逃走
その時、イモーテルの身体が硬直したように動かなくなる。
「うっ…ぐっ…トルー様!お逃げ下さい!」
「イモーテル⁉︎」
彼の様子にヒロインが何かしたのかは一目瞭然だった。
「バイオレット様!やめて下さい!」
「煩いわね!そいつがグチグチと煩いからでしょ⁉︎…これでアンタとゆっくり話せるわ…ねぇなんで早く迎えに来ないの?そういう設定?それにしては最悪な設定ね、アンタが早く来ないから私の貴重な半年が無くなっちゃったじゃない…私にはあと2年しかないの、それにまだ謹慎も解けてないし、限られた時間でこれからどうにかしなくちゃならないわ、アンタは分からないだろうけど、それぞれの好感度を上げるってホント大変なんだから。特にルート様と生徒会長は一筋縄ではいかないの、接点を増やして頑張らないとハッピーエンドにはならないしオール様だって積極的にいかなきゃ…あっ!あとサンバック様だって…「ニア!!!」
その声にヒロインは振り返ると「キャア!お父様!」と叫ぶ。彼女は慌てたように周りをキョロキョロ見渡すと「覚えてなさい!」と言って足早に立ち去った。
僕は気が抜けた様にへなへなとその場に座り込み呼吸を整える。
イッ…イモーテルは⁉︎
その時「トルー様!」と動けるようになったイモーテルが近付いてきた。
「お怪我は⁉︎」
「いや…大丈夫…気が抜けただけ…。何もないよ、それよりもイモーテルは⁉︎どこも怪我してない⁉︎」
僕は側に座るイモーテルの身体を観察し確認する。
「いえ、私は大丈夫です。先程、魔法で身体の自由は奪われましたが、それだけです。」
「そっか…良かった…。」
イモーテルは僕の肩をソッと抱くと立ち上がらせた。
「バルサム様!お怪我はありませんか⁉︎」
慌てたようにバイオレット男爵が走ってくる。
「ええ、なんともありません。」
男爵はフゥと安堵の溜息を吐くと「誠に申し訳ございません!このお詫びは必ず!恐れながらニアを追わせて頂きます!それでは!」と言って頭を下げるとヒロインを追いかけて行った。