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出会う奇跡の咲く道に  作者: はなさき
第二章 あの頃に託された思いを
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8話 隠す真実

拓弥さんが病室を出ていって、私と鈴香さんの間には(しば)しの沈黙が流れていた。


何かを切り出そうとするも眠っている秀さんを不安げに見守る鈴香さんになかなか声を掛けることが出来なかった。


そんな時だった。


「咲ちゃん、立っているの疲れない? そこの椅子に座っていいんだよ」

鈴香さんがようやく私のほうへ向き、優しい声で言葉を口にして沈黙を破った。


「はい、有難うございます。鈴香さんも疲れてないですか? 無理しないで下さいね」

私はそう答えて言葉に甘えて椅子に座ると、鈴香さんに気遣いの言葉を掛けた。


「有難う」

鈴香さんはさっきまでの雰囲気と違って微笑みながら御礼を言った。私はなぜか安堵の溜息をついた。


「すー、ちゃん? それに咲ちゃんも? ここってまさか、南総合病院? どうして?」

秀さんは目を覚まし体を起こして、鈴香さんと私を交互に見た。今までの事を覚えていないのか不思議な表情を浮かべている。


「秀! 大丈夫!? 事故に合ったの覚えてないの?」

秀さんの言葉に鈴香さんは驚いた。


「え、僕が事故? うっ」

秀さんは自分が事故に遭った事を耳にすると、目を丸くして(きょう)(がく)した。次の瞬間、頭を抱える。


「秀、大丈夫!?」

「秀さん、大丈夫ですか?」

私と鈴香さんは重なるようにほぼ同時に言葉を発した。



「鈴香ちゃん、秀の様子は大丈夫か?」

さっき男の人と話をする為に少しばかり病室を出ていった拓弥さんが再び病室に入ってきた。


「それが、何だか辛そうで……」

鈴香さんが拓弥さんに不安げに答えた。


「秀? 大丈夫か!?」

拓弥さんは鈴香さんの言葉を聞くと、秀さんが起きている事に気付いて駆け寄っていた。

しかし、その秀さんは頭を抱えたままだった。


「頭がすごく痛いんだけど、それより、僕はここにいる場合じゃないよ!?」

秀さんは急に何を思ったのだろう。立ち上がる動作をしようとするも上手くいかないのか首を傾げていたように見えた。


「秀を治療してくれた先生に聞いたんだけど、どうやら頭を強く打ってて暫くは痛みが残るかもしれないって。それに、」


そんな事よりも鈴香さんと拓弥さんはいいとして、私はどうしてここにいるんだろうと疑問に思ってしまった。


________________



数日後の事だった。


「咲、私も行ってもいい?」

不意の藍姉の言葉に呆気にとられて私は口をぽかんと開けた。

「えっ、どこに行くの?」

「どこって咲がいつも行ってる場所だよ」


「南総合病院」

私は藍姉の言葉に答えるようにぼそっと呟く。


「せいかーい。秀さんの様子も気になるし、」

藍姉は笑みを浮かべながらそう言うと、早速出かける準備をした。藍姉が秀さんの様子が気になるのは意外だった。けど、それはきっと……。


それはそうと、私は藍姉の行動に唖然とした。


「今すぐ行くの!?」

思わず声を上げる。


「いいでしょ、別に」

納得はいかないけど、私も出かける準備をすることにした。


そして、藍姉と二人で『南総合病院』へと足を向けたのだった。


________


それから、何分経っただろう。


病院に着くと、秀さんのお見舞いの前に藍姉は拓弥さんに会いにいこうと決めていたらしい。

藍姉が既に拓弥さんに連絡取っていた為、私と藍姉は外来の椅子に座って拓弥さんが来るのを待った。

暫くして、拓弥さんが来て少しばかり話をした。とはいっても、ほとんど二人で話していた。私は()()の外のように感じ、黙って耳を傾けている事が多かった。


「それじゃ、俺戻るわ。秀と鈴香ちゃんに会ったら宜しく頼む!」

そう言って、拓弥さんはその場を去っていた。少しの間があった事に違和感を感じたのはそっと心の中に閉じ込めて置くことにした。


「じゃあ、秀さんの病室に行くとするよ」

藍姉の合図とともに私達は秀さんの病室へと向かった。


エレベーターを使い、秀さんの病室の階まで着く。歩を進めると、病室まではあっという間だった。


『秀、大丈夫?』

『大丈夫、って言いたいけど歩けないと大丈夫じゃないからリハビリ頑張らないと。すーちゃんには言わないでね』

『そりゃそうだよね。分かってる言わないよ』

『ありがとう、()()

