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第4話 悠月、晴日の手をつかんで逃げる

お目をとめていただき、本当にありがとうございます。

「ーー帰ろう、安曇野」

 気がつけば、僕は強引に彼と手をつないでいた。

「え?」

「恋人だろうが、身内だろうが、行動を強要するなんてできないはずだよ」

 声を張った僕を、女性が睨みつけてくる。まるでギリシャ神話のメデューサみたいに、僕を石にしてしまいそうな怖い顔だよ。



「何を言ってるの!恋人だったのよ!!」

「ーーたかが、恋人ですよね?」

「!」

「いっとき付き合っただけで人生しばろうとするなんて、おたくの娘さんストーカーなんですか?」

 僕の言葉じゃ母親を怒らせるだけだよな、って思ってたら案の定、女性の顔がメデューサから般若のお面に変わってしまった。


「ーーなんてこと言うの!!美椿は優しい、天使みたいな子だったのよ!!」

 大人のここまで怖い顔、はじめて見る。なんて恐ろしいんだろう。


「天使が悪魔になったんですか?いや、お母さんが、美椿さんを悪魔にしてるんですよね?」

「はあ!?あんた、何言ってんのよ!!私の美椿を侮辱してーー!!」

 殴られたらどうしよう。

 ちょっとぐらいは考えてしまったけど、僕は安曇野を守るんだ。


「お母さんのせいですよ!月命日とか、月イチってことですよね?結婚してるわけでもないのに、重すぎるーー。それ、本当に天使な娘さんが望んでるんですかーー?お母さんの望みでしょ?」

「う、うるさい!!可哀想でしょ!うちの美椿は中学3年生だったのよーー!!」


「そりゃ可哀想ですよ!自分の母親が恋人に迷惑をかけてるなんて、可哀想すぎる結果ですよね!?それからずっと安曇野につきまってるんですか!?」

「つきまとってない!」

「じゃあ、命日の強要なんかやめたらどうです?待ち伏せも、気味が悪いんでしないほうがいい!」

 言うが早いか僕は彼の手を引っ張って走り出した。


「待ちなさい!!」

「警察に相談しに行きます~!」

「!」

「晴日くん!!娘が、美椿のことが可哀想じゃないのかーー!!」

 その言葉が背中にぶつけられた。見ると、安曇野が唇をきつく引き結んでいる。



 早くに亡くなった娘さんのことは、いくら薄情な僕でも可哀想だとは思うよ。でも、それで安曇野を追い詰めるのは、やっちゃいけないことじゃないか……?


 

















『駆け込み乗車はご遠慮くださいーー』

 駅のアナウンスがぐさりと刺さる。


 ーー今日はすみません……。いつもはやってないんですよ。


 駆け込んだ電車のなかで、僕は荒い呼吸を繰り返した。あの場所から全速力で200mほど走ったんだよ。安曇野の呼吸はそこまで乱れてないから、運動もできるタイプなんだろうなーー……。うらやましいねーー……。



「ーー大丈夫?」

「…………平気……。安曇野は、……、息切れしてないね……」

 ーーこの場合、だめなのは僕だな……。体育の授業だけじゃ体力はつかないのかな?



「ーー巻き込んで、ごめん……」

 悲しそうだけど、感情のない声だった。つらくてもひとりでどうにかする、そんなふうにも聞こえる。

「………い、いや……」

 ゼーハー、ゼーハー、としか言えないや。

「ーーありがとう。うれしかった……」

 力なく微笑まれ、僕は胸がドキドキした。



「ーー何で、あんな目にあってるんだ?」

 ようやく息切れがおさまった僕は、安曇野に尋ねてみる。不思議でしょうがない。ただの思い込みにしてはたちが悪すぎる。何か、安曇野じゃなきゃだめなことがあったのか……。



 ガタンゴトン、走り出した列車の揺れで、僕の身体がぐらついた。体幹も悪いなんて、カッコ悪いなーー……。 


「あ、ありがと……」

 後ろから安曇野に支えられ、お礼を言う。いちいち行動がスマートすぎるよ……、ああ、こういう優しさが相手に誤解を与えてしまっているのかもーー。


 でも、それは彼の長所であって、ひどい目に合う原因にはならないはずーー。なら、なぜあの夫婦は、安曇野を娘さんの恋人と思い込んでいるんだろう……。




「ーー遠野……」

 窓から外の景色を見ながら、安曇野が僕の名前を読んだ。

「うん?」

 座席がひとつ空いたなーー、あっ、あのひと妊婦さんだよ、マタニティマークをつけてる。


「席空きましたよ」

 僕は空いている席の前に立って女性に声をかけた。

「ーーえ!?あ、ありがとうーー」

 少し顔色が悪い女性がうれしそうに席に座る。やれやれ、あそこを占領している女子生徒達は、そんなこと考えないんだろうな……。嘆かわしい状況だよ。


「ーーごめん、ごめん。何だった?」

 中断して悪かったけど、ひととして大事なことだからね。

「遠野は良い奴だ」

「そうかなーー?」




『ーー次は、桜下水駅ーー、桜下水駅ーー』

「ーー次だ」

「そうなんだ。ひと駅違いなんだね」

 夕暮れどきのこの時間でも乗客はいっぱいだ。ひとって、どこにこんなにいたんだろう?、ってたまに不思議になるぐらい多いよね。これは、都会だから思うことなのかなーー?

 


「ーー話しがしたい……」

 聞こえないぐらいの声で彼がつぶやいた。

「してるじゃないか」

「ーーさっきのこと……」

「話してくれるの?」

「ーー聞いて、くれるか?」

「もちろん。このままだとスッキリしないからね」

 僕の言葉に安曇野が少しだけ微笑んだ。


「ーー甘いものは好きか?」

「美味いコーヒーがあるなら食べるかな。玉露でもいいけど」

「ふふっ」

 軽く吹き出した彼が、「家にケーキがある」、と言った。

「え?」

「来てくれ」

「ええーー!」


 本当に、僕を、い、家に呼んでくれるのかーーッ!?ラブホの息子だけど、親御さんは大丈夫なのか!?







 ふたりで電車を降り、風の強いホームを歩く。でも、『今日は風がきつくないな』、って思ってたら、安曇野が風除けになってくれてた。


 長い階段を登りながらも、彼が僕に歩く速度を合わせてくれているのを感じた。その長い足ならもっと歩幅が広いはずなのに……。


 変わった奴だな。きっと英国紳士だって同性には親切にしないだろうにーー……。









最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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