もう一つの悪
牧野警部は兄たちを無事救出した後は、犯人達の家の捜査があるので、「グエンの持ち物を調べろ!」と牧野警部の指示で、拘束している警官が彼の体を探ると財布とキーホルダーが見つかった。牧野警部はさらに部下の刑事に、「この鍵を使って家に入れないか調べてくれ!なるべく音を立てないようにな。まだ、誰かが潜んでいるかもしれない。」と指示し終わったときに、丈一郎は場の雰囲気には似つかわしくない、『推理ごっご』をしているような口調で、
「そうだ、牧野警部。奴らが俺たち二人を、無理矢理監禁までしておいて、一人の外国人を見張りをつけているだけにしておくのは、おかしいと思わないか?・・奴らが銅線泥棒をした後に、暢気にここに戻ってくるとは思えないので、誰か他の連中が俺たちを引き取りに来るのかもしれないと思ったんだけど。どう思う?」
「なるほど、お二人を別の奴らが別の場所に移送しようとしていると言う事ですね。あり得ますね。そいつらは、例の中満国系マフィアの連中かもしれませんね。とっても危険な連中ですよ」 牧野警部も丈一郎と会話すると、いつも状況整理や推理に集中できるのを不思議に感じていたが、
「いずれにしても、早く安全な太子さんの所に移動してください」と牧野警部は区切りをつけ、二人は警官に支えられながら、パトカーに乗せられ太子の家に向かった。時間は真夜中の十二時になっていた。
それを見届けると、またスイッチが切り替わり、牧野警部は手錠を掛けられているグエンに尋ねた。
「お前はどんな指示を受けていたんだ?グエン」グエンはまだ半分泣いているような目で、
「誰かが明日の朝に迎えが来るから、それまで見張ってろと言われていた」と正直に答えた。牧野警部は、丈一郎の慧眼に改めて驚いた。
「グエン、迎えが来た後はどうするつもりだったんだ?」と警部は少し柔らかな調子聞いた。
「高崎で今住んでいるマンションに戻るつもりだった」とグエンは小声で答え、
「そうか、タン・ファンのところだな?」との問いに頭を項垂れるようにした。
「他の連中はどうする予定だったんだ?」とさらに質問され、
「良くは知らないが、どこかに隠れていると言っていた。そのうち連絡をくれると言ってた」と顔をあげて返事をした。
「じゃあ、お前だけは解放されるはずだったんだ。誰がそう言っていたんだ?」と警部は不思議そうに尋ねた。
「ソンさんと呼ばれている、顔に特徴がある男だ」
「どんな特徴だ」
「顎が尖っていて、凄く怖い顔をしている」そして、吹っ切れたように
「あいつが出かけるとき、いつもとちょっと変な感じがしてた。あの人質の人と一緒に俺も殺されるのかと思った」
「グエン、よく話してくれた。後は署で詳しく聞くよ。大人しくしてろよ」
「はい、でも警察に捕まって良かった。きっと、俺は殺されていた」
「分かった。そうかもしれないな」
「おい、グエンを署に連行してくれ」牧野警部が警官に指示すると、彼は項垂れて大人しく連行されていった。
横にいた刑事に「山本課長に途中経過を連絡しておいてくれ、俺は家の中を捜査している事もな」と指示すると、麻山が横で話を一緒に聞いていたが、
「警部、まだ誰か残っているかもしれませんね」と小声で話しながら、二人はすぐに犯人達の家の中を調べるべく裏口に向かった。すでに他の刑事が侵入を試みており、
「警部、裏口から中に入れます」警部は大きく頷き、麻山の方を見て、
「麻山!拳銃を用意して慎重に中に入るぞ。油断はするな!」と言って自分もライトで前方を照らしながらすぐ後に続いた。麻山刑事は先行する刑事に自分が先に行くと手で合図をして、拳銃をホルダーから抜き出して小型のライトと一緒に前に構えながら裏口から家に入った。家に入るとすぐに大広間があった。警官達が数人でライトで照らすと、がらんとした室内があるだけで人の気配はなかった。
「誰かいるか?警察だ」と麻山刑事が大きな声を出すが何の反応もなかった。
