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8話 掃討

「最近は皆が暗くて嫌になっていまいますね」


人の気配が減った奥の殿で、そんな空気を振り払おうとトゥルアンダはほぼ毎日人を集めてお茶会をしている。

彼女はお金だけはあるのだ。

そして、姉妹たちは1人では抱えられない不安をこうして集団になることによって紛らわしているのだ。


「兵士たちが言うには、平民の間でも争いが絶えないらしくて、集団での乱暴が後を絶たないらしいですよ」

「私も聞きましたわ。そうして集団暴行リンチにあい負傷した人々がアリアンダ地区に逃げ込んでいるんですって」


「あら、じゃあもともと女王の心象も悪いのに、アリアンダの人達は大変ね」

毎日毎日、話題のほとんどがいなくなる兄弟達とアリアンダのことだ。


女王の執拗な弾圧は、アリアンダのみならず至る所で国民の神経を逆なでにしている。

にもかかわらず、一定の国民は女王の政策を声高らかに喜び受け入れた。

それはもう、国が二分するほどにだ。


それ程に支持する国民がいるということで、この部屋に集まる姉妹は、女王の非情な行いを非難する自分たちが正しいのか、彼女の政策が正しいのか分からなくなっているのだ。


「大変ですわ!大変ですわ!」


声を震わせて、恐れの顔を隠さない、姉の1人が部屋に飛び込んできた。

「女王がとうとうアリアンダ地区の掃討作戦を行ったらしいですよ!」


「は?」

ミュラルティは一瞬、姉の言葉が、言語として認識できなかった。


アリアンダ地区の掃討作戦?


心臓の早鳴りが耳の奥をつくほどの音量になる。

その場をなんと誤魔化したのか覚えていないが、自身の隠し部屋にたどり着くと、心に浮かぶ彼女キャシーの姿に合わせて魔方陣を展開した。


アリアンダが危険に晒されていたことは知っていたのに。

日々強まる迫害に、彼らの限界だって気づいていたのに。


私は、何も、しなかった!

後悔と恐怖が震えとなって全身を覆っていく。




光る魔方陣と共にアリアンダと思わしき場所に降り立つと、あまりの光景に胃から何かがせり上がってきた。

腕の取れた者、足の潰れた者。血だらけで何かの肉塊を抱いたまま放心している者。


それらを全て焼き尽くすような、町に放たれた炎の波。


いや、そうじゃない。


ミュラルティは瓦礫の下にうつ伏せになっているキャシーを見つけると、駆け寄るために必死で震える足を動かした。


「キャシー、キャシー」

『なんだ、お前1人になっちまったのか?』

声かけないで。男の人なんて、嘘つきばっかり!


「お願い、目を開けて、キャシー」

『仕方ないなあ。俺はお前の母さんにはなれないけど、姉さんにならなってあげられるよ』

何言ってるのよ!男なんて信用できないもの。結局母様を助けに来てくれなかった!


「ねえったら!」

『さみしくなったらいつでも来ていいのよ。ほら、女声も上手でしょう?私は男でも女でもあるんだから』

なんで?

あなたおかしいわ、ふふっ。


「キャシー、お願い。私を、1人にしないで」

『私はキャメリスタンシー。そうね、あんたにならキャシーって呼ばれてあげてもいいわよ』


「キャメリスタンシー!」

「……その名前、で、呼ぶのは誰だよ」

ああ!ああ神様!

「……顔が、ぐしゃぐしゃ、じゃないか」

「起きるの遅いよ、馬鹿!」


ああ、と、生きている者を安全なところに運ばねば。


ミュラルティの身体中から激情がうねりを上げて飛び出すと、広範囲の魔方陣が展開される。


燃え盛る炎の中で、息絶えた者たちが燃えていく。

その赤い灯りは展開されたはずの魔方陣の模様をかき消し、生きている者の存在を覆い隠した。


町が完全に焼け落ちると洗脳・・された兵士が残党を探して巡回を徹底した。

けれど、およそ数十人が光の渦に巻き込まれて消えたことに気づく者はいなかった。




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