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鬣すね毛文化圏で僕は男をあげられるか。

作者: とけきりひぃすぅみぃ
掲載日:2026/07/22

(´・ω・`).;:…(´・ω…:.;::..(´・;::: .:.;:……あ、つ、い

 この異世界に来て、もう二年になる。


「もう、開き直って家庭とか持とうかな」


 二十二歳。日本人の感覚としてはだいぶ早い気がするものの、この異世界での結婚適齢期は十代後半から二十代半ば。僕はもう折り返し地点を過ぎたことになる。

 日本に帰れる気もせず、もう半年もこの村の厄介になってしまっているほどだ。


「ふぅ……」


 魔法で沸かした湯船に浸かり遠い日本を思っても、もう思い出すら色褪せていた。

 どこからか馬のいななきが聞こえてくる。

 この村は平原にある。名馬の産地で馬上弓の使い手が多く、平原に出る魔物を狩って食料にしているほどたくましい。

 近付いてくる馬のいななきを聞き分けて、知り合いのダグラが帰ってきたのが分かった。ダグラの愛馬は変に語尾が上がる鳴き方をするから分かりやすい。


「また風呂に入りたいってやってきそうだな」


 世話になっているからと一度風呂を体験させたのが運の付き。ダグラは狩りの後には必ず僕の家を訪ねて来て、風呂を借りていくほどの風呂好きになった。

 まぁ、こういう形で文化交流ができるのは悪くないとも思う。流石に狩り仲間まで試したいと言ってくるのは困るけど。

 どうせ訪ねてくるのなら、と僕は風呂から上がって服を着る。今日はもう出かける予定もないし、最近暑くて寝苦しいから短パンでいいだろ。

 案の定、玄関からダグラの声がした。


「オヅマ! 風呂を貸してくれ! 土産もあるぞー!」

「聞こえてるよー」


 土産つきということは、狩りは大成功か。

 玄関扉を開けると、耳が翼上に変化したウサギのような魔物を持ったダグラが立っていた。


「オヅマ! 見てくれよ。耳飛びウサギがちょうど渡ってきたところで――」


 ダグラはそこまで言って、僕の足元を見て驚愕の表情を浮かべた。


「おまえ、オヅマ! すね毛どうした!?」

「は? すね毛って」


 別におかしなところはない。元々あまり毛深くない方だが、身だしなみとして剃ってある。

 しかし、ダグラは僕の体調を心配するように獲物を放り出してボクの両肩に手を添えた。


「オヅマ、別に狩りに出ないからって悩むことはない。お前の知識には助けられているし、子供たちに計算も教えてくれてみんな感謝してるんだ。お前は立派な男だ。すね毛を剃る必要なんてない」

「いや、男云々と関係ないだろ」

「あるだろ! ……そうか、オヅマは遠くから来たんだったな」


 それまでの興奮振りが嘘のように我に返ったダグラは自分のズボンのすそを持ち上げる。魔物との戦闘も予想されるのでなめし革の分厚いすね当てがついているが、それも手早く外して脛を見せた。


「この辺りの男はこうやってすね毛を馬の(たてがみ)のように残すもんなんだ」

「えっ……」


 きもっ、という言葉はぎりぎり飲みこんだ。そういう文化なんだから、僕の価値観で否定するのは傲慢そのものだ。

 いやでも、そんな手間かける必要ある?

 見えてないじゃん。ちょんまげの国の出身だけど、ちょんまげは見えるよ?

 僕が久しぶりに直面した異文化を理解しかねていると、ダグラは続ける。


「すね毛がないと防具のなめし革が直接こすれて痛いだろう。狩りをする男の証でもある」


 布を巻けばいいと思うんだけど? 鬣すね毛に整える手間をかけるくせに布を巻く手間は惜しむのか?


「この辺りだと、すね毛がないって言うのはまだ一人前の男になっていないと見なされる」

「へぇ」


 まぁ、そういう文化もあるか。

 ちょんまげもたいがい意味不明だけど、兜を被った時に蒸れないようにする意味だとか聞いた覚えがあるような、ないような。

 実益があってそうしていたものがいつの間にか一人前の証になったって流れなら理解はできる。

 ダグラが扉を閉め、神妙な声で深刻そうに告げる。


「オヅマにそろそろ女を紹介して、正式に村の一員に迎えようって話が出てるんだが」

「それは光栄だけど……すね毛がないとだめ?」


 奇しくも風呂で考えていた話を持ち出されて、僕も思わず声を落とす。

 ダグラが深く深く頷いた。


「ダメだ。娼館に入っても追い出される。一人前の証がないからって理由じゃないんだ。……普通、男は自分のすね毛を鬣に整える。それが剃られているってことは、面倒な女に剃られる被害に遭ったと考える方が辻褄があっちまうんだ」

「……ごめん、理解ができない」


 この世界の面倒くさい系女子って相手の男のすね毛を剃るの? 本当に意味が分からない。


「独占欲が強い女はすね毛を剃りに来る。寝ている間とかにな。そうすれば、男はつるつるのすねを恥ずかしがって他の女と寝れねぇからだ」

「な、なるほど?」


 まだ恥ずかしいって感覚が湧かない僕に言われても困る。

 ダグラは風呂場に向かいながら片手を上げる。


「男をあげたかったら、鬣すね毛にしろってことだ。それじゃ、風呂を借りるぜ」


 脱衣所の扉が閉まり、僕は呟く。


「鬣になるほど生えねぇよ……」


 日本に帰るのと毛生え薬を見つけるの、どっちが早いんだろ。


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― 新着の感想 ―
時代劇でちょんまげを切り落とされるのと同じ意味って事ですね
あー、すね毛を剃ってるのは婚姻してる証、みたいな?  何故かほぼ全方位からスルーされる異世界ムダ毛(ムダ毛処理)問題w 「オレの異世界じゃ首から下にゃケなんてモンは生えねぇんだよ(除く獣人の尻尾♡)…
コレは、なかなかに難しい文化だなァ 髷になるまで伸びないのは、半人前?
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