秀さんは鈴香さんではない女の人かと会話していたようだけど、何の話をしているのか筒抜けだった。


私と藍姉は病室前で立ち止まってしまった。なぜなら、秀さんから出てくるような雰囲気だと思ったから。

予想通り、秀さんが出てきた。秀さんは車椅子に乗っていて、その後ろに見知らぬ女の人が車椅子を押していた。

私はその見知らぬ人と目が合ってしまい、お互い軽い会釈を交わした。


「咲ちゃんと藍さん!? どうして、ここに? すーちゃんはいないよね?」

私達を見ると秀さんは驚き、辺りを見渡し始めた。


「鈴香さんは来てませんよ。どうしてそんなに焦っているんですか? それにその人は誰なんですか?」

藍姉がいきなり秀さんに質問攻めをする。


失礼だと思うけど、私も実をいうとその女の人が誰か知りたいと思っていた。


秀さんがどうして車椅子なのかも気になる。


「この人は、」


「私は、秀と付き合っている(むら)(やま)()()といいます。えーと、」

『え!?』

女の人の言葉に私と藍姉は声がハモるほどに目を丸くして驚きの声をあげた。付き合っているとはどういう事なんだろう。

私の勝手な想像なのかもしれないけど、秀さんは鈴香さんとがお似合いだと思うのに。



「御免ね。僕、検査に行かなくちゃ。芽衣、お願い」

その場を急かして逃げるように秀さんは芽衣さんに車椅子を押してもらって立ち去ろうとする。

その様子を見て私は固まって何も言えなかった。


「ちょっと、待ってください」

突然、藍姉が秀さんを呼び止めた。


「御免、検査の時間が押してるから急いでいるんだ」

「秀、」

理由が理由だけに秀さんは尚も急ごうとするけど、芽衣さんは動こうとしなかった。その隙をみて、私は気になる事を聞いてみることにした。


「あの、秀さん。どうして車椅子なんですか? まさか、事故の、」

「咲ちゃん、実はね。事故の後遺症で歩く事が出来なくなってしまったんだ。これから検査に行って、他に異常がないか詳しく調べてもらうんだ。すーちゃんには言ってないから言わないでね。龍輔の事もあったし、心配かけると余計に元気がなくなると思うから。お願いね。じゃあ、」

そう言って、早々とその場を去ってしまった。


去り際に芽衣さんが軽く会釈をしたので、私も釣られて会釈をした。


私は秀さんが言った言葉の真意が分からなかった。鈴香さんに心配かけたくないのは分かる。

けど、『元気がなくなるから』というのは不思議でならなかった。

秀さんは気付いてないのかな。鈴香さんはおそらく秀さんがいたからこそ今の今まで乗り越える事が出来たんじゃないかと。


「ほら、なに突っ立ってるの? 行くよ」

藍姉の言葉でふと我に返った。




暫くすると、藍姉に連れてこられた場所。


そこは、秀さんが入院している場所とは別館のナースステーションだった。どうしてここに来たのか分からず、私は首を傾げた。


「あの、すみません。(くら)()(すず)()さんはいますか?」

「えっ!?」

突然、藍姉がナースステーションに居る看護師に問い掛けた。私は思わず声が出てしまった。


鈴香さん?


「すみません今は居ませんが、どういった内容でしょうか?」

看護師が振り向いて応えた。


「えーと、鈴香さんと知り合いの者で、」

藍姉は言葉に詰まっていた。自分から問い掛けておいてそれはないよ。


「咲ちゃん、と藍ちゃん?」

そこへちょうど私達の背後で声が聞こえた。私が振り向くと、一人の女性が立っていた。


その声の人物こそ鈴香さんだった。

次更新は2月21日の日曜日です。

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