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ヤンキー桃太郎

ヤンキー桃太郎 猿丸の友達

作者: はまさきめーる

運動会が終わり、三年生は期末テストに向けて勉強していた。桃太郎と猿丸も放課後の質問教室でミル先生にわからないところを教えてもらっていた。

「先生、ここがでるんですよね?☆マークを俺書いたもん。」

桃太郎が聞くと、ミル先生は

「どうかな。」

と言いニコニコ笑って黙っていた。


 猿丸は、イケメンだ。そして、チャラ男だ。そして、女子にモテる。両手に余る数の女友達がいる。みんな猿丸のことが好きだが、猿丸は自分のことを好きな女子なんて嫌いだ。イケメンで自分が大好きだから。そんな自分に振り回されている女子になんて少しも魅力を感じなかったのだ。


 しかし、一人だけ猿丸が気になる女子がいた。それは、生徒会長をしている仁美だ。仁美は端正な顔立ちをしている。そして、しっかり者だ。今日も、授業前にふざけていた桃太郎と猿丸を注意していた。もちろん猿丸のことなんかまったく興味はない。

 そんな仁美と出会ったのは、三年生の始業式のときだった。遅刻しそうな猿丸が、校門の前で上靴入れを落としたときに、仁美は校門に立って挨拶運動をしていた。上靴を拾ってくれたときの姿がとてもまぶしく見えたのだった。

 

 その日は、クラス替えがあり仁美と同じクラスだと知りドキドキした猿丸だった。中三の男子は子どもだ。昼休みになると校庭でサッカーをして遊んでいる。猿丸は桃太郎と一緒に、朝一番に昼休みのサッカーのメンバーを募る。というか、無理やり参加させるのである。そして、その中に紅一点亜紀がいる。亜紀はもっぱらキーパーをする。亜紀のいるチームはいつも勝つ。亜紀の抜群の運動神経で鉄壁の守りができるのである。

 サッカーをしている猿丸たちを、クラスの女子たちは窓から眺めているのだが。仁美はそんなことには全く興味を示さなかった。猿丸は仁美のことが気になって仕方がなくなった。何とかして仁美と友達になりたいと思ったのである。


 猿丸は、仁美も含め気になる女子の動向はすべて把握している。仁美は毎日7時に登校し、テニス部の朝練をする。そして8時に生徒会室の整理をし、校門の前に立つ。昼休みは女友達と普通に話したりたまに校庭でバトミントンをしたりしている。放課後も、生徒会室へ行き生徒会の仲間と仕事をしたり談笑したりしている。そのあと、テニス部で練習している。そんな忙しい毎日を送っている。しかし、猿丸はそのタイミングをうまく図ったのである。


 朝8時、仁美はいつものように生徒会室の整理をしていた。そこへ、猿丸が来て、

「お仕事中、失礼します。」

と言う。

「どうしたの?」

と仁美が聞くや否や猿丸は言う。

「忙しそうなので要件だけ言うね。僕と付き合ってくれない?」

仁美は不機嫌になった。

「私をからかっているの?やめてくれない。」

「いえ、僕は仁美さんのことが気になって・・・」

という猿丸に、

「こういう冗談はやめてね。私も忙しいの。」

そう言って、生徒会室の鍵を閉め校門へ行った。

猿丸は思った。

・・・まだまだだったな。もう少し自分を強烈にアピールしないと・・・


 そして、授業前の休み時間。

 猿丸は、仁美の机に両手を突いて言った。

「さっきの返事もらってない。付き合ってくれるのどうなの?」

 さすがに、みんなの前でそういうことをされては仁美も赤面した。しかし、仁美は猿丸のチャラ男ぶりを知っているし猿丸のようなタイプは好みではない。ここではっきりと断っておかなければと思ったのである。

「ごめんなさい。私は猿丸さんには恋愛感情は起きない。だから、付き合えない。」

そう言うと、英語の教科書を読み始めたのである。


 かのチャラ男は思った。

・・・第一ステップ完了。あとは、チャンスをうかがう。


 猿丸のことだから、仁美にまだしつこく迫ってくるのではないかと思ったが、猿丸はあっさり引いてしまった。しかし、いつも一緒にいる女友達からはどこか距離を置いているように見える猿丸だった。そんな猿丸にチャンスが訪れた。


