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7話 狙われる者たち

日課である町の散策を終え、部屋に入ろうとすると「ミュラルティ様。お時間をいただけるでしょうか」と近くに控えていたらしい女性が急に姿を現した。


「かまわないわよ」

ミュラルティは驚きを隠して、部屋に入るよう促すと彼女は素直に後をついてくる。


「アリスターがこちらを尋ねに来なかったでしょうか。エイブラム様に付き従っている従者です」

扉を閉めるなり本題に入るところをみると、彼女は相当切羽詰まっていたようだ。


「もし、自分に何かあったら、ミュラルティ様に従うようにと言われていたのです。真実の正しい方だから、間違いはあるまいと言って」


急な話の展開に少し間は開いたが、なるほどと思い当たった。


つまり、あの場で急に選択をせまり、あの場所に送り届けてしまったので残された身内が心配している、ということだろう。


ミュラルティは完全に自分の失態だ、と空を仰ぎ見た。

心の許せる身内を持たない私は、そういうことを想定できなかった。


「貴女は?」

「私はスンシューと申します。アリスターの同僚で婚約者です」

スンシューは私が否定しなかったことで、期待を持ったらしい。思いつめた顔に喜色が差した。


「アリスターの居所は知っています。エイブラムに付き添い安全な場所で隠れていますよ」

スンシューの顔がさらに明るいものになり「では」と言葉を紡ごうとする。


「けれど、私はかわいい弟をこれ以上危険に晒すことはできません。貴女が間違いなく味方だと証明されない限り、これ以上の情報はあげられません」


スンシューは1度はっきりと目を見開いたあと、ゆっくりと目を閉じると気持ちをおさめたのか腰を落とした。


「エイブラム様とアリスターをよろしくお願いします。ミュラルティ様が何か御用の時はお声をお掛けください。身命を賭してお仕えします」




☆☆☆




国が荒れていく。

人が1人、また1人と姿を消していくからだ。


女王に反論する者はもちろん、女王の側近と思われていた従順な貴族の中にも、理由の分からない処刑をされるものが出始めた。


それは次第に言いようもない不安となり、国全体に恐怖が植え付けられるまで時間はかからなかった。

女王の権威は今や傲慢な神に匹敵するのではないだろうか。


「あのさあ!こんなにどんどん瀕死の重傷者ばっかり連れてこられても困るんだけど!」


私は傷ついて意識のない人を見つけると、こうしてここに運んで来てるわけだ。

「でも、誰かさんがエイブラム様にお届けくださいって手紙と一緒に置いていくんだもの。わ・た・し・の・部・屋・に、よ!」


部屋に帰ったら死体(ぎりぎり生きてるけど!)が転がってる私の身にもなってほしいわよね。

ほんとに、本当に、始めての時は心臓が飛び出るかと思ったわ。


「貴方の名前が出てくる辺り、スンシューが動いているのは想像に難くないんだから。諦めなさいよ。あんたの身内でしょうが」

それに、そんなことを言いながら全力で治療に当たるのがエイブラムなのだ。

実に面倒見のいいドウシタンタ男性らしさが出ている。


けれどそろそろ彼女も危険かもしれないな。

「スンシューは元気ですか」

アリスターは同じように感じているらしい。


「わからないわね。彼女はその人達と手紙を置いていくだけで、姿を見せないんだもの。本当ならこっちに連れてきたいのだけど。置手紙は危険だし」

誰に見られるか分からないような物を、うかつに置いておけない。


私の部屋の鍵なんかいつでも開けられるのだと、アリスターとスンシューが行動で教えてくれているのだから。


「最近では、外の国に外遊に出てしまう王族が増えているのよ」

成人してから言葉を交わすようになった兄や姉たちが、残る人を心配しながら国を後にする。

不穏な動きを察する者は、機先で動いているのだ。


「そうか。兄上たちも逃げ切れるといいんだが」

エイブラムが確実に先王の子なら、エイブラムの同腹の兄弟は偉大なる王の名を持つ可能性が非常に高い。エイブラムの母君は先王を裏切らないたちなのだろう。

つまり、その命はかなり危険に晒されていると言ってもいい。


「それに僕らだって、いつまでもここにいるわけにはいかないだろうし」

エイブラムの真剣な眼差しが私を見下ろす。

「姉上にばかり負担をかけているのが心苦しいですよ」


「っ!何言っているのよ。ここにいる人を治療してまとめてるのはあなたじゃないの」

私なんか、見えてきた真実だってたくさんあるのに、思うように動けない自分が情けなくて仕方ないのよ。


「ここに集まった奴らは、傷も癒え元通りです」

後ろで話を聞いていた彼らが、力強く頷いた。


「姉上、僕らも戦えます。一緒に戦わせてください」




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