説得
その日、帰宅したサンバックにヒロインのことを尋ねる。彼の口にした内容はほとんどセイロンと同じことだったので、彼女のその後の処遇を窺うことにした。
「兄様、バイオレット様はどうなるの…?もしかして退学…?」
僕は後に訪れるルート様暗殺計画のことが心配で彼に縋る様に尋ねるとサンバックは難しい顔でこう答えた。
「いや…今の段階では休学もしくは自宅謹慎だろうな。退学という選択肢がなくなったわけではないが、辛うじて"誰かに怪我を負わせた"わけではないことが可にされた結果だ。」
そうか…ヒロインは今回、自分に攻撃をして被害者を装った。新入生歓迎会の時も窃盗をしたという点では決して褒められたものではないが、誰も傷つけてはいない。そりゃ僕の原因は未だに分からないけど、証拠がないならヒロインを疑うのも悪いことなのかもしれない…。
僕は安堵しながら更に尋ねる。
「ルート様はなんて言ってるの?」
「渋々だが証言を信じるしかないと…。ただ未だにトルーの件は疑っているぞ、それは俺も同感だが。」
「…でも、僕のは原因が分からないよ?ただ疲れが出たのかもしれないし。」
「またお前はそんなことを…。それにしてはタイミングが良過ぎるだろう?お前はもっと危機感を持て、あの女は危険だ、嫌な予感がする。」
サンバックは呆れながら語尾を少し強くする。
僕は「わかったよ。」と応えたが、彼は僕の返答に納得しなかったのか、こちらに身体を向き直すと「本当に分かってるのか。」と念押ししてきた。
「分かってるよ~!」と再び応えたが彼にまで信じられないと言われる。
「お前は分かってる、と言いながら結局人の言うことを聞かないからな。俺はお前が本当にあの女と関わっていないのを確認するまで信じない。」
僕は彼の言うことが正論すぎて何も言い返せないでいた。
「あっ…うっ…。」
「ほら見ろ、何も反論できないだろう?どうせ何だかんだ言ってあの女に関わろうとするんだ。」
「だっ…!だって!彼女が心配なんだよ!」
「じゃあ自分のことはどうでもいいって言うのか?俺もルート様もお前を心配している、お前は俺達とあの女、どっちを取るんだ⁉︎」
だんだんとヒートアップしていく会話に僕は黙り込む。そして頭の中で処理しきれなくなった僕はいけないと分かりながらも流れる涙を止められなかった。