「明かりをつけろ!」と牧野が指示をして、警官の一人がスイッチを入れると、一斉に蛍光灯の明かりが点いた。暗いところを移動してきたので、目が痛いくらいの明るさだった。がらんとした畳敷きの二十畳以上はある大広間だったが、机が数卓端に寄せられていて、不思議と掃除が行き届いている感じだった。次に、廊下の電気をつけると玄関まで見通せるがその間に数部屋ありそうだった。牧野が麻山ともう一人の刑事に命じて、全ての部屋を調べるように指示をした。警部も風呂場やトイレやキッチンを調べたが、誰も潜んでおらず、どの部屋も綺麗に整理・清掃されているのに驚いた。大広間の押し入れの中には布団が畳んで収納されており、布団に触り使用した形跡を探ったが夏の暑さにもかかわらずひんやりとしていた。麻山刑事達は順に部屋を調べて行ったが、どの部屋も綺麗に清掃されており、十人以上が集まっていた形跡はなかった。何とゴミ箱の中も空だった。残っている警察官と刑事が部屋中を手分けをして室内を探ったが駄目だった。そのときある警官が、トイレの横の廊下にドアがあり、鍵がかかっていることを発見した。隠し倉庫か階段があるように思える。警部は、
「グエンの持っていた鍵を試してみろ。」と鍵を持っていた警官に指示して、試すがどれも合っていない様子なので、麻山刑事がいつも携帯している七つ道具のドライバーでドアノブを解体し始めた。警部はそれをはやる気持ちを押さえて見ていたが、思ったよりも早く麻山はドアを解体してみせた。
「麻山、そうなると特技だな」
「はは、仕事の一つですから」と言ってドアを開けた。そこは地下に伸びる階段の入り口だった。ドアのすぐ脇に電気のスイッチがあり、オンにすると15段ほどの階段が現れた。ここも麻山を先頭にゆっくり降りていった。階段の先には地下倉庫があった。十畳以上もある異様に大きな倉庫で、色んな物が積み重なっていた。ブルーシートを掛けられた山が怪しく、シートを外すと薄手の毛布が重ねられていた。麻山はその毛布に触れると、
「まだ暖かいですね。きっと、さっきまで使っていたんでしょう」
「よし、髪の毛や痕跡が残っているはずだ。明日にでも鑑識に調べてもらおう。他には何かあるか?」
「警部、靴下とシャツが残っています」
「よし、それも鑑識に見てもらおう。収穫はそのぐらいかな。では一旦ここを出るぞ」
警部は覆面パトカーを止めてある所まで戻る途中で、麻山に相談した。
「もし、人質をさらに移送する連中が本当に来たら、そいつらは相当の腕利きのはずだ。これから山本課長に相談するが、他のメンバーも銅線泥棒の現行犯逮捕に全力を尽くしているはずだ。人数は割けないので、俺とお前でそいつらを見張るか?」
「はい、警部。危険な任務なら私がやります」
「麻山、お前も変わった奴だな。危ない任務が好きだとは」
「警部もそうなんじゃないですか?」
「そうだな、でも、本当に危ないときは避けろよ!命あっての刑事だぞ」
「分かりました。そうします」
そして、駆けつけたパトカーの助手席に乗り、牧野警部は途中経過を山本課長に報告した。無事に人質を救出した事は褒められたが、犯人達の家の捜索を行った事は令状なしなので後で詳しく聞くこととして、銅線泥棒の現行犯逮捕に人手を割いているので、犯人宅側での張り込みは警部の申し出通り、警部と麻山刑事の二人で行うこととなった。ただ、状況により応援メンバーを送ると言われたので、近くで待機してもらえるように要請した。多くの警官がいると犯人に気づかれると思ったのだ。
「やはり、令状なしでの家宅捜索は問題のようだった。さあ、朝まで車で見張りだが、腹が減ったなあ」
「ええ、昼飯を食ったきりですからね」
「ちょっと反則だが、兄貴に連絡してみる。太子さんのところにまだ居ればラッキーだが」警部は兄の牧野巌に電話をした。二人とも家で看護を受けたそうで、着替えさせてもらった上に、午前中に監禁されて水も飲んでいなかったので、夕飯を食べてゆっくりしているところのようで、
「剛、何か食べるものを運んでやろうか?」それを兄から言ってもらい、
「本当に!そうしてもらえると助かるけど動けるのかい?」
