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アンラッキーな幸運異世界記  作者: 安藤豚々
1章 不幸と幸運って紙一重?
3/5

宇宙って広いよね

「おーい、おーい聞こえるかーい?」


 遠くの方でする声に男は目を覚ました。


「おーい無視するなよー!おーいおーいおーいおーいおーいおーいおーい「やかましいわい!!」」


 徐々に耳元で喋り始めた声に思わずツッコんだがそれよりも身体が動いたことに男は驚きを隠せないでいた。

「あれ、身体が動く?」

 力の入らなかった手足はしっかりと動き、寒さを感じていた身体も血が通い健康体そのもの。


「いやー、ごめんよ、君のこと全然気づかなくてさ」


 目の前に立つのは――中性的な顔立ちは少年のように凛々しく少女のように儚げな性別不詳の子供。

 彼の後ろに広がる景色は決してこの世のものではないことが見てわかる。星々の瞬きが無数に広がる神秘世界、宇宙空間がそこには広がっていた。


「君は誰なんだ?ここは一体…」

 男の疑問は至って普通、理解の追いつかない頭からでた最低限の質問であったようで目の前の子供は納得した面持ちで笑みを浮かべている。


「僕は神だよ。ここは神域《神の土地(エンド)》どう?宇宙みたいでしょ?」

 到底理解し難い説明に男は戸惑いを浮かべるが実際目の当たりにしてしまっているせいだろう大きな驚きといった表情ではない。

「ちょっと待ってくれ、俺はなぜその…神様?と会ってるんだ」


「うーん、そうだな。とりあえず先に。君死んでいること自覚しているかい?」


 神と名乗る子供は純粋無垢な表情で男へ問いかける。

「心当たりは…ある。背中の衝撃で倒れて、あのまま俺は」

 己の死を知り苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。全身に纏わり付いた不快感が身を震わせた。


「そう、死んじゃったんだよ。ただね、君って子は死に方が僕たち神でも予想外すぎてね、発見が遅れちゃったんだよ。ほら、やけに出血も多いし力も入らないのに意識は途切れないなって思わなかったかい?」

 実際二度寝をするような感覚で幾度と意識をなくしては起きてを繰り返していた男はその言葉に頷く。


「あぁ…いつまでここにいるんだろうって」

 指先が冷え始めてきたのか男は片手で指先を掴み温めてていた。

「ごめんよ、2週間くらい君は死んだ身体のまま放置されてたんだよ。随分と不運が重なって起きた事故でね、神の僕たちでも気づかなかったよ」

「不運か、やっぱりあの日はついてなかったんだな」

 些細な不運が続いたことを思い出して男はため息を吐く。


「自覚はしていたんだね。雪による足止め、コンビニの品切れ、スーパーまでの道中の尻餅、お弁当ひっくり返し。これらすべてが君の死因の銃撃に繋がってくるわけだからね、神ながら恐ろしいほどの導きだよ」

「ち、ちょっと待って!銃撃で俺は死んだのか?」

 予想だにしない死因に男の声が星降る空間に響き渡るが子供はいたって冷静に淡々と答えた。

「そうだよ、君は立てこもり犯のライフル乱射の跳弾の一部が心臓に直撃して絶命したんだよ。驚きだよね、日本でまさかライフルなんて持ってる人が立てこもって狙われたわけでもないのに跳ねた弾で死ぬなんて。不幸体質の極みだと思うよ」

 開いた口が塞がらないを体現する男は絶句し、それ以上慌てることもなくただ呆然と立ち尽くす。


「それで、あまりにも可哀想だからさ。発見の遅れたお詫びも兼ねて今流行りの異世界に転生させてあげようと思ってここに呼んだんだよ」

「はっ?」

 追い討ちをかけるように子供は話を進めていくが男は未だ自分の死因が飲み込めていないせいで異世界という言葉にイマイチ理解が追いついていない様子だ。


「異世界だよ!異世界!僕大好きなんだよね、転生とか召喚系のお話!」

 陽気に喋り始めた子供は男へ詰め寄り顔を近づけてくる。

「異世界…安全なのか?」

「日本よりは危険かなー。魔物だっているし、武器だって誰でも買えるからね」

「じ、じゃあなおさら俺なんか行ったらすぐにまた死ぬことに…」

 持ち前の不幸があそこまで酷いと知らなければ男は喜んで異世界にでも行っていただろうが知ってしまった以上無難に天国にでも地獄にでも連れて行ってくれた方がマシだと思うことはおかしくないだろう。


「あぁ、それなら大丈夫だよ。君の不幸体質はもう無くしたから。それにちょっとした加護で不運な事故は防止するようにしたから安全性は日本の時より抜群だよ!」

 安心させるよう子供は身振り手振りを大きくし、異世界への関心を高めさせるためのプレゼンテーションを男にする。その甲斐あってか、男は随分とやる気に異世界への転生を受け入れ始めていた。