 午後からの大雨、仁美はかさを持ってきていないのだろうか・・・傘立てに仁美の傘がない。仁美が困っているところに俺の傘を渡して走り去ろうか・・・

 しかし、仁美は折り畳み傘を持っていた。チェッ、そうだったのか。しっかりものの仁美が傘を忘れるわけがないよな。と思ったが少し離れたところから仁美の後ろをつけて歩いた。仁美は生徒会の広報誌を作るため、何冊もの挿絵の図案集を紙袋に入れて持って帰っていた。しばらく歩いて行ったとき、その紙袋が破れて図案集が散乱してしまったのである。両手いっぱいに荷物があり、困っている仁美のところにここぞとばかりに猿丸は駆け寄り、図案集を拾い集めた。

「大変だなあ。生徒会の仕事だろ?俺手伝うよ。心配するなって。俺は、仁美さんが困っているところを見ていられないだけだから。」

家まで荷物を持ってもらった仁美は猿丸にお礼を言って帰っていった。

猿丸は、一つ目のチャンスをものにすることができたのである。


 二つ目のチャンスは、生徒総会のときだ。

 仁美が提案する議事を進めていく中で、校則に対しての批判的な意見が出た。困っている仁美を助けたのが、かのヤンキー一味の猿丸である。

「みなさん、がんばって校則を守っていきましょう。」

の言葉に一同は驚いた。「ヤンキーの猿丸に校則を守ろうとかいえるのか?」という批判もあったが、猿丸もやるときはやる男である。猿丸の頑張りで、仁美のピンチを救ったのである。このときから、仁美は猿丸に惹かれはじめたのである。


 そのあとも、猿丸はことあるごとに仁美のピンチを救った。仁美はだんだんと猿丸に困ったことを相談するようになった。こうなるとこっちのものだ。

「仁美、今度の日曜あいてる?岬の海岸にギャラリーカフェがあるんだけど一緒に行かないか?」

仁美はにっこり笑って、

「いいよ。」

と言った。猿丸は大きな獲物を手にした気分だった。


 しかし、喜びも束の間猿丸と仁美はもともと価値観が合わない。仁美から別れ話が出た。

「猿丸さん、・・・・・・わたし、ずっと考えたんだけどやっぱり猿丸さんとは無理みたい。もとのように、クラスの仲間に戻りましょう。」

 猿丸にもわかっていた。仁美の考えていることがわからないことがある。そして、自分の思いと仁美が同じにならないことも。

 猿丸は傷ついた。しかし、同じくらいに仁美も傷ついていたのである。猿丸と過ごした時間は少なくとも仁美にとっては心地よいものだったし、猿丸にこんなにも真面目な一面があると気づいたからだ。


 猿丸の荒れようといったら、並大抵ではなかった。ことあるごとに、他の生徒に突っかかった。あるときは、学校近くの店の前でチンピラとけんかしミル先生が呼び出されて行ったときには、チンピラがすごい剣幕で怒っていた。そこへ、この辺を統括する親分の妻である亜紀のお母さんが来てこのけんかを収めていったのである。


 亜紀は、外見も中身も真面目な生徒だ。成績は真ん中より少し上ぐらいでクラッシックバレエが趣味だ。そして、空手もしている。桃太郎や猿丸とは仲が良い。特に、猿丸とは幼少のときからの友達でよく遊んでいる。そして、猿丸のことを誰よりも思いやっていた。 

 中一の時には、数学の稲川先生の理不尽さに猿丸が怒り殴りかかろうとするのを身体を張って止めたというエピソードもある。

「猿丸、やめて。先生に暴力を振るったら出席停止だよ。」

それでも、暴れている猿丸の一撃を喰らい、腕にあざを作ってしまった。

保健室で亜紀の手に湿布を貼っているのは養護教諭の福原先生だ。

「わたしは、猿丸のことが好き。小さいときからずっと。だけど思っているだけ。だって、猿丸はわたしのことを好きにならないから、好きだと知られたら辛いだけだもん。けど、猿丸が大変なときにはわたしは猿丸を助ける。」

こんな亜紀の気持ちを福原先生はさりげなく察していた。


 荒れている猿丸を案じた亜紀。猿丸はこれでは受験勉強どころではないし、なんか問題を起こしたら高校どころではなくなってしまう。亜紀は猿丸の力になりたいと思った。そして、猿丸にいろんな心遣いをした。

「猿丸、弁当を作ってきたんだけど食べる?」

「あ、うん」

猿丸は亜紀の弁当を受け取った。亜紀が器用なのは知ってたけど、こんな女らしいところもあるんだ。と、思った。亜紀の弁当を食べている猿丸はなんとなく心がホクホクしてきたようだ。なんか、心に開いた隙間が埋まっていくようだ。