「いや、太子に頼むよ。」
「ええっ、それは恐縮するけど、ここを動けないので、例の家の裏口で待っているとお伝えしてくれるか?」
「おう、分かった。腹が減っては戦は出来ぬさ!」
それから、三十分後に犯人達の家の裏口に太子の黒いボルボのSUVが到着し、警部は透明なケースに入った美味しそうなおにぎりとおかずとペットボトルのお茶を受け取った。
「太子さん、兄が本当にご迷惑をおかけします。その上、こんな夜中にお弁当まで頂いて、有り難うございます」と警部は麻山と頭を下げた。
「いやいや、大変な仕事をしてくれて、いつも感謝しているよ。まだこれからも一仕事だろう、くれぐれも気をつけてよ」と太子からは暖かい激励も受けた。牧野警部はさらに、
「あ、それから彼は麻山と言います。私の部下です。名前でびっくりしたと思いますが、今度一度ちゃんと挨拶に行きます」と話すと、太子も
「ほお、そうなんだ。君が麻山君か」と少し驚いた様子だった。麻山は太子が自分に対して少し意外な反応したことも気になっていたが、こんな夜中に民間人から心の籠もった差し入れまでもらえる事に驚いていた。
「本当に済みません。犯人逮捕に務めます」と言った。太子は捜査中だとわかっているので、長居は禁物とすぐに自宅に戻っていった。二人は、車を裏口から少し離れ裏口を監視できそうな茂みに移動させ、車の中でありがたくお弁当を頂いた。
「うまいなあ、ありがたいもんだ」と牧野警部は呟き、麻山は
「あの人が太子さんですか。私の町では有名な人で、父も知り合いだと言ってました。警部は太子さんともお知り合いなんですね。」
「うん、兄の古くからの友達なんだ。肥後さんもそうさ」
「へえ、お兄さんは優秀な方だと聞いています」
「うん、俺と違ってね。司法試験に合格してるんだよ」
「へえ、凄いなあ。でも、弁護士にはならなかったんですね」
「ああ、色々あってね」と自分で言っておいて、何が色々なんだろうと不思議な感じがした。恋人が事故死したことか?年下の弟が心配を掛けたことか?国内外を仕事で飛び回った事か?いや、そんな事を今考えている暇はないのだ。
「さあ、朝まで気合いを入れて見張るか」時間は夜中の二時を回っていた。
「はい」
牧野警部も食事をするとすぐに疲労と相まって、眠気が襲ってきたが、いつ殺し屋が現れるか分からないので、頬をピタピタとしながら意識をはっきりさせた。麻山も眠そうな顔をしていたので、
「麻山、暫く俺が見張っているので少しだけ寝ろよ。少し寝れば目が覚めるぞ。」
「いえ、警部の方こそ少し休んでください、私の方が若いんで」
「はあ、俺を年寄り扱いするのか?」
「いいえ、そういうことではありませんが・・」
「そういえば、銅線泥棒の方もそろそろ決着がつくはずだが、どうなっただろう。あちらの方が大捕物になる可能性が高いな」と言い、「ちょっとショートメールで課長に確認してみよう」とショートメールを送ると、すぐに既読となったが返事はすぐには来なかった。暗闇の中でスマホの明かりだけが光っていた。すると、『ピコーン』とメールへの返信を示す音がして、山本課長からのショートメールは、
「銅線泥棒の一部を逮捕した。トラックで現場を押さえ、現行犯逮捕」と言う嬉しいニュースだった。
「銅線泥棒を現行犯逮捕だ。でも、一部となっているから二台のトラックのうち、一台だな」
「良かった!後一台も逮捕できるでしょう」と麻山は楽観的な見解をしていたが、牧野は全員捕まえることが出来れば良いがと心配な様子であった。
「ああ、そう願うよ。特に主犯格を捕まえたいな」と話をしていると、牧野に猛烈な眠気が襲ってきた。
「麻山、悪いが少しだけ俺は寝るよ」
「はい、私は大丈夫ですので、お休みください」そして、牧野は一、二分後すぐに軽いいびきをかいて小一時間ほど眠ったようだ。このようにすぐに寝れるのも刑事にとっては必要な能力だった。
麻山が犯人達の家を暗い車内から眠さを堪えて監視していると、裏口の方で車の明かりがチラッと見えた。麻山は牧野を軽く揺すった。牧野はすぐに目を覚ました。
