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第5話 期待の新人

「先生……奥さんはいないのね。じゃあ、片思いをしている人がいるとか……?」

「い、いや、それもないぞ。一応女性の知り合いはいるし、俺のギルドのマスターにも長い間世話にはなってるんだが、そういうのとは違う」

「っ……良かった……」

「え……」


 フェリアは物凄く嬉しそうな顔をする。まるで、一気に花が咲き誇るかのように――あまりに可憐な微笑みに、思わず心が動かされてしまう。


「あ……い、いえっ、先生がお一人なら、私が一緒に冒険をしてご教示をしてもらっても、問題ないと思っただけよ」

「ま、まあそれはそうだな。でも、俺がついていくのは今日だけだぞ」

「……じゃ、じゃあ、出世払いで授業料を払うから、先生を借りるっていう依頼をしてはだめ? 冒険者なら、そういう依頼も受けることはあるでしょう」

「違うギルドの新人冒険者を教育するってこともそうはないぞ……それに、そうするんだったらフェリアのギルドに許可を取らないとな」

「それなら、ギルドの転属願いを出すわ。スライム討伐はギルドに入るための試験だったけど、ちゃんとお仕事を終わらせたら、抜けてもいいはずよ」


 スライムの件で、フェリアのギルドはフェリアに対する注意喚起を怠った――もし俺が来なければ、スライムに生命力を吸われ、衰弱死ということもあったかもしれない。


 初級冒険者に対して、自分で魔物について学ぶことも大切だというギルドは少なくはない。フェリアはそういう放任主義のギルドを選んだということだ。


「……何となく想像はつくんだが、フェリアはどこのギルドの所属だ?」

「冒険都市スタルティアでも一番大手だっていうから、『黄金の竜亭』に入ったわ」


 ――その最大手ギルドは、幾らでも新人が入ってくるからというので、初級の依頼を新人に任せ、フォローをろくに行わない。


 有望な新人くらいはしっかり面倒を見たほうがいいのでは、とフェリアを見ながら思う。俺の予想通りなら、彼女の移籍は思ったよりあっさりと許可されそうだ。


   ◆◇◆


 初心者のフェリアに同行者がいなかったのは、彼女自身にも落ち度があった。


 フェリアはスライムくらい一人で倒せるからギルドに入れてくれ、と気を吐き、ギルドの受付嬢はそれを信じて、彼女が魔法を使えるならスライムにも対処できると考え、若いながらも有望な冒険者だと考えて任せたらしい。ブルースライムが出たのは巡り合わせというか、災難だったが。


「グウィンさんのような面倒見のいい方が、きっと通りがかって援護をしてくれると思っていました」


 しれっとそんなことを言うのは、受付嬢のミアンである。こう見えて、受付嬢としては十年目のベテランで、笑顔で冒険者をキツイ仕事に放り込む、色んな意味でのやり手だ。


「忙しいからって適当すぎるだろ……大手は大手なりに、新人の育成制度もしっかりしたらどうだ。今からでも遅くはないぞ」

「ええ、私からも上には重々言っておきます。せっかく有望な新人が現れたのに、『灰色の狼亭』のスカウトに負けてしまったと」

「正確には、俺からスカウトしたわけじゃないが……」

「そうです、私が先生のところに行きたいって志望したんです」


 フェリアは盲目というか、もはや俺のギルドに来て、教え子となることしか考えてないらしい。目がキラキラと輝いていて、枯れ気味なおっさんの俺には少々眩しすぎる――純粋な憧れによって浄化されてしまいそうな気分だ。


「大変惜しいことですが、スライム討伐依頼を完遂したあと、当方のギルドに所属されるかどうかは、冒険者の方の意志に委ねられますので」

「い、いや……フェリア、ここが大手のギルドなのは間違いない。仕事も選べるくらい入ってくるし、俺のギルドを選択するのはお勧めしないというかだな……」

「……先生は、私が一緒のギルドに入るのは迷惑なの?」

「うっ……い、いや、迷惑じゃない。だが、将来性のある新人は、大手に所属した方が色々と……」

「最近では、まだ十歳と若い女性の方なのですが、非常に有望な方に入っていただきました。年齢のこともあって、所属先のパーティについてはまだ決まっていないのですが」


 十歳ということなら、十三歳のフェリアと近いし、中年男性の俺よりも、少女同士でパーティを組む方が自然かもしれない――そう思うが、フェリアは俺が思うようなことなど、全く考えていなかった。


「先生……私は先生に、教えてもらいたいことがいっぱいあります。そのためだったら、私はなんだってします。先生の教え子にしてもらえるように、頑張ります……っ、だから、入れてください!」


 フェリアが大きな声で言う――「ギルドに」入れてくださいと言わないと、とんでもないことを言わせているように聞こえてしまう。


「おい、あいつ……『万年中堅』グウィンじゃないか?」

「うおっ、めちゃくちゃ美少女じゃねえか……いいなあ、あんな子に入れてくれとか言われてえなぁ」

「こら、まだ子供だぞ。そんな露骨なこと言ってんじゃねえ、うちのギルドの品位に関わるだろうが」


 男性冒険者たちにバッチリと勘違いされた――女性冒険者もヒソヒソと話している。ミアンは朗らかに笑ったまま、頬に手を当てて「あらあら」などと言っている。完全に他人事だが、この状況では文句も言えない。


「先生が入れてくれるまで、諦めません。ずっとここから動きませんから」

「わ、分かった……フェリア、そこまで言うなら俺のギルドで見習いとして雇うように、ギルドマスターに頼んでみよう。そうすれば『ギルドに入れて』やれるぞ」


 強調して言うと、なんとか俺に対する疑惑は薄れたようだった。変な汗をじっとりとかいてしまうが、それに気づいたフェリアがハンカチを差し出して、背伸びをして汗を拭いてくれる。


「っ……い、いや、そこまでしなくていい。汚れるぞ」

「先生の汗を拭くのは、弟子のすることよ。いいからじっとしていて」


 また敬語から、背伸びをした口調に戻っている――まあ俺も、ずっとかしこまっていられるよりは、肩の力を抜いてくれると気が楽ではある。


「……グウィンとあの子、やっぱりただならぬ仲の良さじゃねえか?」

「くそっ、俺もあんな子に汗を拭かれてみてえ……!」

「おまえさっきからそれしか言ってないじゃねえか。いいから行くぞ、仕事だ仕事」


 一部の男性冒険者から、フェリアは熱烈な人気があった――これほどの美少女なのだから仕方がない。


 彼女は俺と同じギルドに入れるとすでに確信しているのか、すごく嬉しそうにしている。


 しかし、セプティナがフェリアの将来性を考えて、大手に所属することを勧めるということも考えられるので、まだどうなるかは分からない。俺はミアンに挨拶して、フェリアを連れて黄金の竜亭を後にし、賑わう中心街の外れにある住宅地に向かった。


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