11話 悪夢という名の正夢
鈴香さんと芽衣さんが言い争っている日から数日が経っていた。
私は、秀さんがあの時以来、彼女の芽衣さんと一緒にいる所を見たところがない。鈴香さんと一緒にいるところは何度か見てはいるけど……。
それより気になるのは、不吉なあの夢を見た事。それがなぜかあれから見ることが多くなっていた。
どうして、あの人が夢に出てきたんだろう。
「さき、咲!」
ふと、藍姉の声が大きく聞こえた。私は我に振り返って、咄嗟に辺りを見回し視点を側にいた藍姉に向けた。
辺りを見回すといつも変わらない家の中、私は今、居る場所を見失うほどに考え事をしていたんだと少しばかり反省をした。
「ごめん」
藍姉に謝る。
「咲、元気無いけど大丈夫? 無理しないでね」
藍姉は少し間を置いて、心配そうな表情で声を掛けてくれた。
「ありがとう、大丈夫」
私は笑顔で答えたけど、上手く笑えず、笑顔が引きつっていたような気がした。
その後、藍姉と少し話をして、藍姉は拓弥さんと久々に二人でデート、と張り切ってお洒落をし、出掛けていった。
私はこの日は休みの日だった事もあり、する事もほとんどなかった。あの夢のせいで気分が冴えなかったので、思い立って簡単な身支度を済ませると外に出た。
外に出て暫く歩いていると、街はどこか静かだった。空を見上げると、私の気持ちと同じくらい今にも雨が降り出しそうな、どんよりとした雲が頭上をゆっくりと動いていた。
雨降らないといいな。
そんな事を願いながら、歩を進める。
数分で辿りついた場所はあのお店だった。優真さんが働いていたお店でもあった。
私は自動扉を抜けて中に入ると、それに気付いた店員さんの「いらっしゃいませ」と元気よく挨拶する声が聞こえた。
私は、ある物を手にしてレジに向かった。それは、あの時気に入って買い続けていた食べ物だった。レジに行くと、すぐ会計を済まそうとした。
「咲ちゃん! 咲ちゃんだよね? 凄く久々じゃないかい? 元気だったかい?」
レジの店員の声に見覚えがあり、下を向いていた私は顔を上げて直ぐに視線を変えた。
「律さん! お久しぶりです。今は、大丈夫です」
見覚えがある声の正体は律さんだった。
律さんとは優真さんと会った時に知り合って、当時はとても優しくしてくれた。
このお店の店長でもあり、優真さんをよく知る人物の一人。拓弥さんのことも知っていた。
律さんに会うのは久しぶりなのに、あの時から時間が経ってないような気がした。
一方で、どこか懐かしさも感じる。
「やっぱり。優真くんのことかい? また思い出しちゃったら、藍ちゃんや拓弥くんに頼りなさいな」
律さんは会計を済ませたものをレジ袋に入れて、私に渡しながら意外な言葉を口にした。
「はい。どうして、知ってるんですか?」
律さんの言葉に驚いていた。律さんに私の気持ちを知られているとは思ってなかったからだった。
「私は何でも知ってるよ。なんて、冗談だよ。咲ちゃんの顔色伺えば分かってしまうよ」
「え!?」
またもや意外な言葉だった。
私の気持ちってそんなに簡単に分かってしまうのだろうか。
「咲ちゃん、大丈夫かい?」
「はい」
律さんの心配そうな表情で私は不安になっていた。けれど、大丈夫じゃないと言ってしまうと律さんを余計心配させてしまうだろうと思った。
その後、私は律さんと長々と話すことは出来なかったので、「また来てね」と律さんに手を振られ、お店を後にした。それから、私は公園へと向かった。
外が曇っていることもあり、公園にはほとんど人がいなかった。その場にいると、風が冷たく肌寒くさせる。私は家に戻る事にした。
その日は何も起こらなかったけれども次に起きる現実に泣くことなんて思いもしなかった。
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それから二、三日が経った。
あの日と同じ、どんよりとした雲の日。私はちょうど外出していた。私の気分もあの時と同じ。
でも、一つだけ違う事がある。それは隣に藍姉、それに拓弥さんもいる。
だから、どこか安心してはいいはずなんだけども。
そう思ったのも束の間、突然私は今朝見た夢を思い出し嫌な気分になった。
どんよりした雲の空、藍姉と拓弥さんと一緒に青に変わるのを待っている交差点の信号。歩き出すと、私の横から走ってくる車、藍姉の叫ぶ声、そして最後に優真さんの顔が突如として頭にフラッシュバックするように過ぎった。まるで悪夢のようだった。
「さき! 咲!」
藍姉の声が大きな声で聞こえた。私は我に返って、藍姉のほうを見やる。
すると、私を心配する藍姉と拓弥さんの表情がこちらを見ていた。
「咲、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫! ごめんなさい」
私は不安にさせまいと笑顔で答えて見せた。
「無理はしなくていいぜ。家に帰って休んだほうがいいんじゃないか?」
「そうね。何かあるといけないから、私も一緒に帰る。拓弥、ごめんね」
私の笑顔が無意味だったかのように藍姉と拓弥さんには届いていなかった。
「私、大丈夫だから行こう」
私はそう言うと、二人はお互い顔を見合わせて頭に疑問を浮かばせているようにぽかんとしている。
「そう? ならいいけど」
「そう言われるとな」
二人は苦笑いしていたものの仕方なく、私の言葉を従うように折れた。私達は前を向き歩き出した。
数歩歩いた時だった。
最初の不安やフラッシュバックが無くなって楽しい会話をして歩いていた。
ふと、とある交差点の信号待ちをしていた。信号が青に切り替わると、私達は歩き出す。私は、少し出遅れて歩き出した。
その瞬間だった。
それは突如起こった。追い付こうと少し駆け出した時だった。
「危ない!」
知らない男の人の声が大きな声で叫ぶ。
「咲!?」
「咲ちゃん!?」
後ろを振り向いた藍姉と拓弥さんが私の名前を呼んで驚いていた。私は何事かと思って左右を見やると、車が止まれの線をこえて私のすぐ横にまで迫ってきた。足が竦んで避けきれない。
次の瞬間 、私は車と衝突し体が叩きつけられるほどの痛みが走った。私は目の前が真っ暗になった。
『誰か! 救急車呼んで!』
ただその言葉だけが、頭の中で響いていた。
今回から第三章です。
次更新3月9日の水曜日の予定です。




