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第3話 赤い髪の少女剣士

「報酬は分けなくてもいいから、助けさせてもらえるか……いや。このハレンチなスライムとやらが気に食わないから、退治するというだけでいいか」

「はぁっ、はぁっ……た、ただの剣士でしょう、あなた……魔法を使わないで、スライムをどうやって……」


 どうやって倒すのか。それを指導してやるような気持ちで、俺は自分の拳に魔力を集め始めた。


「っ……ま、まさか、スライムを拳で倒すっていうの……? そ、そんなことしても、こんなに柔らかいのに、通じるわけっ……」

「スライムには核がある。そこは周りの軟体と違って、打撃を食らうと脆い。軟体に阻まれないように、核まで貫通させてやる必要があるがな……こんなふうにするんだ」


 スライムは俺が殺気を放っていることに気づいたのか、少女を拘束していないほうが俺に触手を伸ばして襲い掛かってくる。だが魔力で包み込んだ俺の拳は、魔法生物であるスライムの攻撃を弾くことができる。


「――ふっ!」


 パン、と触手の攻撃を弾いたあと、俺はスライムの本体に肉薄し、踏み込みながら掌打を繰り出した。衝撃がスライムの核に伝わり、ゼリー質の身体に波が走って――バシャッ、とただの水に変わって飛散する。


「……な……何をしたの……っ、そ、そこは、だめっていうのにっ……やめなさいっ、このっ……わ、私を盾にするなんてっ……!」


 スライムにも知能がある――少女を人質にし、その間に反撃しようというのだ。


 だが俺には、少女が捕獲されていようと関係ない――もう、すでにスライムに『攻撃を加えている』のだから。


「……ス、スライムが……止まって……きゃっ……!」


 ブルルッ、とスライムが震える――そして、ゼリー質が吹き飛び、核が爆砕する。


 先ほど踏み込んだときに、地面を伝ってスライムに俺の魔力を打ち込んだ。少女はスライムに吊るされているので、衝撃が伝わらなかった――だがスライムはひとたまりもなく、粘性を保てなくなって液状に変わり、周囲に飛び散った。


 放り出された少女を抱きとめる。スライムまみれになってしまったが、核を失って飛散したスライムは洗えば簡単に落ちるので、特に問題ではない。スライムは調理してゼリー質のデザートにされることもあるが、スライムが雑食であることを考えると進んで食べようとは思わない。


「あ……ありがとう……」


 鎧を剥がされかけ、スライムに貞操を脅かされかけて震えている少女が、腕の中で礼を言う――こうして見ると、まだ若いのにそれなりに発育していて、抱きとめた腕に女性らしい柔らかみが伝わってくる。


「青いスライムは炎の魔力を吸収する。次からは気をつけるといい」

「……あ、あのっ……こ、このたびの御礼はっ、まことにっ……」

「ど、どうした。落ち着け、もう怖いスライムはいないからな」


 俺からすると娘のような歳の少女が、かしこまって必死にお礼をしようとするので、つい父性をくすぐられてしまった。しかし『怖いスライム』なんて子供をあやすような言い方をしたのに、少女は目を潤ませて俺を見るばかりで、怒ってはいないようだ。


「……あなたのお名前は……わ、私は、フェリア……と言います……」


 助ける前までと、少女の態度は百八十度変わってしまっている。危ないところだったのだから仕方ないが、ここまで怯えてしまう前に助けなければならなかった。


「俺の名前はグウィン。グウィン=ヘキサロードだ。『灰色の狼亭』の冒険者をしていて、今日はジャイアントムームの討伐依頼を受けて来た。Cランクが受ける依頼じゃないが、それしか仕事がなかったんでな」

「……ジャイアントムームでしたら、さきほどこのスライムが捕まえて……」

「なに、捕食してたのか? うーん、骨だけだと換金してもらえないからな……ジャイアントムームは食用だから、そのまま持って帰らないと金にならない」


 俺の話を少女は大人しく聞いている。他人の依頼の話など、興味がなければつまらない話であるはずなのに、彼女は俺のひとことひとことに相槌を打つように頷いている。


(スライムに耐性さえなければ一人でも大丈夫そうだったのに、これは……少し今後が心配だな)


 若くして冒険者を志す少年少女は珍しくないが、多くが魔物の恐ろしさを知って、冒険者以外の生き方を選ぶ。今の彼女もそうで、スライム恐怖症のようになってしまい、初級冒険者が実績を積むための森での依頼が受けづらくなるかもしれない。


「……フェリアだったか。スライムを討伐する依頼を受けてここに来たのか?」

「は、はい……スライム五匹の討伐依頼を受けて来ました。スライムは……は、ハレンチなことをする生き物だと聞いていたので、退治しようと思って……」


 スライムに属性があるというのは初歩の知識だが、ブルースライムが湧くことは珍しいので注意されなかったのだろうか。いずれにしても、彼女に何も教えなかったギルドの手落ちだ。


「なるほど、正義感が強いんだな。じゃあ、俺がコツを教えてやる。あと三匹、一緒に退治してやるか」

「っ……そ、そんな……助けていただいて、そこまでのことをしていただくわけには……」

「そこまでかしこまらなくてもいいぞ。最初みたいに威勢が良いほうが、俺も安心する。スライムは適切な対応をすれば怖くない、俺のやり方をよく見ておくんだ」

「はいっ……い、いえ。こほん……ええ、分かったわ」


 ものすごく従順だった少女が、切り替わって剣士の顔になる。これなら、スライムを見ただけで怯えてしまうということはないだろう。


 俺はまだ身体に力が入らない彼女をフェリアを担いだまま、スライム討伐の続きを始めた。

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