルー!これが最期みたいな言い方をするな!」
「そうだよ!ここは私がどうにかするから諦めるな!」
「どうするの?トルー・バルサム。このまま3人共死ぬか2人を助けるか。」
「そんなの決まってる!僕だけで十分だ!」
「そう、潔いわね。じゃあとりあえず止めてあげるわ。」
そう言った彼女は魔法を使うのをやめる。僕が一歩前に出ると不意をつかれたサンバックとルート様が吹き飛んだ。
「ウッ…。」
「クソッ…!」
2人は壁に背を打ち付けると唸り声を上げながら座り込む。
「2人には手を出さないで!」
「分かってるわよ、煩いから黙ってもらっただけ。アンタを消したら私の好きなようにさせてもらうから。フフッ…計算は狂っちゃったけど、これで2人は私のモノ…じゃあ、アンタには消えてもらうわ。さようなら。」
「「やめろ!!!」」
僕は覚悟を決め、訪れる衝撃に目を瞑る。そして身体全体に衝撃を受けると、そのまま意識を失った。
「…る!透!」
…僕を呼ぶ声が聞こえる。
「コラ!起きろ!」
バシッ!
「痛っ!」
頭を叩かれ飛び起きる。すると目の前には呆れた顔の姉さんが居た。
「えっ…姉さん?」
「何よ、驚いた顔して。リビングで寝てるアンタが悪いんじゃない。」
「えっ…ルート様とサンバックは⁉︎」
「はぁ?何?透もあの乙ゲー、ヤル気になったの?それならそうと早く言いなさいよ!喜んで貸してあげるわ!」
そう言って姉さんはバタバタと2階へ上がっていく。僕は周りを見渡してココが前世…と言ったら適当なのか分からないが、元いた実家であることは直ぐに理解できた。
「(ちょっ…ちょっと待って⁉︎今、何年の何月何日⁉︎)」
僕は急いでテレビをつけ日付を確認する。
2018年3月2日(金)
「(僕が異世界で記憶を取り戻した日がいつだったか思い出せないけど…こっちではこれが普通なんだ…。あっ!)」
次に立ち上がると洗面所に走る。鏡に映る自分はトルー・バルサムではない、17歳の大平透だ。
「僕だ…確かこんな顔だった…。」
僕は懐かしくなり顔を触る。
「透ー!何処行ったのー!乙ゲー置いとくわよー!」
姉さんの大声が聞こえ慌ててリビングに戻った。ゲームの表紙を見ると僕の記憶通りのパッケージがある。
「…姉さん、コレの攻略本って持ってたよね?」
「あるわよ。透、そんな本格的にヤル気になったの⁉︎姉さん嬉しい!」
姉さんは「ちょっと待ってて!」と言い、再び2階に上がっていく。僕は表紙を見つめながら何故かこのゲームを最後までやり遂げなければと感じたのだった。