表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者(♀)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

6. 犯人?


「生き返る……」


 人は本当に死にかけると、こんな言葉が自然に出るらしい。


 広い湯船に体を沈めながら、私はぐったりと天井を見上げた。


 兎にも角にも、水を飲み、どうにか温泉にありついたのだ。

 温泉、とは言うがどうやらこの街には暑い日に熱い風呂に浸かるという習慣はないようで、張られているのはただの水だったが。


 石造りの高い壁。

 天井にぽっかり空いた穴からは夏の日差しが差し込み、冷たい水が生ぬるく体を冷やしていく。


 もはや銭湯というより、裸で入るプールみたいな場所だった。


 ……しかも今は貸切。

 夢かな?


 私はストレージの横に開いたもう一つのウィンドウに『洗濯中』という文字が点滅しているのを見ながら、ぼんやりとこれからのことを考えた。


「残金が、あと大銅貨30枚か……。

 結構キツイなぁ……」


 銭湯の入浴料で大銅貨30枚。

 隣接してる宿で一泊銀貨1枚。

 さっきの男の子に支払ったのが銀貨1枚。

 残りがたったそれだけ。


 どうやら、大銅貨60枚で銀貨1枚になるらしい。

 これが日本円に変換するとどれくらいなのかはわからないけど、少なくとも明日の宿代が支払えないことだけは確定してしまった。


「明日収入がなかったら野宿じゃん……」


 ため息をつくが、水風呂の気持ちよさには変えられない。

 明日のことは明日の自分がなんとかするだろう。


 そんなことを考えていた時だった。

 浴室の扉がわらわらと開き、団体客が入ってきた。

 金髪碧眼の少女を中心に、年上のお付きの女性たち。

 聞こえてくる断片的な会話や周りの女性たちの動きから察するに、おそらくどこかの令嬢とその世話役だろう。


(綺麗な子……)


 歳は、中学生くらいだろうか。


 きめ細やかな肌。

 すらりと長い手足。

 軽くウェーブを描く金髪。

 長いまつ毛。


 まるで人形のような体躯に、思わず見惚れてしまう。


 対して私はといえば、ボサボサの黒髪に貧相な体躯。

 大人にしては背が低く、童顔も相まって夜中に出歩けば補導を受けるような人間である。


 まるで住んでいる世界が違った。


 私がこんなところにいては、彼女もリラックスできないだろう。

 私は彼女がこちらに気づく前に退散しようと、気配を殺して脱衣所へと避難した。


『スキル〈忍足〉を獲得しました』

『スキル〈気配隠蔽〉を獲得しました』

『称号〈臆病者〉のレベルが2に上がりました』


 スキル獲得の通知が視界の隅でポップアップする。

 私は心の痛みに顔を顰めながら、そっと浴室の扉を閉めた。


 ***


 新品同様に綺麗になったジャージに着替えた私は、宿のベッドの上に突っ伏していた。

 ストレージには不要になったアイテムを捨てる機能と、汚れたり破損したアイテムを新品同様に修復してくれる機能があるようで、おかげで着慣れたジャージをまた装備できたのである。


 なんて親切な設計なんだろう。


「修復に時間がかかるとはいえ、手入れの道具を買う必要がないのは便利だなぁ……お布団ふかふか……」


 弾力のあるマットレスの冷たい感触に頬擦りしながら、私は心の疲れが癒えるのを感じた。


 今日は本当に色々なことがあったなぁ。

 コンビニにお菓子買いに行ったと思ったら異世界に転生してたし、そんでテンプレみたいに冒険者になったし。


「バブみのすごいショタにヨシヨシされたし……ぐへへ」


 また会いたいなぁ。

 でもそう簡単にヨシヨシなんてしてくれないよね……はぁ。


「……そういえば、あのエルフの子。

 獣人の子のことを勇者って呼んでたな……」


 エルフにしては珍しい、赤色の髪。

 私がエルフだと思ってるだけで別の種族なのかもしれないけど──彼は確かにそんなことを言っていた。


「勇者がいるってことは、やっぱり魔王とかいるのかな?」


 だとしたら、ラノベ的なテンプレとしては、私もいつかその魔王と対峙したりするのだろうか?

