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出会う奇跡の咲く道に  作者: はなさき
第二章 あの頃に託された思いを
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9話 ぶつかり

「鈴香さん!?」

私は背後に現れた鈴香さんに驚いた。


「咲ちゃんと藍ちゃん、どうしてここに? 秀に聞いたの?」

鈴香さんはぽかんと口を開けて首を傾げていた。


「秀さんには聞いてません。どうしてって、言われても」

私はどう答えればいいのか分からず黙っていると、藍姉が代わりに答えてくれた。


「実は、この前鈴香さんがここに行くのを見てもしかしてと思って来ました」


「え?」

鈴香さんが思わず声を上げる。私も思っていなかった。


「それで、さっき秀さんに会ってきました。鈴香さん、お見舞いに行かないんですか?」

「ちょっと、藍姉!」

藍姉は止まることなく、話を続ける。というよりは鈴香さんを攻めたてているようにしか見えなかったので、私は鈴香さんに迷惑だと感じて藍姉を止めようとした。



「大丈夫だよ。秀には、」

しかし、鈴香さんの口からは冷静な言葉が発せられた。


「秀さんの彼女、芽衣さんが居ることですか?」

鈴香さんの言葉を遮っては、またもや藍姉は攻めるように質問をする。


「どうしてそれを?」

「もう一度言います。さっき、秀さんのお見舞いに行きました。偶然に芽衣さんも居たんです。芽衣さんと一緒に居たのにも関わらず秀さんは鈴香さんを心配させまいと隠している事があるそうなんです」

「藍姉! それ以上は、」

私が藍姉の言葉を止めようとすると、藍姉が睨んでいるような視線を向けた。私は、その場から立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。


「待って、秀が私に隠している事って? 今までそんな事はなかった」


「秀さん、実は事故の後遺症で歩けなくなったらしいんです。今、おそらく検査かリハビリに行っていると思います」


その瞬間、予想外の事が起きた。

「すみません、ちょっと席を外します」

他の看護師さんにそう言って鈴香さんは早足でその場を去ってどこかに行ってしまった。


「えっ、鈴香さん。どうしたんですか!?」

私は急ぎ足の鈴香さんを追っていた。藍姉をその場に置いて。



鈴香さんの後を追うと、そこはリハビリテーションに辿りついた。中には、様々な歩行練習などをしている人がたくさんいた。


その中である一点に視線が目に入った。それは一生懸命歩行練習をする秀さんの姿だった。その傍らには先ほど出会った芽衣さんの姿があり、秀さんの歩行練習を見守っていた。

すると、鈴香さんが秀さんに近寄っては何やら喋り出していた。私にも聞こえる声だったので、何も起こらない事を願って様子を伺う事にした。



「秀、どうして私に隠していたの?」


「すーちゃん? どうしてここに? 隠していたって何を?」

「はぐらかさないでよ。ここに来てみればこの状況分かるよ。歩けない事どうして黙ってたの?」

「鈴香ちゃん、落ち着いて」

「芽衣ちゃんは黙ってて」

「すーちゃんには関係ないよ。だから、仕事に戻りなよ」


「私に心配させない為? 龍輔みたいに迷惑掛けないようにする為?」

秀さんの言葉に鈴香さんは冷静に質問しているけど、それは気のせいでどこか寂しそうだった。そんな鈴香さんだけど、それでもしっかりと秀さんに強い視線を向けていた。


「龍輔は関係ないでしょ」

秀さんはというと、そう答えると視線を逸らしていた。

「関係あるよ。龍輔と同じで迷惑かけないようにしてるくらい分かる」

「龍輔は関係ないって言ってるでしょ。すーちゃんには何も分からない! 帰って」

突然、秀さんが叫ぶような大きな声を出した。そのせいで周りがざわつき始めていた。

周囲に気付かない二人は依然として言い争っている。私には止めることが出来なかった。それは芽衣さんは同じなようで目で合図を送り、私に助けを求めていたような気がした。


「すーちゃん、龍輔の事いつまで引きずってるの? いい加減に龍輔の事忘れてよ」

「自分が何を言ってるか分かってるの? 秀!」

鈴香さんの逆鱗に触れたのか怒鳴っていた。


「鈴香さん、落ち着いて下さい。ここ病院ですよ!」

私は勇気を振り絞って声を張り上げるように声を出した。すると、鈴香さんと秀さんが私のほうへと振り向いた。


「君だったんだね、咲ちゃん。言わないでって言ったよね?」

不意に秀さんに睨みつけられるように鋭い視線を向けられた。同時に私は声を掛けたのを後悔した。


「咲ちゃんは悪くない。これじゃ、龍輔の思いが叶わないじゃない」

鈴香さんは小さく呟いてその場から立ち去ってしまった。



「ちょっと、すーちゃん待って。それどういう意味?」

言葉が気になったのだろう、鈴香さんの去り際に引き止めるように聞いていた。

しかし、秀さんの言葉が届かず鈴香さんはその場所から消えるように立ち去った。


「失礼します」

私は秀さんと芽衣さんに向かって軽く会釈をして、鈴香さんを追いかけるようにその場を後にした。


________________


それから何日か経ったある日の事。


私はまたも藍姉に呼ばれて、南総合病院に来ていた。いつものように外来の椅子に座って、藍姉が来るのを待っていた。私は、この時間がとても退屈だった。暇を持て余したのも当然、何をして待っていればいいのか考えてしまう。


けれど、私は昨日偶然にも悪い夢を見てしまった。その夢のせいで、今まで乗り越えられた過去が頭の中で蘇っていた。


「優真さんに、会いたい」

唐突に私の口から出た言葉。


「咲ちゃん、大丈夫? 優真の事を思い出しっちゃったか?」

不意に聞き覚えのある声が聞こえた。


俯いていて顔をあげると、そこには拓弥さんがいた。


「大丈夫です」


「でも、優真に会いたいって。何かあったら、あの時みたいに相談してくれよな。藍も俺も居るから」

拓弥さんは私の言葉に本気で心配してくれていたけど、それはまた私を悲しませない為だと知っている。


「ありがとうございます」

私は拓弥さんの暖かい言葉に苦笑いでお礼を言った。本心は大丈夫と言えば、嘘になるけどこれ以上は……。


そんな中、ある会話が私の耳に入ってきた。


「鈴香ちゃん、仕事大変でしょ。秀は私に任せて。大丈夫だから」

「でも、芽衣ちゃんに負担掛けるのも、」

「大丈夫って言ってるでしょ。お願いだから、秀から離れて」

「え?」

それは近くにいた鈴香さんと芽衣さんの会話だった。声が聞こえるほどの会話だったのもあり、話の内容からして一気に不穏な空気が流れ始めていた。


「私、知っているの。秀と鈴香ちゃんが両想いだって事、分かってる」

「違うよ。私と秀は幼馴染みだけで、」

「嘘付かないで」

黙って聞いていると、事が悪いほうに進んでいる気がした。私は止めたほうが良さそうと思い座っていた椅子から立ち上がろうとした時だった。


「あれってヤバそうだな。咲ちゃん、ここで待ってて」

その悪い気を拓弥さんも感じたのだろう、その場から離れて二人がいる場所へと行ってしまった。


私は拓弥さんの言葉を信じてその場所で待っている事にしたのだった。

次更新は2月24日の予定です。

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