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3話 成人の儀

ミュラルティは目を見開いて扉を見上げた。


ただのお茶会だと思っていたのだけれど、違ったかもしれない。

トゥルアンダに着せられた衣装を見て、胸を撫で下ろす。

あの子の言うことを聞いておいてよかったわ。まさか大広間に呼ばれるとは思っていなかったもの。


「第86王女ミュラルティ様ご入室します」


トゥルアンダから先導を引き継いだ番兵に案内されると、ミュラルティはランタナの前で膝をついた。

本当に、トゥルアンダはここまでミュラルティを連れてくることだけが仕事だったようだ。


お茶会なら、一緒に参加してくれるはずだものね。

いつも1人で生きてきたのに、なんだかたったあれだけの関わりで心細く思うなんて不思議だ。


「お呼びと伺いました。ミュラルティです」

「待っていたわ、ミュラルティ。そんなに畏まらないで席についてちょうだい。私達、姉妹でしょう?」

許しを得て顔を上げると、この国特有の美しい金の髪を高く結い上げた女性がこちらを見下ろしている。

周りを囲んでいるのは異腹の男兄弟たちのようだ。


「なぜ呼ばれたのか分からないって顔ね」

ふふっと笑って扇を口元に当てる様は、かわいらしくとも威厳がある。女性にしては低めの声もそれを増しているようだ。

「私達は兄弟姉妹が多くて普段は交流もままならないけれど、成人したら話は別よ。王族に名を連ねる者として、責務を果たさなくてはならなくなるの」


ランタナはまともな教育など受けてこなかったであろうミュラルティに、小さな者に物事を教えるような口調で立場を説明した。

が、それはそうだろうとミュラルティが素直に目で肯定すれば彼女の瞳は弓型を取る。

豪奢な椅子に腰かけたランタナが視線を動かすと、艶やかな紫のクッションに乗せられた水晶玉が運ばれてきた。


「これが貴女の最初のお仕事よ。なんて、ただの成人のお祝いなのだけど」

成人を迎えた者が、神と自分を繋ぐ呪具で新たな人生を得る儀式だ、と気がつく。

この国でも魔力を持つ者が出始めると、洗礼石を得る7才の儀とは別に、成人の祝いの儀が新しくできたのが100年ほど前。割と新しい行事だと得た知識から知れる。


「これに手を翳し、貴女の人生を得るといいでしょう」

優し気に細められたその目の、しかし奥に見慣れた奥の殿の歪みを感じる。ランタナもまたあの場所の犠牲者なのだろう。

内心でそっとため息をつくと、おずおずと手を伸ばしそっと両手で水晶を包んだ。


『すでに成されるべき契約は済んでいる。真実を隠せ』


無機質な情報が頭をすり抜ける。

まさか、どこからかこうした助言が降ってくるとは思わず、動揺に手がピクリと動いた。

薄々気づいてはいたけれど、警戒を報せる声にただのお祝いではなかったことを察する。

ミュラルティが目を開けると、薄っすらと光を帯びた水晶が光を落とすところだった。


「何か、天啓は得られたかしら。新しい名前はいただけて?」

目を開けるミュラルティを待っていたかのように、口早に尋ねるランタナに何と答えたものかと逡巡する。


「はい、天啓はわかりませんが、名はいただけました。今後はミュラルティ リ ディアルマ、と名乗るようにと」

ディアルマは母の一族名だ。が、偉大なる王の名は口にすることができなかった。

何となく自分にはその名が大きすぎる気がしたからだ。


だから、恥ずかし気に目を伏せていたミュラルティは気がつかなかった。

ランタナの顔が満悦の体を表したことに。



☆☆☆



「どうでしたか!ミュラルティ様!」

部屋を出た途端、飛びつくように走り寄ってきたトゥルアンダに苦笑いを見せる。


「衣装のことは褒められて?」

「いや、緊張し過ぎてよく覚えていないわよ」

それに、彼女は他人の衣装になど興味を持ったりしないのだろう。

何年かしたらトゥルアンダも今日の自分みたいに呼ばれるだろうし、その時に己の目でランタナについて評価すればいいのだ。


「もう!せっかく趣向を凝らしましたのに!ミュラルティ様がくるっとすればヒラッとして、きっと皆さま驚きましたよ」

頬を膨らませてすねるトゥルアンダが可愛くて思わず笑ってしまった。廊下に配置されている番兵まで表情が緩んでいる。


「では」

少しスカートの布をつまむと大きめにくるっと回ってみる。スカートの裾がふわっと浮き、肩から腰のあたりまでゆったりと包んでいた飾りがふわりと舞う。


「まあ!」

トゥルアンダの嬉しそうな声と共に番兵の顔にも驚きが浮かんだ。


彼女の自信の通りの出来栄えだったに違いない。

「満足されましたか?いつまでもここにいると怒られてしまいますから、部屋に戻りましょう」

「そうですね!」


それにしても行きも帰りもトゥルアンダに手を引かれて、こんな日常もいいなと少し楽しく思うミュラルティだった。



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