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転生勇者(♀)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛


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3. ポテチ外交?


「お、おい、大丈夫か嬢ちゃん?」


 肩を揺すられて、私はゆっくり目を開けた。

 目の前には、さっきアルミラージを真っ二つにした衛兵のおじさん。


 視界左下にポップアップされた〈気絶耐性〉のログ通知が目に止まる。

 どうやら、スタミナを使い切ったせいで一瞬気絶していたらしい。


「あぁ、はい……久しぶりにこんなに走ったので、その、気絶してました……」

「アルミラージに追いかけられて気絶って……嬢ちゃん、相当ひ弱なんだな……」

「あぁ、うちの娘はまだ1歳だが、そっちの方がまだ体力あるぞ」

「ぐぬぬ……」


 赤ちゃんと比較されて、変な声が出る。

 ヒキニートの体力は1歳児以下か……っ!


「まあいい。怪我はしてないのか?」


 そう言って、もう一人の衛兵が私の足を見る。


 さっき角が掠った場所だ。

 ジャージが少し裂けて、うっすら血が滲んでいる。


「あ、はい。掠っただけなので……」


『スキル〈自動回復〉を獲得しました』


 視界の端にそんなログが流れ、すかさずアクティベートするとじんわりと痛みが引いていった。


 ……便利だなこれ。


「森から来たのか?」

「はい。気づいたら森にいて……歩いてたら、さっきのうさぎに」

「アルミラージな」

「それです」


 二人の衛兵は顔を見合わせて、やれやれと肩をすくめた。


「……この辺の森は浅いが、初心者が入るにはちと危ないな」

「まあいい。街に入りな」


 そう言われて、私はよろよろと立ち上がる。


 助かった。

 これでようやく文明に戻れる。


 門をくぐろうとした、その時だった。


「待て」


 槍の柄が、すっと私の前に出される。


「……通行料だ」

「……通行料?」


 思わず聞き返す。


「街に入るなら銀貨一枚。規則だ」


 銀貨。

 つまり、お金。


「……」


 私はポケットを探る。


 スマホ。

 レシート。

 そして手に持っているビニール袋の中には、さっき食べたソフトクッキーアイスサンドのゴミと気泡だらけになったコーラ。


 それから──ポテチ。


「……あの、電子マネー決済とかって使えます?」

「電子……? なんだそれは?」

「ですよね……」


 しばらく沈黙が流れる。


 どうしよう、このままじゃ街に入れない……。


 必死にどうすべきか頭を働かせる。

 一瞬、目の前のアルミラージの死体を売るという案が浮かんだが、倒したのは残念ながら私ではない。

 それに、売ると言ってもまずお店に入れなければならないから、街に入れないならそもそも意味がないのだ。


 その沈黙を破ったのは、さっきから黙っていた方の衛兵だった。


「……その袋、何が入ってるんだ?」

「これですか?」


 指さされたビニール袋を持ち上げて見せると、さっとポテチの包装袋をひったくられた。


「見たことのない包装だ。

 それに、この絵……写真と見間違うほどに精巧にできている。これが中に入ってるのか?」

「あ、はい。

 ポテトチップスが入ってます」

「ポテト……なんだって?」


 衛兵が、しげしげと写真を眺めながら眉を持ち上げた。


「芋を薄く切って揚げたものに、塩をまぶした料理ですね。珍しいですか?」

「あぁ。芋といえば、蒸すか茹でるのが主な調理法だし、そもそも油自体が高価だからな……」

「あぁ、揚げ焼きにするとしてもかなり贅沢な使い方だ」

「酪農家なら、バターを持ってるから安く売れるんじゃないか?」

「だとしたら、味付けは甘めか」

「待て、塩をまぶしたと言っていたな?」

「塩は海岸地域なら安く済むが、ここは内陸だ」

「こっちで買うなら、それなりの値段はするだろうな……」


 突如始まった衛兵たちの会議に、私は怪訝に眉を顰め──ハッとした。


(もしかしてこの人……私のポテチを通行料の代わりにしようと考えてる?)


 先ほどからちらちらとこちらに視線を送る衛兵2人。

 間違いない、きっとそうだ!


「……もしよろしければ、お売りいたしましょうか?」

「いくらで?」


 おずおずと申し出てみると、衛兵の1人がニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。


「……じゃあ、えっと……銀貨1枚でどうでしょう?」


 個人的には、妥当な値段だと思った。

 2人は、通行料の代わりとしてポテチを買おうとしているのだ。

 ならば、通行料分の金額を提示するのが1番無難──と、思ったのだが。


「安いな」

「あぁ、安い」


 提示すると、2人はそう言って首を横に張った。


「え、安くて断られることってあるんですか!?」


 あまりの衝撃に、思わず口をついて出る。


 値段交渉といえば普通は値切るものだ。

 なのにこの人たちは逆に値上げしろと言っている。


 この世界では常識なのだろうか?


「お前ならいくら払う?

 俺は2枚出してもいいと思うぜ」

「じゃあ俺もそれくらいで」

「じゃあ、合計4枚だな」

「どういう計算したらそうなるんですか!?」


 困惑していると、ついに私の目の前には銀貨3枚が握られていた。

 1枚は──衛兵の片方が目の前でヒラヒラさせながら『これは通行料として貰っとくぜ』と、物見櫓横の箱に放り込んでしまった。


「どういう計算ってお前。

 俺とあいつで食べるんだから、2人分支払うのが普通だろ」

「そうそう、チップだよチップ。

 ポテトチップスだけにな!」


 笑い合う2人。

 その笑顔を見て、私は悟った。


 私が、通行料すら払えないのを見かねて、しばらくの生活に困らない程度にお金を恵んでくれたのだということを。


 あぁ、なんて優しい世界……っ!


「お買い上げ、ありがとうございます!」

「おう、いいってことよ!」

「まずは冒険者ギルドか神殿に寄ってみな!

 いろいろ助けてくれるはずだから!」


 私は笑って手を振る2人にぺこりと頭を下げた。


 こうして、私は街の中に入ることができたのだった。


『スキル〈交渉〉を獲得しました』

読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


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