取り込まれた実習生
2024年は丈一郎にとって希有な一年となった。
春から夏にかけて北浅間村にある彼の別荘地を中心に、幾つかのトラブルや事件に巻き込まれたのだ。最悪なのは彼の住む別荘地内で民間人への傷害・誘拐と監禁・拘束事件が同時に発生し、友人の弟である牧野警部補を中心に地域警察と県警捜査一課の活躍で、事件が解決したと思いきや、少しの期間を経た後に、事件の関係者による予期せぬ傷害事件が発生した。丈一郎は牧野警部補を支援し、最低限の被害で収める事の役に立ったが、最後の事件の発生を食い止めることが出来ずに苦すぎる経験をしたのだった。
一方、これらの事件の中で卓越した判断力と行動力により、民間人の被害を食い止め、事件解決を成し遂げた牧野警部補は警部に昇格し、丈一郎も県警察本部より『特別感謝状』をもらった。少し特殊な能力を持っている丈一郎が、今後もこの地域の愛すべき人々のために何か貢献できればと思う気持ちを益々強めたのは言うまでもない。
近年、日本の農業における労働力不足は深刻な課題となっている。2000年には農業の中心的な担い手(基幹的農業従事者)は240万人いたのだが、2024年の推定では111万4千人と20年あまりで半分以下に減ってしまっている。その解決策の一つとして『外国人技能実習制度』の活用が進められてきた。この制度は一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れることで、人材確保が困難な産業における人手不足の解消を目指すものだ。
丈一郎の別荘地から雄大な姿を望める百名山三山の山裾の高原地帯では、大規模なキャベツ栽培が長年行なわれていて、夏秋キャベツの国内最大の生産地となっている。ここでも海外実習生によるキャベツ栽培を中心とした農業従事者が数多くおり、最盛期には200名を超え、地元農業を支える大きな労働力として活躍していた。
ところが、コロナ禍で実習生が来れなくなったことから、『外国人技能実習制度』から『特定技能制度』での採用に比重が移り、派遣会社経由での派遣が主流となってきている。この特定技能制度とは特に人手不足が深刻な農業や食品・機械製造業といった14業種に対して、外国人の就労を解禁するという制度だ。「農業」で受け入れ可能な人材の在留資格として、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があるが、「特定技能1号」での受入のほうが多く、在留期間が通算5年まであり、フルタイムで働くことができる。日本人労働者と対等な立場で仕事ができるので、祖国に残した家族のために仕送りが十分可能なのが特徴だ。特に技能実習生として三年の経験をして専門級に合格した人は、試験を免除される資格を得られる。留学生や元実習生も、農業の特定技能試験と日本語の試験に合格すると資格を得ることができる。ただ、試験に合格するだけではなれず、入国管理局に申請をして許可されてはじめて特定技能者となれる。そんな特定技能制度を利用する雇う側のメリットは ①日本人と同様にフルタイムで働いてもらえる ②身元が保証されていて安全 ③技能実習生に比べてコストが断然安い 等になるようだ。
一方で技能実習生等がネット犯罪に巻き込まれる事例が報告されている。某関連財団法人のホームページの記載を見ると、その犯罪例として、技能実習生の中には犯行組織の勧誘に応じて銀行口座を他人に譲渡することで、不正送金先口座から現金を引き出す等の犯罪に、知らぬ間に加担させられているケースが見受けられるようだ。事件に関与した技能実習生は、インターネットの求人広告や知人からの勧誘等により、アルバイト感覚で不正送金先である他人名義の口座から現金を引き出す等、自らの行為が犯罪になるとの自覚がないままに犯行に加担してしまう。