10話(2) あの時の重なりと決断 [鈴香side]
あれから、三年が経っていた。
私と秀の幼馴染みであり、私の大切な人である龍輔が亡くなってからそんなに経っていたなんて思ってもいなかった。
時が過ぎるのはあっという間だけど、私の中では龍輔が居なくなって二、三日前の事のように思う。
あの時、龍輔から聞いた言葉に驚いた事がある。
『鈴香。よく聞いてくれ。俺が死んだら、秀と付き合っていつか結婚しろ。秀はお前の事が好きらしいからその想いに答えてあげろ。この事は秀にも話しといたから』
それは、龍輔と二人きりの病室での時だった。
『!?』
私は驚いて龍輔のほうを向いた。
すると、あの強気な龍輔が涙を流していた事を忘れない。
『龍輔? 大丈夫?』
龍輔が心配になって不意に出た言葉。
『悪い、何でも、ない。コホッコホッ』
そう答えた龍輔は、どこか苦しそうに咳き込んでいた。
きっと、知らないうちに病気が進行していたんだろう……。
『何でもない』という言葉に私は咄嗟に龍輔の背中を摩った。
けど、それを察した龍輔は私の手を払い除ける。
私はその時、静かに見守るしか出来なかった。
________
とある日の事だった。私は、思いも寄らない事を聞いた。
それは、つい最近会った咲ちゃんと藍ちゃんが私の働いているところまで来た時だった。
「さっき、秀さんのお見舞いに行きました。偶然に芽衣さんも居たんです。芽衣さんと一緒に居たのにも関わらず、秀さんは鈴香さんを心配させまいと隠している事があり不安そうでした」
藍ちゃんからそんな言葉が発せられた。その言葉を聞いた私はある事に気付く。
『隠している事がある』
今まで秀は私に隠し事なんてなかったはず……。
(まさか、そんな事って、ある?)
「すみません、ちょっと席を外します」
私はそう言葉を残して急いである場所に向かった。
辿り着いた場所はリハビリテーションだった。最初は病室に行ったのだけど、そこにいるはずの人物が居なかった。その階の看護師に聞いたら、リハビリに居るとの事だった。
リハビリテーション着いた私は中に入ると、ある人物がいないか辺りを見回した。
すると、視界に探している人物が映った。その人物は、歩行練習をしていて傍には芽衣ちゃんがいた。
「秀、どうして私に隠していたの?」
私は近付いて、不意に質問をぶつける。
「えっ、すーちゃん? どうしてここに? 隠していたって、何を?」
その人物は秀だった。
私の突然の質問に動揺を隠しきれないみたいだった。
「はぐらかさないでよ。聞いたよ。歩けない事どうして黙ってたの?」
「鈴香ちゃん、落ち着いて」
「芽衣ちゃんは黙ってて」
「……すーちゃんには関係ないよ。だから、仕事に戻りなよ」
「……私に心配させない為? 龍輔みたいに迷惑掛けないようにする為?」
私は秀が歩けないと聞いた時、私はどこかあの時の頑固な龍輔と今の秀が重なった。秀は龍輔みたいに私に隠し事なんてした事が無かった。
もしかしたらと疑問に思っている事が浮かんで知らないうちに放っていた。
問い詰めすぎなのは自分でも分かっている。
「龍輔は関係ないでしょ」
そう言う秀だけど、私にはそれが嘘だって分かってしまう。
私の考えすぎなのかもしれない。
「関係あるよ。龍輔と同じで迷惑かけないようにしてるくらい分かる」
私は再び思っている事を口にした。
「龍輔は関係ないって言ってるでしょ。すーちゃんには何も分からない! 帰ってよ」
突然、秀が叫ぶような大きな声を出すと、周りがざわつき始めた。
「すーちゃん、龍輔の事いつまで引きずってるの?