「どうした、動きがあったか?」
「ええ、奴らの家の裏口で車の明かりが見えました」
「そうか静かに近くまで行ってくれ」と今まで眠っていたのが嘘のように牧野は目を覚ましていた。麻山がエンジンを掛け、ゆっくりと裏口に向かい二十メートルほどに近づき、車を降りてゆっくりと近づくと、締めておいた裏口が開いているのが確認できた。さらに、近づくと倉庫の入り口の明かりの下に二人の人間の姿が確認できた。牧野警部は裏口に停めてある怪しい車の中をライトで照らすと、誰も乗っておらず倉庫にいる二人が相手であると確信した。彼は油断は無論禁物だが、内心相手が二人で少しホッとしたようで、フーと息をして、
「麻山、拳銃を使った銃撃戦になるかもしれない。威嚇ではなく実射を覚悟しろ。ただ、こちらは奴らからは見えない暗い陰から声を掛けるぞ。標的になるから、決して明るい所には立つな!」
「はい、分かりました」と麻山は冷静な声で答えた。牧野警部は、「こいつは良い度胸をしている」と思ったが、彼に絶対に怪我はさせないとも強く思った。そして、倉庫の明かりに照らされていない柱の陰に潜み、様子を伺った。怪しい二人組は倉庫の明かりをつけて、奥の部屋まで行ったようだ。そこには、監禁された二人の男がいるはずだった。牧野と麻山は倉庫の入り口の両開きのドアの両脇に移動して、さらに様子を伺い、声を出すタイミングを探った。心臓の鼓動が聞こえそうなほどに牧野も緊張していた。ドアの隙間から彼らの様子が見えたので、拳銃を構えて動きを追った。抵抗をすれば容赦無く拳銃を使うつもりだった。口を窄めて静かに息を吸いながら二人の動きを追った。二人組は小声で話しながら倉庫の入り口に向かってきたので、牧野警部はドアの暗いサイドで大声を出した。
「警察だ!そこで止まれ!」二人組は瞬間的に驚いて動きを止めた。彼らからは牧野警部は見えないようだ。牧野警部はさらに
「両手を上げろ!」と命じた。しかし、一人が懐に手をいれたので、牧野警部は瞬時にその男の足下に威嚇射撃をした。その男の足元のコンクリートのフロアに銃弾が当たる音が響いた。拳銃を使った警官の銃の腕を把握したのか、流石にこれには恐怖を感じたようで、二人とも両手を挙げた。そして、牧野警部と麻山刑事は入り口から二人の前に現れ、牧野警部は懐に手を入れた男に銃口をむけたままで、麻山がその男に近づき薄い夏用ジャケットの胸元を探った。銃が無造作にそこに隠されていた。銃を抜いて倉庫の端に投げ転がし、腕をつかんで後ろを向かせ足を掛けて倒し、腹ばいにして後ろに両手を回して手錠を掛けた。一連の流れるような動作でこれを行った。牧野警部は手錠をかけたのを見届け、今度は銃口をもう一人の男の方に向け眼光鋭くにらみつけた。
「お前も両手を上げたまま膝をつけ!」と命じると、その男は大柄で柔道か何かをしていたであろう体型で、突然麻山に飛びかかろうとした。牧野はドキッとして拳銃を使うタイミングを探ろうとしたが、麻山の動きは驚くほど機敏で、大柄な男の動きに合わせたのか、予測していたように柔道の綺麗な払い腰でその男を転がした。そして、そのまま袈裟固めで押さえつけたので、牧野警部はすぐに距離を詰め、その男の片腕を締め上げ、もう片方の腕も後ろに回し、両方の手に手錠を掛けた。この男の懐には銃はなく、後ろのポケットに折りたたみ式の狩猟用のナイフが入っていた。やはり、二人は本物の殺し屋だったようだ。二人は一言も発することなく、後ろ手に縛られた状態で倉庫の入り口に転がされた。
「お前等、もし変な動きをすると、今度は容赦なく撃つぞ。分かったら。分かったと言え!」と牧野が大きな声で命令すると、二人はうつ伏せのまま低い声で、「ワカッタ」と中満国人特有のかなり特徴的な返事をした。牧野は相変わらず本気で銃口を二人に向けたままで、
「麻山、銃とナイフを回収して、課長に応援を要請しろ」
「はい、分かりました」と、倉庫の端に転がした銃を回収し、素早く入り口に移動して、やはり彼らから目を離さずに課長に連絡を入れた。