また、犯罪であることを知りながら「知人からの依頼で断り切れなかった」と語っているケースなどのように、犯行組織が技能実習生を言葉巧みに勧誘し、犯行に利用している場合がある。技能実習生がこのような形で犯行組織に利用された場合には、犯罪行為に加担したとして自らが逮捕、検挙される恐れがあるとともに、”技能実習制度全体に対する信頼を大きく損なう”ことにもなりかねない。そこで、関連省庁より監理団体・実習実施機関に対し、技能実習生が甘い誘いに安易に応じて犯罪に加担することのないよう、また、技能実習生の預貯金口座管理や帰国時の解約手続きを徹底するよう、繰り返し注意喚起するよう呼びかけられている。
ある爽やかな春を迎えた五月の晴れ渡った日に、丈一郎はお気に入りの山歩きコースである『大平湿原』をのんびり散策した帰りに、いつもの『ツツジ温泉』に浸かって程よい疲労を癒している時にこんな話を耳にした。
「岩さん、俺の知り合いが先週だったかな?去年お宅で働いていた実習生を高崎の飲み屋で見たそうなんだ」
「へえ、誰?」
「名前をど忘れしたんだけど、赤いシャツが好きで、背が高くて愛想の良い若者だったんだけど、覚えていないかな?」
「ああそれなら、グエン・バン君かな?」
「そうそう、グエン君、グエン君。彼を結構値段の高いナイトクラブだかで見かけたそうなんだ」
「へえ、出世したね・・でもおかしいな、彼は母国に帰ったはずだけど、人違いなんじゃないか?」
「それなら、いいんだけどね」
「あれ、浮かない顔つきだけど、もしかして、最近よく起きている”あの件”に関わっているとかを疑っているのか?」
「岩さん、実はそうなんだ。”その件”には彼らのような実習生や海外から派遣で来ている子たちが、騙されて加担させられているような話を聞いているしね。」
「うーん、それは怖いな。まだ、日本にいるのは確かにおかしいな・・うちの特定技能制度で来た子達にも注意をするように言っておかないとな」
その話をしていたのは、キャベツ農家の主人のように見える壮年の男達で、一人がそこまで話すと彼らの傍で温泉に浸かっている丈一郎の存在に気づき、相手に目配せをしてその話は終わった。丈一郎は”その件”とやらに関して一つ思い当たる話を知っており、話に割り込むようなことはしなかったが、身近に起きていることを実感した。
実は丈一郎は牧野兄弟といつものように『北浅間村を良くする会』と称して、丈一郎の別荘の洋風のリビングで情報交換会兼飲み会を催しているが、今週の前半に開催した際に”その件”のことが話に出たのだった。北浅間村で農作業を手伝った技能実習生の仕事は春から秋にかけてなので、冬の時期には仕事が無い状態となることが多い。その時期にはそれぞれの実習生が別の場所で生活するのだが、そんな事情の中で牧野警部には近隣の警察署管内で外国人による犯罪が増加してきている背景に、確実な情報では無いがこの実習生が巻き込まれている可能性があるという事だった。一昨年以降は特定技能制度で派遣されてくる若者がほとんどだが、かつての技能実習生がまだ日本に残って仕事に就けずに闇バイト等をしながら生活をしているという。ウイスキーの水割りのグラスを持ったまま
「ええ、やはりそうなんだ。それはどこまで確かなの?」と丈一郎が聞き捨てならない話だと思い尋ねると、
「まだ、調査中なのではっきりとは言えないけど、加害者では無いけど、数人の元実習生の関与がありそうなんです」と牧野警部が少し眉を顰め、困った顔でため息をつきながら吐露した。
「加害者では無く関与というのはどういうこと?」と丈一郎が質問すると、牧野警部が
「例えば給与の振込口座を知り合いに貸すような事で、知らないうちに犯罪に加担していることもあるので、関与度合いを含めて慎重に捜査を進めています。口座を貸しただけなら犯罪に関与したとは言い切れないが、目的を知っていたならば犯罪に関与したことになりますよね」
