療養
彼は僕の涙に驚いているようだったが、抱き締められない代わりに僕の手の甲に口付ける。
「ありがとう…イモーテル、元気でたよ。」
僕は彼に安心して貰えるよう微笑んだ。
「…トルー様、今日はこのままお部屋でお過ごし下さい。事情は私の口からご家族にお伝えします。 ご夕食もこちらに運ばせていただきますので。」
「うん、兄様が帰ってきたら部屋に呼んでくれる?僕からも説明するから。」
「畏まりました、では私は失礼します。ごゆっくりお休み下さい。」
そう言ってイモーテルは頭を下げると部屋を出て行った。僕は彼を見送ると大人しく目を瞑る。
次に僕が目を覚ましたのは部屋をノックする音だった。
「はぁ…はぁ…トルー!俺だ、開けてもいいか?」
この声はサンバックだ。息が乱れている、急いで来てくれたのだろうか?
どうぞと返事をすると急いでベッドサイドまでやって来た。
「イモーテルから聞いた、バイオレットが襲撃してきたと…!」
サンバックの表情は鬼気迫るようで少し怖い。しかし、それだけ心配してくれたのだと僕は身を起こし、彼を落ち着かせるように「僕はなんともないよ。」と手を握った。
「しかしッ!バイオレットは謹慎中にも関わらず、それを抜け出してトルーの元にやってきたんだぞ⁉︎よっぽどの理由がないと…!」
彼は必死になるあまり僕の手を握り返すとそのまま僕を抱き寄せる。
「とにかくトルーに何もなくて良かった…。お前の身に何かあったら俺は…!俺はあの女を許せない…ッ!」
頰が彼の胸に押し付けられ、心臓の鼓動が聴こえる。ドクンドクンと波打つ速さに緊張感が伝わって来て僕は思わず「兄様…くるしい…。」と告げた。
彼は少しだけ抱擁を緩めると「ああ…すまない、きつく抱きすぎた。本当になんともないのか?イモーテルの話ではお前が座り込んでしまったと聞いたが…。」と心配そうに告げる。
「ううん、気が抜けて座り込んだだけ。僕よりイモーテルの方が魔法を使われて身動きがとれなくなってたから…。」
すると見る見るうちに彼は目を見開く。
「なんだと⁉︎それじゃあ人に危害を加えたということか⁉︎そうなると状況が変わってくる…ルート様に報告しなければ…。」
そう言って彼はブツブツと独り言を言い始めた。僕は1人の世界に旅立ってしまった彼を見つめる。
「(サンバックってやっぱり僕とブルーマリーとは血が繋がってないからあんまり似てないな…。身体付きも僕がどう頑張ってもこの身体にはなれそうにないくらい逞しいし、短い黒髪は綺麗に切り揃えられていて緑の目も神秘的で美しい。)」
僕は彼が1人の世界に旅立っていることをいいことに彼の身体をするりと撫でた。