7. 耐性?
デイリークエストの内容は、ログボの他にも色々あるようだった。
内容は簡単。
冒険者ギルドの依頼を1件完遂することと、日記をつけること。
あとは筋トレとか5km走るとか。
「5km……」
ちなみに報酬はスタミナの最大値が+10点。
現在値が10だから、加算されればスタミナは2倍に増えることになる。
ゲーム的にはやったほうがいいのだろうが、正直今日は疲れた。
「筋トレは……腕立てと腹筋、スクワットをそれぞれ10回か……」
5回くらいでへばった記憶しかない。
その2倍の数を毎日……。
「でも筋力+2点は美味しいんだよね……」
今の私は全てのステータス値が1。
最弱中の最弱である。
おそらくこの世界では弱い部類だろうアルミラージにすら勝てないような貧弱者なのだ。
……一般的なステータスが、どれくらいなのかはわからないけど……やっておかないとこの先かなり苦労しそうな気がする。
「あとで寝る前とかにやろ」
私はクエスト画面を終了させると、続いて気になっていたショップ画面を開いてみることにした。
鑑定は、なんとなくわかるから後回しでも全然問題ないだろう。
「ショップ画面も結構ありふれた感じなんだね……」
多くのMMORPGで見かけるような具合のラインナップだ。
季節や地域の限定商品が並んでたり、武器や防具、回復アイテム、あとは日用品や小物雑貨も売られている。
今の季節は、どうやら水着などが売り出されているようだ。
あとは水鉄砲。
「これは……武器、なのか?」
武器カテゴリで販売されているそれを一瞥して、怪訝な表情で口端を痙攣させる。
詳細を見てみると、どうやら水属性魔法のアーツ〈ウォーターカノン〉を使えるようになるというもののようで、括りとしては一応魔法銃に分類されるようだった。
アーツとスキルの違いってなんだろ。
字面からして、スキルは大きなカテゴリみたいなもので、アーツはその中の細かい分類みたいな感じなのかな。
「今は無駄遣いできないし、とりあえず必要なのだけ買っとこ」
ティッシュやハンカチ、替えの衣類、それから飲み物と食べ物を検索する。
「へぇ、結構かわいい服とかあるんだ」
スクロールしながら、かなり現代チックな衣装からファンタジーな衣装、近未来系までそろっていて色々見てしまう。
……でも、いくら服がかわいくても、私自身があまりかわいくはないから似合いはしないだろうなぁ。
(お母さんは、ちゃんとしてれば美人なのにっていうけど、あれもう10年以上前の話だし)
とりあえずパジャマとして黒いジャージを1着と、それから冒険用の装備として防御力が高い物の中で今買える値段の動きやすい黒いリネンシャツと胸当てを籠に入れた。
「あ、食べ物って回復薬扱いなんだ」
回復系アイテムのタブを開いてみると、ずらりと並ぶ料理の数々に少し驚く。
肉料理はスタミナの回復速度を高める。
サラダ系は状態異常耐性。
飲み物とスイーツは体力回復。
卵料理は自動HP回復ボーナスが基本らしい。
料理によって回復量や付与効果が変わるみたいだけど……とりあえず使い勝手が良さそうで一番安いローポーションだけ購入しておくことにした。
「こんなところかな」
食事は、せっかくだからこの世界のものが食べたいし。
支払いはどうやらこの世界の通貨か、あるいは魔石で購入するみたい。
しめて銀貨3枚と大銅貨2枚を支払うと、ストレージ内に自動でアイテムが追加された。
「ぐぅ、手痛い出費だ……」
手元に残った銀貨6枚と大銅貨58枚を眺めながらつぶやく。
この街に来たときよりはましだが、あまり無駄遣いしないようにしないと。
あとはネットも使えれば完璧なんだけど……さすがにSNSも全く使い物にはならなかった。
使えたら使えたで、元の世界の私がどうなってるか気になって調べちゃいそうで怖いから、つながらなかったのは不幸中の幸いだとは思うけど。