「そうか、信用が無いと外国人に銀行は口座を開設しないので、実習生は身元がきちんとしているので口座開設が出来て、その口座を犯罪者が犯罪に利用しているわけか」と丈一郎なりに背景を少し理解した。
「実習生はせっかく、真面目に働いても冬の間の仕事が無い場合は、SNSによる紹介を通じて、小遣い稼ぎや生活資金の足しとして、アルバイト感覚でそういう事に加担する可能性はあるようだ」と、兄の牧野は渋い表情でつぶやき、さらに
「闇バイトの勧誘と同じだ」と言うと、深く嘆息した。酔いが覚めるような話だった。
「闇バイトでは敢えて秘匿性の高いSNSで『短期間で高収入、やりたい人いたら連絡ください』という趣旨の投稿をして、『掛け子』や『受け子』や『出し子』を経験の少ない若者にさせ、詐欺事件の実行役として使い捨てにしているんですよね」と牧野警部が補足し、さらに、
「最近では外国人の留学生や技能実習生のように立場の弱い、情報元が限られている若者をターゲットにして、キャッシュカードを受け取る『受け子』と呼ばれている役割や、現金を引き出す『出し子』という役割をさせるケースが増えてきているようです。丈さんが言う通り、彼らは給与口座を銀行に持っているので狙われているんだと思います」
「でも、元締め側は闇バイト募集するだけなら、罪状は『募集職業安法違反』になるけど、実行犯はそうはいかない。実際には強盗をして、被害者に負傷をさせたり死亡させたりするとずっと重い刑になる。強盗の刑罰は重くて『五年以上の有期懲役』になるし、強盗によって被害者を負傷させたり死亡させたりした場合は、さらに厳しい刑罰が科せられる。 負傷させた場合の刑罰は『無期または六年以上の懲役』で、死亡させた場合は『死刑または無期懲役』だ」と、牧野巌はさすが司法試験合格者らしい解説をしてくれたので、丈一郎もこの『闇バイト』の本質的な悪質さに腹が立って仕方がない思いだった。
「そうなんですよね、一番悪い『元締め』は、バレればすぐに逃げられるのに対して、何も知らない『実行犯』側には重い刑罰が待っているという、全く割に合わない犯罪の仕組みだから、絶対に元締めである”主犯”を捕まえて、犯罪を解明し、無くしたいんですよ!」と牧野警部は口角泡を飛ばすような勢いで話した。
牧野警部が興奮するのにはわけがあった。北浅間村に住む彼にはキャベツ農家の知り合いが何人もいた。その一人に彼が小さい頃から何かとお世話になっている人がいて、大岩静夫という名前だが、かなり大きなキャベツ農場を経営する農家だった。大岩から話を聞いて、気になっている若者がいる。彼の名は、”グエン・バン”。東南アジアの某国からの技能実習生だった。過去形なのは昨年までの契約で、大岩静夫のキャベツ栽培の手伝いをしていた。
グエン・バンは大変真面目な性格で、良く働き、明るい性格で、背が高く約180センチほどあり、なぜかいつも赤いシャツを着ていた。年齢は25歳になっているはずで、顔つきはボクシングの世界チャンピオンだった選手に似ているとの噂で、キャベツ農家の主人にもかわいがられていて、特に年配女性からも人気があった。彼は背が高く、精悍な顔つきと愛想の良い性格がその人気の秘密だった。愛称は『グエン君』で、仕事が終わる夕方には彼女たちからマンゴーやドリアンといったフルーツの差し入れがあり、彼はそれを喜んで食べていた。農家の主人も、
