決意
僕の名前は大平 透。
いたって平凡な男子高校生だった…だったというのも僕はファンタジーあるあるの転生とか異世界トリップとかそういうものを体験してしまったからだ。
僕は今、公爵家の次男トルー・バルサムとして暮らしている。
トルーという名前…生前と名前が似ているのは偶然だろうか…。
まぁそんなことより何故、僕がこんなことになっているのか…それはあの運命の日、僕が事故にあったことが関係しているだろう。
僕が大平 透だった頃の記憶を取り戻したのが1週間前。確か池の近くで遊んでいた僕は誤って池に落ちてしまい、高熱にうなされて生死を彷徨った。その体験から生前の記憶を蘇らせ、その時、この乙女ゲームのことも思い出した。
なんと僕は生前、姉に聞かされていた乙女ゲームの中へ転生してしまっていたのだ。
この乙女ゲーム「白百合の君と…。」は生前、僕の姉がプレイしており僕も半端、無理矢理に内容を聞かされていた。僕自身、興奮している姉の為にうん、うんと相槌を打ち色々と聞いていたのだが、今となっては姉の勧めをなんとなく断ってしまったのを後悔している。
確か内容としては主人公のヒロインが色んな男と出会い、自分の気に入った相手の好感度を上げ、最終的にある一定の数値に達していればハッピーエンド。達しなければトゥルーエンド。バッドエンドに関してはヒロインが出会う男達と会話をしなかったり全く出掛けないなど、よっぽどのことをしない限りバッドエンドにはならない様になっている。割と初心者向けに作られていると姉は言っていた。だからアンタもやりなさい!と口うるさく言われていたが、なんやかんや断っている内に気付いたらこの世界に転生していたというわけだ。
そして、ここで問題なのがこの僕、公爵家次男トルー・バルサムである。
僕の記憶が正しければ悪役令嬢のブルーマリー・バルサムには弟はおらず兄のみだったはず。しかし、何かの手違いで僕がこの世界に転生してしまった為、急遽僕が弟として生を受けたようだ。
そしてこの悪役令嬢の特徴だが、親からかなり甘やかされて育ち、自分中心の発言は元よりお金を散財する性格であった。
そして、この悪役令嬢のせいでヒロインはコツコツ溜めていた意中の男性との好感度を下げられたり、イベントで彼を横取りされたりする。
この悪役令嬢の存在がなければ特にトラブルもなく淡々と終わるつまらないゲームになっていただろうが、色々とやらかす悪役令嬢のおかげでなんとかストーリーが保てていた。
しかし、弟として転生した僕の立場はどうだろう。
悪役令嬢の弟…姉のワガママな性格から皆から嫌われ、その弟とあれば僕は恐らく没落ルート。悪さをした悪役令嬢だけが処罰されるならまだしも同じ家である僕も道連れになるのがオチだ。運が良くて貴族の家名剥奪、悪くて死刑。どちらも正直嫌だ。なんとかこれを防がなくては…と今は思っている。
確かこの乙女ゲームの設定は日本でいう高校…16歳になる年に入学する魔法学校が舞台だ。
そこから、このストーリーが始まるのだが、僕が我が姉をそれまでになんとか更生し、悪役令嬢にならないようにすればもしかしたらヒロインと良い友人になるのでは、と僕は計画中である。
ゲームの設定をぶち壊すようなことをしようとしているのは分かっているが、このまま没落ルートに一直線な生活をジッと見ているぐらいなら出来るだけ足掻いてみせようじゃないか。
そしたら魔法学校に入った時、なんのトラブルもなくストーリーが進むのではないか、そしてあわよくば姉が良い人と巡り会えて良縁に結ばれることで僕は没落ルートから免れる。
幸い現在7歳の姉はこの年齢にありがちなちょっとオマセなところがある女の子。今ならまだ間に合う。僕が裏から姉の恋路や生活をサポートすれば今後どうにかなる、とふんでいる。
ちなみに僕は次男なので別に跡継ぎがどうとか言われる立場ではない。なので、別に結婚しなくてもいいと思っている。ただ、まぁ良い人がいれば僕だって…という気もないこともない。
まぁそれは追々ということで、僕は今から姉を悪役令嬢にならないように監視していく。