いい加減に龍輔の事忘れてよ」
不意に秀の口から意外な言葉が出た。
「自分が何を言ってるか分かってるの? 秀!」
私は頭にきて、秀を睨みつけた。
「鈴香さん、落ち着いて下さい。ここ病院ですよ!」
すると、思いも寄らない声がした。
「君、だったんだね。咲ちゃん。言わないでって言ったよね?」
その思いも寄らない声の持ち主は咲ちゃんだった。
「咲ちゃんは悪くない。これじゃ、龍輔の思いが叶わないじゃない」
私は耐えることが出来ず、ついある言葉を滑らせてしまった。その後、その場から立ち去った。
「ちょっと、すーちゃん待って。それどういう意味?」
秀が背後から呼び止めたように聞こえたけれど、聞く耳を持たずに無視した。
秀のその行動は後に私に好機を運んでくるなんて思ってもいなかった。
*****
ある日の事、それは起こった。私はいつものように病院来ていた。だけど、それは仕事として来たのではなく秀のお見舞いとして来たつもりだった。
久々のお見舞いだった事もあり、頭から芽衣ちゃんの事が離れていた。病院に着くと、入口の直ぐ近くに芽衣ちゃんの姿が目に映った。芽衣ちゃんも来たばかりの私の姿を見つけたみたいで私の所まで来た。
「久しぶり。鈴香ちゃん、仕事大変でしょ。秀は私に任せて。大丈夫だから」
そう、声を掛けてきた。
「でも、芽衣ちゃんに負担掛けるのも、」
私は申し訳なさそうに言うと、芽衣ちゃんは表情を変えた。
「大丈夫って言ってるでしょ。お願いだから、秀から離れて」
「えっ、それ、どういう事?」
私は芽衣ちゃんの言葉に驚いていて、戸惑う。
芽衣ちゃんはどこか目で訴えかけように強い視線を送っていた。私は状況が呑み込めない状態に陥り、ついには黙る事しか出来なくなり、一気に不穏な空気が流れ始めた。
数時間後、不穏な空気が消えたのにも関わらず、私はモヤモヤしていた。
あの後、秀が私と芽衣ちゃんの前に現れて、なぜか秀は芽衣ちゃんではなく、私に確かめたい事があるからとリハビリに付き添うように言った。
それを聞いた芽衣ちゃんは悔しさからか病院を出ていってしまった。私はどこか芽衣ちゃんに対して罪悪感を感じた。
秀のリハビリが終わると、私は秀と一緒に病室に来た。けれど、さっきまでとは違った不穏な空気が流れ病室は沈黙が続いた。
私はその空気に耐えれなくなって、秀に確かめたい事があった事を思い出した。
「ねえ、話って何?」
私は疑いの目を秀に向けて尋ねる。
しかし、秀は黙ったままで私はまたその沈黙を破るようにもう一度尋ねる事にした。
「言いにくい話?」
「龍輔の思いってこの前言ってたよね? 知ってるの?」
すると、秀はやっと言葉を口にした。秀の言葉に私は小さく頷く。
「龍輔は私と秀が結ばれる事を望んでる。俺が死んだら、秀と付き合っていつか結婚しろ。秀はお前の事が好きらしいからその想いに答えてあげろって言われた。秀にも話しといたからって言ってたから秀は知ってるんだと思ってたけど、」
あの時の事を思い出しながら、私は龍輔の言葉を秀に伝える。
「知ってるよ。すーちゃんにも言ってたなんて思ってもいなかったよ。龍輔がすーちゃん本人に言うなんてね」
秀は笑っていたけど、それは苦笑いで嬉しそうではないように見えた。
それからは、私と秀はお互いの幼馴染み、龍輔がいた頃の懐かしい話をした。
暫くして秀がベッドに横になった。ベッドに横になった秀の行動を私は察した。きっと、疲れているんだろうと……。
「私、帰るね。龍輔みたいに無理しないでね」
私はそう言葉を残し、その場から立ち去ろうとした。一度立ち止まって秀のほうを振り向き、笑みを浮かべた。
「私、今でも龍輔の事を愛してる。けど、私との付き合いも考えておいてね」
そう言うと、今度こそ立ち去った。
(これで良かったのかな)
私は廊下まで来ると、何故か目から涙が零れた。でも、この時は思ってもいなかった。
私の決断で起きる事なんて。
幸せなはずの事なのに、忘れたくない。決して、忘れてはいけない。龍輔を……。
今回で、第二章終わりです。
次回更新から第三章です。
次更新、3月6日の日曜日の予定です。




