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9話 脱出

「僕は反対だね」


目を鋭く尖らせてミュラルティの言葉を遮るのは、彼女が不在の間、増え続ける手負いの人々をまとめ上げているエイブラムだ。


「でも、国の状況は気になるし、私は偉大なる王の血筋とは思われていないから大丈夫よ」


「全然大丈夫じゃないだろうが!」

ミュラルティの右手を握りこみ離さないのは、戦うという選択をして男の姿をとったキャシーこと、キャメリスタンシーだ。


「でも、まだトゥルアンダが城にいるのよ」

トゥルアンダだけではない。女王にとって大して脅威にならない姉妹や小さな兄弟はまだ城にいるのだ。


「ここに連れて来れるのは私だけだもの。もう、何もしない自分ではいたくないのよ」

掃討作戦で焼かれた町を見た時の恐怖と後悔は、ミュラルティの心から消え去ることができずにいるのだ。


「姉上は何もしてないわけじゃないだろう。ここにいる全員が、姉上のおかげで生きてるんだ」

ミュラルティはエイブラムの言葉に首を振る。


違う。

その気になれば、本当はもっと多くを助けることができた。

私が家族に、兄弟姉妹きょうだいに、国民に、全てに興味がなかったから動くのが遅れたのだ。

自分が最善でなかったことを、誰よりも知っている。


「私が助けたんじゃない。目を配ったのがスンシューで、助けたのはエイブラムよ」

ミュラルティの言葉にエイブラムはグッと歯をくいしばった。


「はあ、では言い方を変えましょう。姉上に何かあった場合、僕らはどうしたらいいのですか。ここから出る術も知らないのですよ」


「おい!」

エイブラムの少し突き放した物言いに、キャメリスタンシーが声を荒げた。が、すぐ何かに気がつくと口をつぐむ。


ミュラルティは彼らの目配せに気がつくことなく、はっと顔を上げると「そうだったわね」と眉尻を下げた。

そうだ、自分はいつも先のことに気が回らない。


自分がもしもの時の、彼らのこの地からの脱出方法。

入ることは容易くできないけれど、出ることは簡単なのだ。

ただ自分とは違い町のはずれまで随分と泳いで渡らないといけないが。


「山すそに白い大地があるのだけど」

ミュラルティはこの国の歴史と、この地の秘密をほんの少し話し始めた。



☆☆☆



「壮大な話だったな」

ダリアンが乾いた笑いと共に吐き出したのは、そんな言葉だった。


「俺たちはよ、王族なんて大嫌いなんだよ」

そうだ、大嫌いなんて言葉では表せないほどの嫌悪がある。


「けどあの子が、あの小さな体で俺らを支えてきてくれたのを知ってるから、あの子の大事にしてるお前のことも受け入れようと思ってたのに」


ミュラルティの話の後からずっと、目の前で考え込んでいるエイブラムの、不気味なほどの沈黙ですら我慢ならないのだ、本当は。


けれど事態は、そんな小さな問題ではなかった。


人が神になる?

あまりにも馬鹿げている。


多くの魂を犠牲にして、それを獲り込んだ強い媒体の肉体を創り出し、永遠とわの命を得る?

勝手にしろってんだ。


けど、その犠牲になった魂の中に俺らの仲間が、家族がいるんだろう?


偉大なる王の血さえ引いていなければ、簡単に支配下に置くことができる。

だからその血を引く俺らを完全に排除した後、自分の思いのまま動く国を作りたいって?


女王すら、すでに傀儡の駒になってるだろうって?


「お偉いやつってのは馬鹿ばっかりだっ」


「本当にな」とエイブラムが。

「理解できんな」とキャメリスタンシーが。

目の前にある細い剣を手に取った。


そして、集まった男も女も皆が「本当にこんな細っこい剣しか効かないのかね」と次々と武器を手にする。


「ミュラルティは言葉の裏を疑うってことを知らないからな」

「ここで護られているだけでいいなんて、そんなガラのヤツいねえだろうにな」

「ははっホントに」



「じゃあ、ちょっくらお嬢ちゃんとお嬢ちゃんの護りたいヤツ等でも助けに行きますかね」


生き残った町の住人たち。

女王に打ち捨てられ、ここに匿われた親族や貴族たち。

誰も彼も、ここでただ待っていたりしない。


彼らは偉大なる王、ラミキシオンの血を引く勇敢なる戦士だ。

覚悟はとうの昔に決まってる。

エイブラムが脱出方法を聞き出したあの時、こうすることに決めていた。

いや、もっと前からどこかで予感していた。


自分たちの存在する意味を。


「分かってるな、キャメリス」

ダリアンが力強くキャメリスタンシーを振り返る。


「あの子を見つけたら、抱え上げて遠くに逃げろ。戦うのは俺達だ。必ず護りきれ!」


「……わぁかってるよ!」




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