 はたまた、彼と同じパーティに入っちゃったりなんかして──


「……それは無さそうかな」


 あのエルフの子……たしか、カシューくんだっけ。

 私のことだいぶ敵視してたっぽいからなぁ。

 獣人の……えっと、リューくん、だっけ? 彼にやたらと結構過保護っぽいところあったし……ハッ!? もしや2人はデキてるのでは!?


「ぐへへ、それはお邪魔しちゃあなりませんなぁ。

 遠くから見守るだけにしておきやしょう……」


 自分でも相当気持ち悪い顔をしているだろうな、なんて思いながら、垂れてきたヨダレを袖で拭った。


 とはいえ、それはそれ。これはこれ。

 頭の中でリューくんにヨシヨシされるのを妄想するくらいは許されてもいいはずだ。


「そうだ、リューくんとカシューくんのことを漫画にしてしまおう。

 たしかお絵描きアプリがあったはず……」


 普段はペンタブで描くけど、今はないから仕方ない。


 スマホを取り出して電源をつける。

 ネットは相変わらず圏外だったが、それ以外は問題ないはずだ。


 私はスマホのロックを解除して──ホーム画面が、いつもの状態と変わっていることに気がついた。


 いくつか、みたことのないアプリが追加されているのである。


「ステータス、マップ、ストレージ、クエスト、鑑定、ショップ……って、これもしかして!?」


 直感的に悟った。

 今まで私がコマンドで呼び出していたウィンドウと同じものが、このスマホの中に入っているのである。


 それを証明するように、ステータスと書かれたアプリを開いてみると、目の前にステータス画面が表示されてしまった。


「スマホ、お前だったのか……」


 スキルといいウィンドウといい。

 なんで私にこんなものが開けるんだろうなぁ。


 ──なんて思っていたが、まさかスマホの能力だったとは、果たして誰が察せるだろうか?


 ようやくスッキリした疑問に、私は乾いた笑みを浮かべて──まだ試していない機能があることを思い出した。


「この際だし、一応全部見ておこ」


 まだ見ていないのはあと3つ。

 クエスト、鑑定、そしてショップ。

 字面を見れば大体どんなものなのか予想はできるが……とりあえずクエストから見ていこうか。


 アプリを開いてみると、目の前に大きなウィンドウが3つ同時に開いた。

 左から『ストーリークエスト』『サブクエスト』『デイリークエスト』と並んでいて、左の『ストーリークエスト』と右の『デイリークエスト』には赤いバッチが付いているのが見受けられた。


 おそらく、クリアしているクエストが表示されているのだろう。


「えーっと、ストーリーの方は……クリアしてるのは2つか」


 曰く、『始まりの街に着く』と『冒険者登録を済ませた』。

 あとクリアしていないのは『初心者講習に参加した』『初めてのクエスト』……この2つしか解放されていないみたいだ。

 

 クリアしたクエストの隣には『報酬』と書かれたボタンが点滅している。

 試しに押してみると、『スキルポイントが1点加算されました』という通知画面がポップした。


 どうやら、ストーリークエストの報酬は基本的にはスキルポイントがもらえるらしい。


「スキルポイントは1点につきスキルレベルを1上げることができます、か……」


 これはいいことを聞いた。

 あとでどのスキルを強化するか考えておこう。


「デイリーの方は……クリアしたのはログインボーナスだけか」


 どうやら毎日一回、朝起きるともらえるらしい。

 併記されているスタンプラリーを見るに、どうやら毎日違うものがもらえるみたいだ。

 今回は……銀貨10枚だった。


「……」


 私は思った。

 もっと早くに気づいていれば、衛兵さんに無理してポテチを銀貨4枚で売るなんてことをせずに済んだのに、と。


読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