1. 転生?
初投稿です!
人生というものに対して、特に目的もなく、モブの様に過ごしている人間がいる。
──私である。
特に勉強以外にとりえもなく、またそれ自体も中途半端でゲームの世界に逃げた人間がいる。
──これも私である。
特にやることもなく、金のある両親のすねを齧って齧り続けた結果、ニートになった人間がいる。
──これもまた私である。
「エナドリ……エナドリ……」
月下の街灯に群がる蛾のごとく、コンビニに向けて夜道を歩く。
「あとポテチと……あ、新商品出てる」
陳列棚に並んだ新しいコンビニデザートに意識が吸い寄せられる。
ソフトクッキーアイスサンド……。
名前からして食べづらいことこの上なさそうだが、おいしいことには違いがない。
甘いものは好きだ。
お金さえたくさんあれば、たちまちのうちにビッグボディを形成していただろうことが容易に想像できるくらいには。
しかし、親のすねかじりとはいえポリシーだけはある。
ゲームと生活のこと以外に親のお金は使わない。
数か月前に辞めた正社員時代の貯蓄を残しておかなければならないのだから、と、私は余計なものは買わずにレジに進んだ。
「538円でぇす」
やさぐれた男の店員の顔を、視界にすら入れずに決済を済ませて店を出る。
昔から、人の顔を見て話すのは苦手だった。
これは別に特技というのでもないが、人の顔を見ると、その人が今何を思っているのかを手に取るように理解してしまうのである。
心の声が聞こえるとか、そういうんじゃない。
多分被害妄想の一種だ。
そうとはわかっていても、人の顔を見るのが未だに恐ろしくて、前髪を伸ばし続けている。
(そういえば、イベントいつまでだっけ?)
克服せねばなるまいとは思う。
これのせいで会社を追い出されたのだから、できるようになるまでは一生ニートなのだから。
(まあ、どちらにしろ今日も徹夜するんだけど──)
徹夜二日目のせいだった。
考え事をしながら歩いていたせいか、私は縁石に足を躓かせた。
「あっ」
躓いた場所が悪かった。
いつも、ショートカットするために横断する車道。
そこには信号機も、ましてや横断歩道もない。
田舎だから車も法定速度を無視しているし、ともなれば突っ込んでくるこの真っ白なライトの主は、小柄な私には、まったく気づかないはずで──。
「危ねぇだろ気ぃつけろ!」
遠のく意識に、おじさんの怒号が遠のいていく。
(やべ、これ死ぬわ……)
全身の感覚がない。
辛うじて頬に何か生ぬるいものが触れているのだけは分かるが、それが何なのかはわからなかった。
***
何か気がかりな夢から目が覚めると、私は、なぜか森の中に寝ころんでいた。
「……なんで? ていうかここどこ?」
起き上がり、あたりを見渡してみるも、どこもかしこも森、森、森。
太陽は天高く上り、熱い日差しが木陰の隙間からこちらを照らしてくる。
とりあえず立ち上がって自分の様子を確認してみるが、特に怪我とかしている様子もなく、あの夜に出かけたままの格好である。
服装はジャージ。
ぼさぼさの長い黒髪を適当にゴムで束ねているだけの格好で、ポケットにはスマホ、手元にはビニール袋。
中身はさっき買ったポテチとエナドリと、節約しなきゃと思っていても買わずにはいられなかったソフトクッキーアイスサンド。
「……とりあえず、溶ける前に食べちゃうか」
記憶の空白を思い出そうにも情報がない。
そんなことより二徹のせいで眠気が──ない?
「もぐもぐ……あぁ、もしかしてさっき寝てたせいかな。
はむ……もぐもぐ……アイスは溶けてないから……言うほど時間が経ってるわけじゃないな……ん?」
いや待て待て、おかしい。
真夏の夜から常温放置して、空が明るくなるまで溶けないなんてことはあるまい。
しかしそうはなっていない。
冷たいアイスクリームのなめらかな舌触りと甘いバニラの香りが、あの夜の出来事との時間的なずれを雄弁に物語っている。
(いくらあそこが田舎とはいえ、こんな森みたいなところは近くにないしな……。
移動距離や時間差を考えるとこれはひょっとすると──)
頭の中に、これまで読んできたラノベや漫画のシチュエーションが立ち上がる。
うん、間違いない。
これは紛れもなく──
「異世界転生か!」
叫んだ瞬間だった。
『スキル〈洞察〉を獲得しました』
頭の中で突如誰かの声がして、私は驚きのあまり大きく飛び上がった。
『スキル〈跳躍〉を獲得しました』
「え、何!? スキル!?」
『スキル〈驚愕耐性〉を獲得しました』
続けて、もう一言脳内にアナウンスが追加され──私の推理は確信に至った。
「……あー、そういうこと」
どうやら、この世界では何か行動をすると、それに合わせたスキルが獲得できるらしい。
それにしてはスキルの習得難易度が簡単すぎるだろ。
なんでだ?
「多分、主人公補正か何かだろうな……。
ということはステータス! とでも叫べば答えがわかったりして?」
私の想像は、どうやら正解だったようだ。
突如目の前に現れたゲームのようなステータス表示に、思わず苦笑いがにじみ出る。
なんて安直なシステムなんだ。
ため息を吐きながら、画面の内容を確認してみる。
「名前、鑑悠里。レベル1……ステータスも全部1スタートか。
ステータスが化け物じみてるっていうのはないみたいね……」
HPとMP、あとスタミナも最大値が10で、特にこれと言ってチートっぽい要素は見当たらない。
他は──
「称号なんてのもあるのね。
今の私の称号は──〈異世界人〉……はは、推理する必要すらなかったじゃん」
とはいえ、これの存在のせいで異常にリアルな夢っていう線は完全に消えたわけだ。
スキルが簡単に習得できた原因は、もしかしたらこの称号のせいかもしれない。
ラノベとか漫画とかだとあるあるだし。
他にスキルは……さっき取得した〈洞察〉と〈跳躍〉、それから〈驚愕耐性〉の三つだけ。
「この横のボタンは……あぁなるほど、取得したスキルはアクティベートしないと使えない仕様なのか」
調べてみると、他にも細かく設定がいじれるみたいだ。
例えば耐性系スキルだけとか攻撃スキルだけとかを、自動でアクティベートする設定にカスタマイズしたりとか、取得したスキルをすべてアクティベートした状態にするとか。
命にかかわりそうだし、防御系スキルと耐性系スキルだけは自動でアクティベートするようにしよう。
あと、スキル取得音声がうるさいから通知を切っておいて……これで良し。
(とりあえず、ステータス画面の扱い方は分かったし、そろそろ街でも探そっかな。
いつまでも森の中にいても始まらないし)
とはいえ、ヒキニートの私にそもそも街の中に入れるかどうかが怪しいところだけど。
身分証もお金もないし。
「セオリー通りなら、商人か何かを救ってお礼に街まで案内ってところなんだろうけど……」
まるで人の気配のない自然豊かな景色に、私は肩をすくめる。
「まあ、何とかなるでしょ。むしろ何とかなってくれないとこっちが困るっていうか」
最低限のコミュニケーションくらいはできるんだ。
だからたぶん誰かと話すようになったら、きっと対人恐怖症耐性を獲得しましたーとか言って平気になるはず!
私は鼻息荒く意気込むと、とりあえず適当に歩いて森を抜けようと試みるのだった。
読んでいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いいたします!




