6話 相談事と期待 (秀side)
第二章スタートです。今回、章が変わっても話数は続いています。
あれから、二年近く経っていた。
幼馴染みの龍輔を亡くして二年も経つなんて思いもしなかった。
久し振りにすーちゃんと龍輔に会って嬉しかったのに、龍輔が亡くなってからすーちゃんが元気が無く、放って置けない状態が続いた。
龍輔が病気だと判明して治療を始めるも少し経つと、他の病気を併発し治療を辞める事になった。
それから少し経ったある日、龍輔に頼まれた。
『秀、お前に、頼みたい事が、ある。付き、合っている、彼女、居ないだろ。俺が死んだら、鈴香を、頼む』
病気が進行して息がしずらいのか、途切れ途切れの龍輔の思いもよらない言葉に耳を疑って僕は驚いた。
なぜなら、龍輔がすーちゃんの事を諦めるとは思わなかったから。
僕がすーちゃんの事を好きなのは知っているだろうけど、自分が病気だと知って死を悟っていてもこんなに簡単に諦める事が出来るのだろうか。
ましてや龍輔の性格からしては考えられなかった。
そんな龍輔の頼みを不思議に思って尋ねると、あの強がりの性格の龍輔が涙を流していた事に驚かされた。僕はそれ以上何も言えなかった。
いつか涙を流している理由が知りたいと思っていたけど、病気の進行具合が思った以上に早く、龍輔に理由を聞けないままになって、ついには亡くなってしまった。
でも、僕は今になってようやく少しだけ意味が分かる気がする。
すーちゃんは一年以上経った今でも龍輔の死を引きずり落ち込んでいる状態。
龍輔はこうなる事を予想していて、僕にすーちゃんを託したのかなと思い始めた。
だけど、僕が元気づけようとしても一向にすーちゃんの不安な要素はなくなってくれない。
そこでふと思い付いた。
南総合病院に努めて知り合った同い年の拓弥に相談してみる事にした。
しかし、同じ病院に勤めているにも関わらず、お互い忙しく会うことすら出来ないでいる。
二ヶ月経ってやっとチャンスが到来した。偶然、僅かなお昼休みに食堂で、拓弥に会うことが出来た。
「拓弥、相談があるんだけどいいかな?」
僕は拓弥の様子を伺いつつ尋ねた。
「相談? 別にいいけど、役に立たないかもしれないぞ」
「そんな役に立たないってことはないよ」
「そうか。で、その相談したい事って?」
拓弥にそう尋ねられると、僕はすぐには話さずに辺りを見渡した。
なぜなら、すーちゃんも僕と同じくここの病院に努めている。もしかしたら、すーちゃんがここ食堂にちょうど来ていたらまずいと思った。なるべく本人に知られないようにしたかった。
辺りを見渡すと、運良くすーちゃんの姿はなかった。
「?」
再び拓弥のほうを向くと、拓弥は何事かといった表情でぽかんとしていた。
「実はね。すーちゃんの事なんだけどね」
「鈴香ちゃんの事か! 何々、鈴香ちゃんの事が気になるとかなのか?」
僕がすーちゃんというと、拓弥は大きな声で納得したように言って、僕をニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた。
「馬鹿、大きな声で言わないでよ! 気になるけど、拓弥が思ってる事じゃないよ」
僕は思わず拓弥を制止しようと注意した。気を取り直して言葉を続けた。
「何でだよ。鈴香ちゃんの事が好きで告ろうか迷ってんだろ! 秀ならいける!」
拓弥は僕の言葉を聞いて、真面目に聞くどころか僕の気持ちを分かったように尚更ニヤニヤとにやけて張り切ったような声で答えた。
「ちが、違うよ! すーちゃんが亡くなった幼馴染み、すーちゃんの大切な人を失ってから元気無いんだよ」
僕は思わず否定しては今度こそという気持ちで話した。
「そういえば、俺の知り合いの女の子も大切な人を失ってから元気無かったんだよな。鈴香ちゃんの事心配になるならさ、」
僕の言葉がやっと伝わったのだろう、拓弥は真剣な顔で話に乗ってくれた。
その時だった。
拓弥の言葉を遮るように『プルルル』とどこからか何かを知らせる音が鳴った。
それは僕のポケットから鳴るポケベルのようなもので急かすように鳴り続けている。
「あっ、ごめん拓弥。急患のようだから、僕もう行かなくちゃ」
僕はそう言い残して食事していた食器が乗ったトレイを持って立ち上がる。
「嗚呼。とりあえず、鈴香ちゃんの事で悩んでるならメールしてくれよな!」
拓弥の言葉に僕は頷いてその場を後にした。
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それから、数日が経ったある日の事だった。携帯を見ると、一件のメールが来ていた。
メールを開く。
『久々だな。そういえば、鈴香ちゃんの事で相談したい事あったんだよな! あれから何かあったか? 何もなければ俺から提案があるんだけどさ、』
拓弥からのメールだった。
そういえば、拓弥にすーちゃんの事、相談していたんだっけ。
時が経てば、すーちゃんは龍輔の死を受け入れて元気になってくれると少しばかりは期待はしていた。けど、そんな事はない。
僕は再びメールを確認する。
「久しぶり。すーちゃんが元気ないのは変わりなくて、提案って?」
簡単な文章を並べて送信ボタンを押した。そして、暫くして返事が来たのは言うまでもない。
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「秀! 秀ってば!」
突然、聞き覚えのある声が聞こえた。
「すーちゃん?」
僕は突然の呼びかけに何事か分からず、首を傾げた。
「なんで気付かないのよ。で、話聞いてた?」
すーちゃんの言葉に僕はやっと我に返った。
「ごめんごめん。何だったけ?」
謝った僕にすーちゃんは頬を膨らまして睨みつけていた。
「だから、拓弥と一緒に咲ちゃんって子に会うんでしょ!」
僕の疑問に呆れ顔をしたすーちゃんだったけど、すぐに自信に満ちた声で繰り返した。
「そうだったね」
その場をごまかすように苦笑いした。僕が納得して頷いたのに、すーちゃんの機嫌は直らなかった。
僕はすーちゃんが言う咲ちゃんという子に期待していた。
あれから数日の間に拓弥から聞いた『咲ちゃん』という子は、なんでもすーちゃんと同じ状況の子らしい。
僕とすーちゃんは咲ちゃんに出会う事を楽しみにしていた。
これですーちゃんが元気を取り戻す事を願ってまだ見知らぬ咲ちゃんに託そうとしたのだった。
次回更新日は10日の水曜日をお休みして、2月14日です。




