お願い
それから自宅に着いた僕は自室で宿題を終わらせ、サンバックの帰りを待つ。
「(…ヒロインのことだからきっとシラを切ってるだろうなぁ…。)」
事情聴取を行なっているというルート様や他の先生達の苦労を思うと溜息が出た。
その夜、きっと帰ってくるのが遅くなると想定した僕はいつもの寝る時間帯にサンバックの部屋を訪ねる。すると彼は既に帰宅しており寝間着姿だった。
「兄様、おかえりなさい。もう帰ってたんだ?」
「ああ…夕食には間に合わなかったが、その後に帰宅した。」
「そっか。なら早めにバイオレット様のことを聞きに来ればよかったな。」
僕がそう言うと彼はハァ~と溜息を吐き「それがな。」と口を開いた。
彼の話によると案の定、ヒロインは影のことについてシラを切っているらしい。魔力という証拠があるにも関わらず頑なに理由を述べない。始めはルート様も穏便に事情を聴いていたそうだが、終いには話にならないと怒って帰ってしまったらしい。
「それから報告書を纏めて帰ってきたところだ。」
サンバックもその時のことを思い出しているのか苦笑いで答える。
「…兄様、僕が会いに行「ダメだ。」
彼は容赦なく僕の発言を却下した。
そりゃそうだろう、僕もスムーズに進むなんて思ってもなかったが、こんなにも否定されるとは思ってなかった。
「でも…。」
「ダメだ、トルーお前はバイオレットに何かされたかもしれないんだぞ?次は倒れるだけじゃ済まないかもしれない…。そんな危険な場所に俺が連れて行くと思うか?」
「いや…そうは思わないけど…。」
「なら、この事件が解決するまでバイオレットには近付くな。いいな?」
「うっ…うん。」
「ほら、もう夜も遅い。部屋に戻って寝るんだ。」
サンバックはもう言うことはない、とばかりに僕に背を向ける。
でも、僕はどうしてもヒロインの動向が知りたい。
「じゃあ!兄様、お願い!バイオレット様が何か供述したら教えて!」
僕はその背に向かって声を掛ける。すると彼は仕方ないな、という顔で「分かった。」と告げた。
次の日からいつもと変わらない日常が過ぎて行く。
今日であの事件が起きてから2週間目。この頃になるとテストの結果も貼り出され、僕はなんとか上位3名に入ることが出来た。いつもと違うのはヒロインが登校してないこと。僕の席の隣は空席なのが当たり前のようになっていた。