「また、グエン君に差し入れか?俺には何もないのか?」と皮肉を言ってはいたが、グエンには出来ることなら長く働いて欲しがっていた。彼は母国に大家族がいて、兄弟の中でも彼が長男で彼の下に弟と妹が合わせて五人いるそうだ。長男の彼は家族の期待を背負ってこの北浅間村を訪れており、帰国後は比較的高地にある実家でキャベツを中心にした農業を志していた。ただ、技能実習生の契約期間は一年から最長で五年ほどで、最近は特定技能制度の『特定技能2号』に認定されると期間は無制限となるが、彼は『技能実習生』として来日していたので、予定通り昨年までの契約で終了することとなった。彼は仕送り金額から余った給与を少しずつ貯金しており、東京へ向かう途中で観光をしながら帰国することにした。一番身近な都会である「高崎」で、母国の知り合いと待ち合わせをしていた。この知り合いとの出会いが彼を思わぬ方へと誘導してしまった。
昨年そのグエンが北浅間村を離れた直後のことだった。グエンは高崎駅の傍の有名はコーヒーチェーン店で待ち合わせをしていた。
相手は同郷の3歳年上の先輩だった。グエンは店に着くと先輩の姿を探した。その先輩は同じキャベツ農家で働いているときの先輩で、名前は”タン・ファン”。日本に留まり永年在住資格を入手して、大変羽振りが良いと聞いていたとおり、高そうな服と腕時計とアクセサリーを身につけ、満面の笑顔でグエンを呼び寄せた。
「グエン、ここだ!ここだ!」と、奥まったテーブルから大きな声を掛けてきた。グエンはそれに気がつき、嬉しそうに彼の元に近づき、お互いに肩を抱き合って再会を喜んだ。タン・ファンはすぐにカウンターでグラスビールをオーダーした。グエンは流石に昼間からの飲酒には抵抗を感じたが、本当に嬉しそうなタン・ファンの気分を損ないたくないので、ビールで乾杯した。
「再会に乾杯!」と、乾杯をした時には、グエンの気持ちも仲の良かったタン・ファンとの再会を心底喜ぶ気分になっていた。タン・ファンが農場を卒業した後の事をグエンは報告し、農家の主人に良くしてもらったことを話した。タン・ファンは特定技能制度2号の資格を得たので、無制限で日本に在留できる資格を得たことを自慢げに話した。
2時間ほどその喫茶店で愉快に話をした後に、タン・ファンは行き付けというナイトクラブにグエンを案内した。重厚な木のドアを開けるとナイトドレス姿の女性がタン・ファンの顔を見るなり近づいてきて、
「おはようございます」と店員同士といった感じの笑顔で店の中に招き入れてくれた。そこは中満国系らしいお店で、まだ七時を過ぎた頃の時間なのにかなり混んでいた。タン・ファンは馴染み客らしく奥まった、外からは見えにくい仕切られた部屋に案内してくれた。すぐに若いすごくスタイルの良い中満国系の若い女性と、彫りの深い中部アジア系の若い美人女性が彼らの隣に着いた。グエンは彼女たちのきつい香水に酔いそうな気分になったが、馬鹿にされないように彼女達に笑顔を向けた。そして、ワイングラスが運ばれてきて、四人での乾杯となった。日本語が彼らにとって共通語になり、日本のテレビドラマや人気タレントの話や、グエンたちの母国の話などで盛り上がり、相当打ち解けた雰囲気となった。また、グエンは東南アジアの若者としてはかなりイケメンで、彼が有名なボクシングのチャンピオンに似ていることでも盛り上がった。少なくともグエンはそう思っていた。大分酔ってきた頃に、タン・ファンはグエンを自宅にしているマンションに誘い、彼女たちにも仕事を早く切り上げてマンションに来るように誘った。二人とも以前にも同じようにタン・ファンのマンションに行ったことがあるようで、お酒とつまみの好みを確認して、後で行くことを約束した。
グエンはタン・ファンのマンションに連れて行かれ、豪華な設えに驚いた。そこも契約は中満国系らしく、タン・ファンはそこを安く借りているらしい。彼はおっとりとした風情で微笑み、部屋に入るとグエンにシャワーを浴びるようにさりげなく指示をした。暑い一日を過ごし、大分酔いが回ったグエンは素直に従い、綺麗なシャワールームで体を洗い、先輩が用意してくれたナイトウェアに着替えた。グエンは気持ちよくシャワーを浴びたことの礼を先輩に告げると、先輩も室内着に着替えていて、リビングとつながったキッチンで酒の準備をしていた。
