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出会う奇跡の咲く道に  作者: はなさき
第三章 前を向いて進む一歩
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13話 すれ違いと退院と

それから数日経ったある日の事。私は、もうすぐ退院する時間になっていた。

病室には、拓弥さん、鈴香さん、秀さんがいた。


「咲ちゃん、退院出来て良かったな。おめでとう!」

拓弥さんが元気な声でそう言った。


「ありがとうございます!」

私もつられて元気な声でお礼の言葉を口にする。


「僕が先に入院したのに、退院では先に越されちゃったよ」

秀さんは笑いつつも寂しそうな表情をしていた。


「秀だって、頑張れば退院できるよ」

「え、それって僕が頑張ってないってこと? ひどいよ、すーちゃん」

「そういう意味じゃないって。秀は十分頑張っている。歩けるまではまだまだってこと」

「一生歩けない可能性もあるよ」

「それでも、頑張るの!」

鈴香さんと秀さんの楽しそうな会話を聞いていると、和む気持ちになるけれど、やっぱり何か気になってしまう。数日前から秀さんの彼女のはずの芽衣さんの姿を見たことがない事を。

秀さんは最近では芽衣さんよりも鈴香さんと一緒にいるところしか目の当たりにしていない。

もしかしたら、今では鈴香さんと秀さんの関係は……。


その時だった。


「二人とも、楽しそうだよな」

突然、拓弥さんが羨ましそうな目で会話をしていた二人を見ながら言った。


「そうかな? そんな事はないと思うけどね」

「そっ、そうだよ。楽し、くはないよ」

秀さんは何もないといった顔で言うけれど、鈴香さんを見れば戸惑っていると分かる。


「拓弥だって藍ちゃんがいるでしょ」

「嗚呼、」

数秒間の不穏な沈黙が流れた。


それは、秀さんの言葉で拓弥さんが俯いて答えたから。

いつもの拓弥さんなら、元気に「そうだな!」と答えるはず。


「拓弥、何かあった?」

秀さんも何かを察したのだろう。拓弥さんに心配そうに問いかける。

「何でもない」


「きっと、何でもなくはないよね。藍ちゃんと何かあったんだよね?」

秀さんは確かめるように言った。その姿が一瞬あの人と重なった。


「なっ、何もないって! 悪い、外の空気吸ってくるわ」

拓弥さんはそう言って病室を出ていく。その姿が何かを誤魔化すかのように見えた。そう思った次の瞬間。


「咲、退院おめでとう!」

元気よく入ってくる藍姉。


しかし、藍姉と拓弥さんはお互い視線を合わせず、無視したようにそのまますれ違っていた。


『え、今の何?』と鈴香さんと秀さんは言いたそうに目を合わせている。


「藍ちゃん、拓弥さんと何かあった?」

咄嗟に鈴香さんは尋ねる。


「何も、ないですよ」

すると、藍姉は笑みを浮かべて答える。私は藍姉の答えに少しの間と俯きが気になった。

それに、笑みが引きつっているように見えるのは気のせいかな。


「二人ともどうして分かりやすい嘘つくのさ!」

「秀、落ち着いてよ。きっと、二人にしか分からない事情があるんだよ。ね?」

「どんな事情なのさ!」

「私達が口出すことじゃないよ」

鈴香さんと秀さんが少しばかり大きな声で会話をしていた。


「私と、拓弥、別れたんです」

「!?」

突如、藍姉の言葉に私と鈴香さんと秀さんは目を丸くして驚いた。


「別れた? 原因は?」

秀さんはそう質問攻めする。


「そっ、それは、」

藍姉は戸惑う様子を見せると、私のほうをチラッと見た。私は首を傾げた。


「拓弥から一旦距離置こうって言われたんです。たぶん、咲のお見舞いに皆で行くはずだった日に、」

数秒の沈黙の後、藍姉が口を開いた。その言葉を聞いて私は思い出した。

あの時、藍姉と拓弥さんが居なかった理由、それは二人でこの事を話していたんだと。


「でも、それって別れた事にはならないと思うけどね。ただ距離を置こうってだけじゃないかな?」

不意に秀さんが藍姉に質問をした。


「……」

藍姉は黙り始めた。


「秀、余計な事を言わない!」

「余計じゃないよ。意味が違ったら拓弥に失礼でしょ」

「ごめんね、秀が余計な事を言って」

鈴香さんと秀さんが会話していて、鈴香さんは藍姉に申し訳なさそうに謝る。

けど、それでも相変わらず黙っている藍姉。


今までこんなに黙った事はないのに、拓弥さんの言葉に余程のショックを受けたんだろう。


「咲、そろそろ退院だ」

「もうちょっといいじゃない。あら?」

私達が暫く病室で話しをしていると、お父さんとお母さんが入ってきた。お母さんは急かすお父さんに声を掛けていたけど、私達に視線を移すと、首を傾げた。


「あっ、すみません。僕達、この二人の知り合いです。この辺で失礼します」

一瞬の出来事で、鈴香さんはそそくさと秀さんの車椅子を押してその場から立ち去ろうとしていた。


その時だった。何かが落ちた。

私は咄嗟にその落ちたものを拾った。拾い上げたものを確認する。


「えっ、この人」

衝撃を受けた。


落ちたものは一枚の写真だった。そこには鈴香さんと秀さん、それにもう一人どこか見覚えのある人物が写っていた。その見覚えのある人物はニット帽を被っており、今の秀さんと同じように、車椅子に座っていた。鼻には酸素チューブをしていた。


私には知らない人物のはずなのに、似たような人物が頭に浮かんだ。


「あっ、ごめんなさい。それ私の、」

「咲、何してるんだ。返しなさい」


「!?」

私はお父さんの言葉で我に返った。困っている表情の鈴香さんの様子を見ると、すぐさま手に持っている写真を返した。


「あの、鈴香さんと秀さんの他にもう一人この写真に写っているのって、」

「ん? あっ、私達の幼馴染みで私の大切な人だよ」

私が尋ねると、迷うことなく答えてくれた鈴香さん。その表情はまだどこか薄らと暗い影が映っていた。


「あの、私、その人」

「咲、準備しなきゃ」

私がある言葉を口にしようとした時、藍姉に遮られてしまった。


「失礼します。咲ちゃん、藍ちゃんまた私達に会いに来てね」

今度こそ鈴香さん達は病室を後にした。



それから、数分後。私は退院し、家族とともに病院を後にしたのだった。

次更新は3月16日の水曜日の予定です。

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