4. 服装?
街は、想像していたよりも開けていた。
なんというか、ちょっと広い村みたいな雰囲気である。
舗装されていない地面。
平屋の家屋──高い建物があったとしても、3階くらいだし、道が広いおかげか、かなり見晴らしがいい。
歩いている人たちも様々だ。
普通の、中世ヨーロッパらしい格好をした人が大多数だが、中には鉄製の首輪をつけている人や、動物の耳や尻尾を生やしている人がちらほら見える。
耳が長い人や背が低いおじさんは居ないようだ。
(あの首輪って、ファッションじゃないよね……)
一瞬、そういう癖なのかと考えてしまうのは、学生時代にたまに歩いた都内の某エリアのせいだろう。
私は、街行く人々がなぜかこちらをじっと見てはヒソヒソと噂話をしているようなそぶりを見せるのを遠巻きに眺めながら、まずは冒険者ギルドに向かうことにした。
……きっと、ジャージが珍しくて噂しているのだろう。
うん、そう思いたい。
きっと、さっき頭から血を被ったせいで見た目が猟奇殺人鬼みたいに見えているからでは決してないはずだ。
(ギルド登録済んだら、お風呂屋さんの場所とか聞こう……)
ギルドの場所はすぐにわかった。
街自体が生前住んでいた場所と比べるとかなり狭いから、というのもある。
しかし実際はというと、冒険者のような格好をした人たちの人の流れを観察して割り出したからだった。
こういうの、得意なんだよね。
人の顔見て何考えてるか察する特技の応用である。
別に、誇ることではないと思うんだけどね……。
横に長い、オレンジのスレート屋根の建物。
看板には盾とクロスされた剣の紋章が描かれていて、いかにも冒険者のギルドらしい。
(文字が書いてない……識字率が低いのかな?
あれ、だとしたら依頼とかって……?)
いろんな疑問が頭を巡るが考えたって仕方ない。
私は意を決すると、お酒の臭いがする西部劇に出てくるような扉を押し開けて中に入った。
ギルドに入ると、一層視線が集中するのがわかった。
奇異な目線が、〈気配察知〉のスキルも合わさってか物理的な圧力を持ったかのようにグサグサと刺さる。
私は前髪で顔を隠しながら、背を丸めて足早にカウンターへ向かった。
「……あ、あの! ぼぼ、冒険者登録がしたいんですけどッ!」
勢いに任せて口を開くと、思っていたより大きな声が出て少し恥ずかしくなる。
「はい、登録ですね!」
何もなかったかのように、受付にいた人が手続きを始めた。
俯いてたからわからなかったけど、やっぱり受付さんは女の人だったのか。
「文字の読み書きはできますか?」
「あ、えっと」
言われて、そういえばまだこの世界の文字を見ていないことに思い至った。
会話自体はちゃんとできてるし、多分〈異世界人〉の称号の効果で翻訳もやってくれているのだろう。
もし文字が読めなくても、スキルを勝手に習得してくれるはずだから文字を読むこと自体は問題ないはず。
「たぶん、大丈夫です」
「難しい単語とかはないので、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ!」
どうやら、読み書きに自信がないと思われたみたいだ。
笑いながら用紙を差し出す受付嬢に、自然とこちらの緊張もほぐれていく。
差し出された用紙には見たことのない文字が書かれていたが、難なく読むことができた。
知らない文字なのに理解できるってなんだか変な感覚だ。
「この枠で囲ってある部分に、必要事項を書いてください。名前と年齢、それから希望する戦闘スタイルと使用する武器、パーティを組むならどんな役割に就きたいかの希望があれば。特にロールの希望がなければ空欄で大丈夫ですよ」
「あ、はい。わかりました……」
反射的に首肯して、紙に書き込んで──あ。
「……あの、私まだ武器とか持ってないんですけど、買えるところとかって近くにありますか?」
大事な問題だった。
ゲームでは剣士をメインに育てることが多かったから、反射的に『剣』と書こうとしてしまったが──そもそも私は、まだ武器を持ったことがないのである。
もし近くに売っている場所がなければ詰む。
……いや、そもそも手持ちで買えるのかも怪しいのだけど。
「はい、大丈夫ですよ!
うちでは初心者講習を受けた方には、有料で武器を貸し出していますので!」
「そ、そうですか」
ほっと胸を撫で下ろす。
よかった、初心者講習まであるんだ!
それから私は、書類をささっと書き上げ、講習会の予約を終わらせた。
「ギルドの大まかな規則につきましては、別途、初心者講習会で説明いたします。朝9時の鐘で始めますので、遅れないように来てくださいね!
最後に、何かご質問はございますか?」
「あ、えっと……」
──その一言で、頭の中が真っ白になった。
反射的に思い出してしまう。
再就職のために受けた、あの面接。
どうして前の仕事を辞めたんですか?
この空白期間は何を?
結婚の予定は?
子供は?
彼氏とかいるの?
若いんだから体力あるでしょ?
最近の子はすぐ辞めるよね、根性が──
ぐるぐる、ぐるぐる。
言葉が頭の中で回り続ける。
胸がぎゅっと締め付けられて、呼吸が浅くなる。
やばい。
これ、あの時と同じ──
「……あの、ユーリさん?」
「っあ、は、はい!」
心配そうな声に呼ばれて、ようやく現実に引き戻された。
視線が落ち着かず、きょろきょろと辺りを見回す。
そのとき、視界の左下に小さな文字が浮かんだ。
『スキル〈トラウマ耐性〉を獲得しました』
……トラウマ。
「何か問題でもございましたか?」
「い、いえ! 大丈夫です、ありがとうございましたまた来ます!」
自分でも何を言っているのかよくわからないまま、慌てて頭を下げる。
受付嬢が心配そうにこちらを覗き込む前に、私はその場から逃げ出した。
──後になって。
お風呂付きの宿を聞くのを忘れていたことに気づいたけれど、今さらギルドに戻る勇気はなかった。
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