「こんな綺麗なシャワールームは生まれて初めてだよ。ありがとう。」
「ははは、そうか!それは良かった。今日は絶対泊まって行けよ!」
「はい、嬉しいな。有り難う」とグエンは答えて、リビングのソファーに座り寛いだ。グエンはその日のホテルの予約をしていなかったので、ホッとしていた。そして、また乾杯をした。一時間ほどリビングの大型テレビでバラエティ番組を見ていた頃に、チャイムが鳴りあの美人二人が玄関に現れた。グエンは自分の格好がナイトガウンなのに気づき、少し恥ずかしかったが、彼女たちは美味しそうなつまみとワインを買ってきていた。示し合わせたように連れ立ってシャワールームに入っていった。グエンはこの後どうなるのか心配になりなりタン・ファンの顔を見ると、
「彼女たちはお前を気に入ったみたいだな」と悪戯っぽい笑顔でそう言うので、
「ええっ、本当ですか?」とグエンは少し驚いて両手を広げてみせると、
「ああ、間違いない。お前はどちらが好みなんだ?」と平然と聞いてきたので、ドギマギしながらグエンは素直に中部アジア系の美人が好みだと言った。タン・ファンは
「やっぱりそうか」と納得顔をするので、グエンは少しホッとした。タン・ファンと被ったらどうしようと思ったのだ。
その後彼女たちもナイトガウンでリビングに現れ、夜が更けるまで四人で飲み、笑い合っていたが、グエンがふと気がつくとタン・ファンと中満国系の女性の姿はそこに無く、中部アジア系の美人と彼の二人が残された。その後は若い二人は余り話すことが無く、ほどなくもつれるように隣の寝室に向かうこととなった。グエンは夢のような夜を過ごしたのだった。
その後グエンはタン・ファンのマンションに荷物を預けて滞在し、午前中は例の中満国系のクラブの清掃の手伝いをして、夜はお客兼従業員のようにクラブに通い、夜遅くなったクラブの常連客の自宅まで送迎する際の運転手をするようになった。そしてそれが日常的になった頃に、大岩の知り合いである親しいキャベツ農家の男が高崎のそのクラブを訪れて、たまたまグエンを見かけたのだった。
グエンを仲間に引き入れたタン・ファンの方は、二年ほど前からこのクラブで知り合ったオーナーの知り合いの中満国系の男に誘われて、銅線泥棒を手を染めるようになっていた。中満国系の男はクラブで採用した女性を使いタン・ファンに巧みに取り込み、最初は支払いに使う口座を借りる形で関わりを始め、次には夜間の高額のバイトだと嘘をつき銅線の運搬を手伝わせた。住居はオーナーが借り上げているマンションに住まわせてくれた。通常は例のクラブでのバーテンダーの仕事をして、時々その夜間バイトをするという毎日だ。そして、タン・ファンが仕事にどっぷりつかってきた頃に犯罪に関与している事を知らせた。タン・ファンは薄々違和感を感じており、脱退を申入れようとしたその日に、中満国系の男から
「タン・ファン、いつも有り難う。君はすっかり我々の仲間だよ。今更背いたりするとすると、せっかくの良い暮らしが台無しだよ。そうなると君は無事に母国に帰れない。これからもっと、稼ぎなよ!」と、いつもは笑顔の男がにこりともせずに、真っ正面から肩に手を当てて背筋が寒くなるような低い声で告げるのだった。タン・ファンは足をガクガクさせながらも、こいつがどこかに居なくならない限り、自分の自由は奪われたことをはっきりと自覚した。その時が来るまではこいつに従うしかないと覚悟を決めた。
そして、タン・ファンが誘い入れたグエンも、帰国すること無く半年後に銅線泥棒をする犯罪組織の一員となっていた。あの、真面目で愛想が良く、女性達に人気のあった技術実習生の彼が ”邪悪な者たちが待ち受ける蟻地獄” に落ちてしまったのだ。