弁当箱を返す猿丸に亜紀は言った。

「猿丸、わたしはいつも猿丸の味方だよ。忘れないで。」

猿丸は、無性に亜紀をかわいく思い思わず亜紀にキスしてしまった。亜紀は涙を流した。なんともやるせない涙だ。亜紀の力を持ってすれば、猿丸に抵抗することができた。しかし、亜紀の猿丸への思いが亜紀の意思に勝ってしまったのである。

「ごめん。」

猿丸は亜紀に言った。亜紀は言った。

「大丈夫。わたしは猿丸の味方だから。」


猿丸の味方・・・この言葉は猿丸にとって大きな希望となって、自分を取り戻していったが、一方で猿丸にとって重たくもなっていった。


 亜紀は、猿丸が辛いときにそばにいる。お弁当も作ったりする。何より、幼少のころからずっと猿丸のことを思い、猿丸の力になってきた。猿丸は今になって亜紀の気持ちに気付いたのである。しかし、猿丸にとっての亜紀の気持ちは一緒に遊んでいる桃太郎やそこらの男友達に対しての友情と同じようなものだ。そんな、自分のために心を乱される亜紀のことを想像すると心苦しくもなってきたのである。


「亜紀、もう俺のために弁当とか持ってこなくて良いから。あと、もう俺をかばったり守ったりするのもやめてくれ。」

猿丸は亜紀にそう言った。


 亜紀は信じられなかった。人知れず思いを寄せ、守ってきたものが亜紀の心の中でパンッと壊れた。体中の力が抜けたような感じがした。帰路についた亜紀はまるで幽霊がさまよっているようだ。食事も行けず、集中力も持続しないそんな日々を送った。

「わたしはもともと、透明な存在なんだ。猿丸への思いだけがわたしを生かしていたんだ。わたしはここに生きている意味もない。」


 亜紀の家族や、梅子、桃太郎が亜紀を心配し優しい言葉をかけた。それでも亜紀の心の病は治らなかった。すると、猿丸にとって亜紀の存在は心配である反面いよいよ重たくなった。桃太郎は猿丸に言った。

「お前、亜紀に何をしたんだ。」

「亜紀がかわいいと感じたこともある。そして、亜紀のことは小さいときから、大事な友達なんだ。けど、亜紀が俺のために心を痛めたりしてると思うと俺は亜紀を受け入れることができないんだ。」

猿丸がそういうや否や、桃太郎は猿丸に殴りかかった。

「猿丸、俺はお前のことを絶対許さないからな。」

「お前に俺の気持ちがわかってたまるか!」

二人は壮絶な殴り合いをした。猿丸も桃太郎も傷だらけだ。

「桃太郎、お前だったらどうなんだ!?」

「俺だったら・・・」

桃太郎は答えることができなかった。


 亜紀は毎日保健室へ行き、福原先生と話をした。福原先生と話すうちに亜紀は少しずつ元気を取り戻した。


「猿丸のことは、小さいときから好きだった。猿丸はお父さんがいなくて、お母さんが夜の仕事しているからさびしいんだと思う。わたしは、猿丸が楽しそうにしているのを見るのが好きだし、猿丸のさびしそうな顔を見ると切なくなってた。」

福原先生は、視線をやや下に向け黙って話を聞いている。

「わたしは猿丸を好きになりたくなかった。猿丸はいろんな女子と付き合いたがって、本気にならないでいる。わたしもその一人になるのはわかってる。」

亜紀をやさしく、まっすぐに見た福原先生に、

「けど、猿丸を好きという感情はどうしようもない。わたしが自分でコントロールできるものじゃない。猿丸だって私のことを好きになることはできない。」

と続ける。


「そうだね。」

福原先生のその一言が、亜紀の心に残った。わたしは、今も猿丸のことが好き。けど、猿丸はそうじゃない。わたしは、少し離れたところから猿丸を見守ろう。そして、わたしらしく生きよう。そう思えるようになってきた。


あたりは油蝉の鳴き声がする。夏休みまで一週間だ。

「おはよう。」

亜紀は猿丸と挨拶を交わす。その亜紀の表情に猿丸は大きな変化を読み取った。なんか違うぞ。今までの亜紀とはどこか違う。そう感じたのである。昨日美容院へ行き、髪型もすがすがしくなっていた。以前のように昼休みのサッカーにも亜紀の姿が見えた。少しやせてしまったが、十分に強い。猿丸、わたしはずっと猿丸の友達だ。亜紀がゴールすれすれの球をジャンプして取り、スローインする。ボールを蹴る猿丸は亜紀に向かって満面の笑みを投げかけた。

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hamameru
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