「課長、怪しい二人組を銃刀法違反と公務執行妨害で現行犯逮捕しましたので、応援をお願いします。例の倉庫の中です」
「そうか、本当に現れたか。すぐに応援が向かう。既に近くで待機しているので数分で着くだろう」との山本課長の対応に感謝し、麻山は
「了解しました」そして、牧野警部の横に行き、手のひらを広げて五と言う合図をした。牧野警部は何も言わずに、頷いた。五分という意味だった。麻山も再び銃を二人に向かって構えた。二人組のうち一人が、
「オレハ、ナゼ、ツカマッタノカ?」と片言の日本語でうつ伏せのまま聞いてくるので、牧野警部が、静かに説明した。
「お前は銃を所持していた。静止を指示したのに、それを抜こうとした。銃刀法違反だ」
「そして、もう一人も静止の指示を聞かずに、警官に対して暴行を働こうとした。公務執行妨害だ」
「分かったか?」
「ワカッタ」
「お前達は何をしにここに来たのだ?」と牧野は逆に質問をした。
「ヒトヲサガシニ、キタダケダ(人を探しに、来ただけだ)」と抑揚のない声で答えた。牧野がさらに
「そうか、誰をだ?」
「フン、ナマエハシラナイ(名前は知らない)」と本当か嘘かを全く悟らせないような口調で答える。
「その人を探してどうするんだ?」
「サア、ワカラナイ(分からない)」
「人を探すのにどうして銃やナイフが必要なんだ?」
「サア、シラナイネ(知らないね)」と意味のなさそうな会話の端々に不気味な雰囲気が醸し出されていく。牧野警部は、「こいつらを野放しにしておくのは危険だ」と感じており、逮捕の方法には間違いがなかったことを実感した。ただ、相手が三人だったらやはり危なかったと思い、背筋が寒くなる思いだったし、麻山でなければどうなっていたことかとも思った。牧野も高校柔道で鍛えており、かなりの力量だったが、あそこまで的確に相手を制圧できるか自信がなかった。銃を構えている麻山の横顔をチラッと見て頼もしく思ったが、彼の頬から血が一筋流れているのを見つけ、あの瞬間的な格闘の最中にこすったのだろうが、彼は全く意に介さずにいた。そして、数分後にパトカー数台が近づく音と、警官達が倉庫に走り寄る靴音がして、
「牧野警部、合流します。捜査二課の大塚です」大塚は牧野と同じ肩書きは警部だった。今回のような事案の場合には協力し合うこともあった。
「ああ、大塚警部、ご苦労様です。この二人を銃刀法違反と公務執行妨害で緊急逮捕しました。こいつらはプロでとても危険な連中ですので、注意して署に連れて行ってください。念のため、移送中は足も拘束して下さい」大塚の部下達は緊張した態度で、犯人二人の足を拘束し、二人ずつの警官が両側からしっかり押さえつけ、パトカーに乗せた。
そして、牧野は大塚に事の次第を報告し、銅線泥棒の方の最新情報を尋ねた。
「二台のトラックに乗っていた実行犯は全員逮捕したようだ。ただ、別の車に乗っていたリーダー格の男には逃げられたようだ。中満国人の主犯格の男はまだ逮捕できていない」
「そうなんですか。それは残念です。でも、リーダー格の男はそう遠くには逃げていないはずですね」
「ああ、結局実行犯は闇バイトで集めたような連中で、主犯の男を逮捕しない限り、銅線泥棒のような犯罪はなくならないからな。牧野警部、まだまだこれからだね。頑張ってくれよ」
「ええ、大塚さんもこれからも宜しくお願いします」
「ああ、牧野警部。でも少し休んだ方が良いよ」と言われ、辺りは日が昇る前の明るさになっていて、時計を見るともうすぐ五時だった。
「そうか、もう日の出か!」「麻山、署に戻って、少し休もうか!」
「はい、そうさせて下さい。もう、ぶっ倒れそうです」牧野と大塚はそれを聞いて笑ったが、牧野は大塚に
「こいつは凄いですよ。あのプロの殺し屋を二人ともぶん投げたんですから」
「ああ、麻山が強いことは知っているよ。柔道も剣道も五段らしいね。県警内で一番強いと言う噂だ」
「はあ、それしか能がないんで」とやっと深く息が出来る喜びを感じながら、三人はパトカーに向かって歩き出した。




