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敵は水です  作者: 小長一音
8/8

決める時

 それからどのくらい経っただろう。

 いつの間にか目黒は大塚と『お友達』というものになっていてメールをしあえる仲にしてくれた。

 どうやって目黒が大塚に近付いたのかは……訊かない方が身の為だと目黒は言った。

 確かに、そんなことを知っても文月は目黒の腹黒さにただ嫌気が差すだけだろう。

 だから、大塚にも文月は訊かなかった。

 普通にしていたかった。少しでも長く。

 目黒の話ではもうすぐこのサボテン、小町も花を咲かす時期になるそうだ。

 そうしたら……。

 決める時が来る。

(この花が咲いたら言う。咲かなかったら……言わない)

 だってそれは愛が足りなかったってことでしょう?

 そんな風でしか決められない自分が情けないと思いながら文月は決めた。

 これは『賭け』だ。半々の確率――どちらにしても。


 *


 その日、サボテン小町は咲いた。

 だから、大塚に自分の手のことを言おうと文月は腹を決めた。

 もう、止まってしまいたくなかった。

 嫌がられたとしても……それは最初から分かり切っていたことだ。

 どうせ知られることになるなら……早いうちが良い。

 ムズムズしてなくて済む。

 その方がもっと生き生きと生きられるはずだから。

 文月は大塚にメールした。

『話したいです』

 今はそれしかなかった。

 このくらいの関係がどのくらいになるか……それでしか訊けなかった。


 *


 話はやはり休日の本屋でだった。

 それも唐突に始まった。

 予定よりも早く、緊張して来る。

 そうなったのも大塚が「最近行くようになった本屋があってね……」という話を聞き、行ってみたいな……と思った文月がその本屋に行ったらまさかのまさかでやっぱりその本屋にあの大塚がいたからだ。

 一瞬で二人して「あれ?」となった。

 まあ、あんまり来ない本屋だ。

 こんな話をしても良いのかもしれない。

 大塚は全ての話を聞き終わるとそのことには触れないで別の話をし始めた。

「君に最初に会ったのは実はね、あの児童図書館だよ。君は覚えてないかもしれないけど。まあ、俺もそんなに記憶力は良い方じゃないからすぐには分からなかったんだけどね。それでも、君のその行動で……あれ? どっかで……って感じになった。たまたまが重なって来ると偶然かな? って思うし、そんな偶然が重なって来ると必然的な運命かな……って思えてこない?」

 そう言って大塚は微笑した。

 文月はすぐにこう思った。

 よく言う。そんなロマンスごろごろ転がってそうな言葉、私には到底言えない。

 そういうのは本の中のお話だと思ってしまうほどだ。

 でも、同時にがっかりしてしまう。自分の弱みに、受け入れなさに……。

 そんな思いを見透かされたのか大塚はふっと笑ったように言った。

「まあ、君に話しかけたのはただの興味から生まれたものだったけれど」

 興味……だとぉ! なんて言えもしないのでちょっと顔を赤らめて黙っていた。

 そうしたら、向こうは上から目線を合わせながら、

「文月ちゃんね。これから」

 と事もなげに言ってくれた。

 はい。なんてすぐに言える訳もなく、ただずっと無言でその方だけを見ないようにして横を向いた。

 何なんですか! この展開は!

 誰かにそう怒鳴ってやりたくなった。いや、恥ずかしかっただけで……だが。

 そんな大塚は平気で適当な本を読み始めてしまった。

 こうなると気安く話しかける訳にはいかない。

 何たって彼がこうしてここにいるのは実家のうるさいから逃れる為なのだから。

 ここは黙っておこう。それとも……。

(すみません!)

 と心の中で詫びてから文月は大塚にこそっと小声でこう言った。

「あの、帰りますね。私」

「あれ? もう帰るの?」

 予想外の返しに文月は内心、ぐらっと来たが素直に用意していたその言葉をそのまま大塚に言ってしまった。

「はい。時間も時間なんで」

 そんな時間では全然なかったがそういう風に言っておこう。

「じゃあ、気を付けて……。と、『送ってく』どっちが良い?」

 不意の出来事に文月は戸惑った。

 何だ? この人は完全に……。いや、それ以降のことは考えないようにしておこう。

このお話はこれで終わりです。

もし、この後に続く言葉があるならそれは、


楽しいことが待っているだけだ。


です。

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