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敵は水です  作者: 小長一音
3/8

ここにいる理由

 文月は本屋に着くとすぐに探した。

 だが、その少しあった期待はすぐになくなった。

(ないなぁ……)

 少しがっかり来る。

 それでも諦めずに探しているとにやっとなった。

 いや、心の中でだ。

 何だろう、この感じ……自力で見つけられた喜び。

 とても嬉しい。

 そして、手に取る。

 その瞬間――、

「また、会ったね」

 と言われた。

 こんなことを言って来る人はあの人しかいない。

 文月は一瞬でその人の名を思い出した。

(大塚さん!)

 その声の方を見ればやっぱり『大塚さん』だった。

「あ」

「ん?」

 別に声なんて出すつもりはなかった。

 だけどつい、出てしまった。

 こうなったら仕方がない。

 まずは挨拶からだ。少し勇気を振り絞って文月は大塚さんに声をかけた。

「あの、こんにちは」

「こんにちは」

 大塚さんはとても落ち着いた声でそう言ってにこっと笑った。

 何だか気安い感じだ。

 何故笑うのかと問いたい気持ちを文月は抑え込み、何かを探しているような大塚に、

「何か探し物ですか?」

 と訊ねた。

 すると、大塚は、

「本屋だからね」

 と言って微笑した。

 結局、大塚の欲しい物が何だったのか分からなかったがこの際! と思って文月は大塚に話し続けることにした。

 今日は十分時間がある。

「何でいつもここにいるんですか?」

 大塚にとってその率直な質問は唐突だったらしく、何かを探し求めていた目を止めて大塚は少し微妙な感じで文月を見てから潔く言った。

「時間潰し……もあるけど本来は逃げるためだよ」

「逃げる?」

 意表な答えが返って来た。

 それでも聞かなくてはならない。

 質問を最初にしたのはこっちなのだから。

 大塚さんは素直にまじめにその訳を話してくれた。

「そう、俺、実家暮らしなんだけどさ……訳あって。それでその実家に小さいって言ってももう小学生になる姪が来るんだ。『おじいちゃーん、おばーちゃーん』って。だから、逃げてる。静かに本読みたいから」

 文月はそれをあっさりと認めた。というかそうするしかない。疑うなんてまだ出来ない関係だし、ここにいる大塚は大抵その『静かに本読みたいから』を実行していた。

(そういう意味があったんだ……。確かにそういう気持ち分かるかも……)

 と、もうその話を聞けただけで今日の文月は満足となっていた。欲しい本もすでにこの手の中にあったし。

「話出来て良かったです」

 そう元気に言い切って文月はさっさとレジに行った。

 そして、大塚をそこに残したまま家に帰ったのだった。

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