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プロローグ

「ねぇ…?いいでしょ…もう…我慢できない……」


彼女は、俺に近づき覆い被さって来た。

世界が真っ赤に彩られている放課後の教室。楽器の音が響き、部活動の声が聞こえてくる。

そんな中、俺たちは二人だけの世界に居た。


「や、やめろって…俺たちそんな関係じゃ……」

「これからなるのよ、ね?…遥希」


ごめん訂正。『居た』じゃなかった、正確には『引き込まれた』だった。

「お前に下の名前で呼ばれる筋合いは無い」

「だ・か・ら、今からなるの〜」


俺、福浦遥希はこの十七年間の人生で最も大きなピンチに直面していた。

放課後に女の子と二人っきり。普通なら俺の人生の中で最も最高なシチュエーション。

最も最高って意味分からんな。まぁ、でもそんくらいすごいイベントってこと。

でも、それは、こいつじゃないっていう条件付きだが。

「お前とはそういう関係にならない。なぜなら……言わなくても分かるよな?」

「もう〜つれないなぁ〜でも、みんな、最初はそう言ってたよ?」

「俺はそいつらとは違う。お前なんかに…、お前みたいな……全校の男を貶めた、くそビッチなんかに!俺は……屈しない!」


そう、こいつ、平沢きららは、何を隠そうこの全校三◯◯◯人以上のマンモス校、松都高校の男全てを堕とした、全校一の美少女兼痴女だ。


「何言ってるの〜、一人だけ堕としてないでしょ?遥希がまだ堕ちてないならね」

「ああ、そうだったな。訂正ありがとう。俺は堕ちてないし、これからも堕ちる気はない」

そう言うと平沢は頬を膨らませて上目遣いで言い寄って来る。

「むぅ〜ひど〜い!でも、だからこそ燃えてくるな〜」

「っ!お、おい!」

平沢は俺の足に自分の足を絡めてくる。平沢の太股は柔らかかった。確かに平沢はくそビッチな性格破綻者ではあるが全校一の美少女で在るのも揺るぎない事実。

そして、スタイル抜群。柔らかくてそれでいて太くない脚。豊満でそれでいて張りのある胸。触ったら折れてしまいそうな華奢な身体。

まさに愛される為に生まれた女だ。

しかし、ビッチだ。これもまた揺るぎない事実。俺は緩んだ頬と正気を戻し平沢から離れる。

「いい加減にしろ、俺はそんなことでは屈しない」

「ちぇ〜も〜ちょっとだったのに〜」

「う、うるさい!」

俺にはこいつの真意が分からない。こいつは普通にしていれば良い男なんて自然に寄ってくる筈なのに。


「なぁ、なんでお前はこんなことしてるんだ?」

「は?男が好きだからに決まってんじゃん」

潔いというか欲望に素直すぎるぞこいつ。

呆れてもう変な気持ちにならなくなっていた。


「もういい、俺は帰る」

「え〜〜女の子を置いて先帰るの!もし帰り道に変な人に捕まったらどうするの!」

「お前にとってはそういうのもありだろ」

「むぅ〜〜〜」

俺はぷんすかぷんすか怒っていた平沢を置いて歩き出す。


なんでこんな風になっちゃったんだろな。


俺は知っている。


平沢きららという人間が本当はどんな奴なんなのかを。

ただなぜあいつがこんな風になってしまったのかはまだ知らなかった。



ーー入学式からずっと見てたっていうのにーー



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