私はため息を吐くと、銀貨を1枚だけポケットに残して1階の食堂へと向かった。
***
翌朝。
昨日買った装備に身を包んで冒険者ギルドにやってくると、私はギルドの裏手にある広い運動場のような場所──訓練場に通された。
中にはすでに十数名の冒険者が待っていた。
だいたい中学生から高校生くらいの子供だが、数人大人も混じっている。
装備は革の胸当てや手甲、腰には剣を差しているものが大半だが、ちらほら、杖や槍を持っている人も見受けられた。
よかった、大人の人もいた。
私は胸をなでおろしながら、腰のショートソードの柄頭を握った。
少なくとも場違い感を感じることはなさそうだ。
「さて、時間には少し早いが、全員そろったということで講習を始めさせてもらおうか」
しばらくして、スキンヘッドに眼帯をつけた男が、数名の女性を連れ立って姿を現した。
昨日、銭湯で見かけたあの金髪碧眼の美少女と、そのお付きのメイドである。
昨日は裸だったからわからなかったが、今はその腰に2本の剣が差さっていることが見受けられた。
(あの子も冒険者志望だったんだ……)
参加者の中に少女とメイドたちが混ざるのを見て、私は少し意外感を覚えた。
てっきり、彼女は守ってもらう側だと思っていたからだ。
「私が今日から諸君らを訓練する、元Aランク冒険者のアイザックだ」
剣の鞘を地面に突き立てながら名乗りを上げると、受講生たちが一斉にざわめき始めた。
「やりましたねお嬢様!」
「ついてますよ、まさかいきなりAランクの方からいろはを教えてもらえるなんて!」
メイドたちの黄色い声が聞こえる。
Aランクといえば、ラノベでも大体最上位の一歩手前くらいの実力者だ。
すごい人なのは間違いないのだろう。
(元、っていうのは……)
私はちらりと眼帯に視線を向ける。
おそらく怪我か何かで引退したのかもしれない。
「静かに」
アイザックがカツン、と鞘を地面に打ち付けた。
ざわめきがぴたりと止まる。
「諸君には、訓練を始める前にこれをつけてもらう」
そう言うと、ギルドの建物の方から職員が数人、箱のようなものを抱えてやってきた。
中には、金属製の輪のようなものが入っている。
(……首輪?)
嫌な予感が脳裏をよぎる。
「何、大したものじゃない。きっと、諸君らの成長を補佐してくれることだろう」
職員たちは私たちの後ろに回り込み、次々と首元にそれを当てていく。
カチリ。
私の首元で、小さな金属音が鳴った。
「……え?」
思わず指で触れてみる。
ひんやりと冷たい金属の輪が、首にぴったりとはまっていた。
外そうとしてみても、びくともしない。
周囲でもざわめきが広がり始める。
「これ……外れないぞ」
「おい、なんだこれ」
不安そうな声がちらほら上がる中、一人の受講生が手を挙げた。
「あの、これは?」
その問いに、アイザックは特に気にした様子もなく答える。
「隷属の首輪だ」
一瞬、場が静まり返った。
「……え?」
誰かの間抜けな声が、ぽつりと落ちた。
私は思わず自分の首元を押さえる。
(隷属……?)
頭が一瞬真っ白になる。
するとアイザックは、さも当然のように続けた。
「契約書にも書いてあっただろう?
まあ大半の新人は、契約書なんて読まないがな」
彼がそう言って、手元の紙に何やらさらさらと書き込んだ直後だった。
『スキル〈拘束耐性〉を獲得しました』
『スキル〈呪詛耐性〉を獲得しました』
『スキル〈隷属耐性〉を獲得しました』
『スキル〈隷属耐性〉により、呪詛スキル〈隷属の首輪〉の妨害に成功しました』
周囲の人たちの首輪が怪しい光を発する中、私の首輪だけが、足元にごとりと音を立てて落ちた。
「!?!?!?」
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