閑話休題:手紙を書こう
☆軽い人物紹介☆
シャンクレイスサイド
サキト:シャンクレイスの王子様。小悪魔タイプ女王様系。
ヒタカ:サキトの専属護衛剣士。犬。
アストレーゼンサイド
ロシュ:アストレーゼン司聖。裏の顔を持つヘタレ司祭。
オーギュ:ロシュの補佐。きつい性格だがドM。
リシェ:ロシュを護衛する少年剣士。不運を呼び寄せる。
スティレン:リシェの従兄弟。この世で一番自分が大好き。
やっぱ同じ年の仲間が近くに居たらいいのにな、と呟くシャンクレイス公国第三王子、サキト。花瓶の花の手入れをしている護衛剣士のヒタカは、自分がいかにおっさん的な年齢なのかを思い知らされてしまう。
「スティレンに手紙書こうかな」
「えっ?」
隣国アストレーゼンで剣士として活動する少年に、サキトはご執心だった。そんなにまで好きなのか…とヒタカは気落ちする。確かに性格に難があるが、若さや剣の腕も、彼の方が将来性もあるし年齢が近いので話し相手には最適だ。
それに比べて、自分は年も離れているし出来るのはサキトの盾くらいで、会話もあまり成立しにくい。
「サキト様直々にお手紙を?」
「そう!うふふ、きっと驚くと思うの!」
一国の王子とあろう者が、貴族出身なれど格下と言える相手に手紙を送るとは。ヒタカは困惑した。
「えっとぉ、…おーげーんーきーでーすーか?…って、何で僕が敬語使わなきゃなんないんだろ」
「一応、礼儀もありますし…無難ではないでしょうか?」
サキトは可愛らしい顔を歪めながら、「普通ならさ」と話を切り出す。ヒタカはへっ?と間抜けな返事をした。
「向こうからご機嫌伺いするべきじゃないの!」
自分から言い出したくせに、相手から手紙をよこせばいいと言いたいらしい。
「だってそうでしょ?僕はシャンクレイスの王子なんだよ!スティレンはその国の人間なんだから、普通ならあの子から出すべきなんだよ!もう、気が利かないんだから!」
滅茶苦茶だ。自分が気になるのだから、自分から動けばいいのに。ヒタカは頭の中で言葉を組み立てながらサキトに言い聞かせる。
「ですが、サキト様から直々にお手紙を与える事によって、スティレンさんもシャンクレイスの事やあなたの事を思い出して、愛国精神も芽生えます。更に、彼の周りの人々のあなたに対する評価もぐんと上がりますよ?何しろ、王子様自ら目下の人間にお手紙を送るのですから、皆感動し感謝されます」
出来るだけいい事を言った。メリットを押し出せば、「クロスレイ、スティレンに手紙を出すように言ってきて!」と無茶ぶりを言われずに済む。
ううんと唸るサキト。しかし、ぱっと顔を上げた。
「そうだね!」
「!」
「今のうちに恩を与えるに越したことはないね。なかなかいい事を言うじゃない、クロスレイ。褒めてあげる」
サキトはヒタカに笑顔を見せると、改めて手紙をしたためた。
…よ、良かった。無茶だけは避けないと…。
ヒタカは胸を撫で下ろし、再び花の手入れを再開した。
サキトがスティレンに手紙を送った日から数日、司祭の国のアストレーゼン。何故か大聖堂に送りつけられたスティレン宛の手紙を手に、司聖補佐オーギュスティンが「はて」と首を傾げた。
「どうしましたか、オーギュ」
アストレーゼンの司祭のトップ、ロシュはそんなオーギュの様子に不思議そうに問う。
「シャンクレイスの王子様からの手紙ですが、宛名がスティレンなんですよ。どうしたんですかね?」
「ははあ…きっと、兵舎側の住所が分からなかったんですよ」
凄くお気に入りみたいでしたからねと微笑んだ。
オーギュはまあいいでしょうと言うと、隣室のリシェを呼んだ。ロシュ専属の騎士であるリシェは、豆のぬいぐるみに引っ付かれながら「呼んだか?」と顔を出す。
「スティレン宛の手紙です。渡してあげて下さい」
「分かった」
素直にリシェは受け取った。
…という訳だ、と兵舎で休憩中のスティレンに手紙を渡したリシェは、すぐにロシュの元へ帰ろうと踵を返す。しかしすかさずスティレンは彼の首根っこを掴み、それを阻んだ。
「待ちな!!」
ぐっと息を詰まらせるリシェ。
「何だよ!?」
「差出人、見たろ?」
「見たけど、何?」
「あの馬鹿王子じゃん!!」
過去に自分を散々こき使ってくれた故郷の国の王子様。足のマッサージをやれ、買い物付き合え、紅茶を入れろだの使われた記憶がまざまざとプライドの高すぎるスティレンの脳内に蘇ってくる。あの愛くるしさの中の憎たらしい性格を思い出すだけで蕁麻疹が沸いてきそうだ。
リシェは「召集令状じゃないのか」と完全に他人事。スティレンはその言葉にかっとなり、つい彼の頭を殴る。
「痛い!!!」
ごつんと鈍い音がした。
「何で俺に来て、お前に来ないんだよ!!」
「知らないよ!!」
スティレンは舌打ちしながら手紙の封を開けた。本当に召集だったら本気で拒否してやるよ!と息巻きながら。そして、手紙を開いて目を通す。
『元気?相変わらず剣士生活してる?いつになったら戻ってきてくれるの?ポスト空けておいてあげるから、さっさとこっちに戻って僕の犬になってよね!あっ、ちなみに君は僕の番犬二号って事に決まってるからよろしくね!』
その文面に、スティレンは頭の中が真っ白になる。誰もこの手紙を推敲しなかったのだろうか。固まるスティレンの横から、リシェはひょいと手紙を覗き見た。
「ほう。王子様の犬になれって事か。良かったな、向こうでも仕事にありつけるぞ」
「誰が犬になるか!!ふざけやがって、あのガキ!!」
一国の王子とは思えない手紙の中身に、スティレンは怒り狂いながらそれをぐしゃぐしゃにしていた。