「よかった、これで僕の疑問も解決できる!」

「疑問?」


「そう!異世界ものの定番は最後、主人公が神と同等レベルもしくは神になるじゃない?でもそれって本当にあるのか不思議でさ。ラスボスも邪神とか次元を超えた神レベルとかありえないでしょ?君の生きていた日本で神が敵に回ったことあったかい?」

「あるわけがない、というかもし現れてもそんなもの誰一人として信じないと思う」

 日本人である男はもともと信仰心が薄いわけではないがそれでも目の前に神と名乗るものが現れたら無視するに違いないだろう。


「でしょでしょ?それって異世界でも起きるわけないんだよね。宗教上の神はいるけどあれは信仰心から生まれた神だからね。世界滅ぼさないし、実際僕たちでもそんな力はない」

「結局何が言いたいんだ?」


 男が急かすのを宥めるように子供は「まぁまぁ」と手で男を制す。


「君には異世界でチート的力で最強になって僕たちに近づいてもらおうかなって。ほら、そしたら強い敵がたくさん出てきて神レベルの敵なんてのも現れるかもしれないだろ?」

「実験台になれと?」

「言い方がよくない!でも間違ってもいないね」

 ケラケラと笑う子供に対して男はどうにも納得いかない表情で睨みを利かせている。


「死んだことを放置したのもここに呼びつけるための口実ってことか」

「あぁいや、それは全く関係ない!放置したのは本当に誰も気づかなかったんだよ!神にも気付かれないなんて不幸な幸運とでも言えばいいのかな?」


 見渡す限り星々の瞬きしかない空間に明るく輝くように子供が楽しそうに話すために男は毒牙を抜かれたように気が抜けた。

「はぁ。いらないな、そんな幸運。まぁいいや異世界行くよ、実験されてやる」

 晴れやかな表情で男は決意した。


「やった!じゃあまずはどんな力にするかだね!どんなのがいいかなーいきなり強すぎても面白くないからなー。強い敵が出るたびに成長する王道パターンなんてよくないかい?」

「チート級の能力じゃないのかよ!」

「そこだよね、やっぱりたくさん能力持っていたほうが見ていて楽しいんだよねー。かといって最初から能力ありすぎるのも面白味に欠けるよね」

 座り込み頭を抱えているが一向に解決策は出ない。


「あっ、いいこと思いついたよ!」

 子供は立ち上がり男に向けて指をさした。

「君は最初から強くなきゃいけないことはないんだよ!だから能力は無制限に解放できるようにしてそこから成長するかは君の努力次第、熟練度というレベル上げにしよう!どんな能力か理解して使うほうがより強くなれるだろうし!」

 ナイスアイデアと頷き自分で納得をしている。


「あとは向こうで信頼できる仲間ができたらその子も限界突破するようにしよう!」

「仲間?作らないとダメなのか?」

「当たり前じゃん!異世界と女の子に囲まれて過ごすのはセットだよ!君の仲間は強い女子じゃないと!ハーレム展開期待してるんだから!」

 おおよそ子供とは思えない息遣いが見た目とのギャップすぎて男は引いた。

 ――――マジかよ、本当に神様か?

「失礼なやつだな。れっきとした神様ですけど!」

「心を読むなよ」

「顔に出てたよ!眉を顰めてたの丸わかりだよ!」

 ふくれっ面で子供は眉と眉の間を指差してトントンとする。

「まぁいいけどさ!ところで能力とか君の意見はないのかい?」

「制限なしでその都度欲しい能力はもらえるんだろ?あとは自分の努力次第なら十分だよ。あっ、ただ1つだけ最初から熟練度カンストして欲しい能力があるんだが…」

「うーん、1つだけだよ?なんだい?」


 耳打ちするように男が渋々顔の子供にボソボソと願いを伝えた。それを聞いた子供は途端、笑顔に豹変し男の手を握りしめた。


「君って子は期待を超えてくるね!しばらく楽しめそうだよ!」

「そうか?強請った甲斐があるよ。ところで俺は今から生まれ変わるのか?」

「うん、今の君は魂だけで肉体はないからね。赤子としてしばらくは生活することになるね。楽しくなってきた!さぁ、能力も決まったし早く、早く君の異世界ライフを見せておくれ!」

 アトラクションを目の前にした時、新作のゲームを買ってもらった時のような好奇心とワクワクを抑えきれないでいる。


「わかった、じゃあ早速送ってくれ」

 その言葉の後、男は温かな光をに包まれていく。

 繭のようにクルクルと細かな光の粒子がまわっている。

「異世界ライフを楽しんでおいでね!あと強くなることは忘れないこと!それと子供の頃は子供らしくね!」

 手を振り満面の笑みを浮かべる子供の姿が光に包まれ見えなくなると男は眠るように繭籠に沈んでいった。


 暖色の光は大きく光をあげると次第小さくなり、宇宙の闇へと消えていった。


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