第6話:ばくれつとしょんかんいどで、世界救える?
★ 第6.1話 SS「青」★
『……そうね。じゃあ──見てみようか。』
『“ここ”にいる?
それとも、“まだ向こう”に……?』
『……わからない。』
『あちらでは、“すべて”を管理していた。
──確かに、そうだった。』
『でも……この宇宙は、今も……
私と、全てと──繋がっているはず。』
『ならば……今この瞬間、
宇宙の中では、何が起きている?』
『私が“わからない”ということは──
宇宙も、“迷子”なのだろうか……』
『……壊れた。
たぶん、それだけのこと。』
『今の私は、“現実”と“消失”の、
そのわずかな狭間にいる。』
『けれど……“あの子たち”は?
私の……二人の友が、信じてみようとした者たち──』
『彼女たちは……誰?
そして、何を、為す?』
★ 第6.2話 SS「炎」★
「んん〜〜〜〜〜……ふあぁぁ……」
土曜の朝に、金曜の夜をフルで楽しんだ人間の目覚め方。そんな感じで、私のまぶたがゆっくり開いた。疲れてた。10時間寝たはずなのに、体が「もう一時間いこうぜ」って言ってくるタイプのやつ。
……もしかして、私、気を失ってた? ここ、どこ? 図書室……? うん、図書室だ。でも、さっきまでとは雰囲気が違ってて、なんかこう……光が、優しくなってた。
イスシアのことを思い出す。あの太陽の感じ。机、訓練、そして──……気むう。気むうが、そこにいた。すぐそばに、しゃがみこんでて。その横にはマイルズがいた。遠くから災害現場を見てるような顔してた。
でも、気むうは……顔を見た。まっかだった。まるで、泣いた直後みたいに。私はビクッと体を起こして、勢いのまま気むうに飛びついた。
「気むうちゃあああああん!! 気むうちゃあああああん!!」
「できたよ! ついにできたの!!」
気むうはちょっと驚いたみたいだったけど、数秒後には、ふわっと笑った。
「き、急に……。な、なにが……できたの?」
「ばくれつ!!!!!!」
……その瞬間、マイルズが盛大にむせた。
「町で爆竹でも投げてるのかと思いましたよ!?
神いさま、まったく……!
あの魔法は“不安定”だと、何度も言ったでしょう!!」
その怒鳴りに対して、私の返事は──両手でダブル中指ビーム☆。しかめっ面で、べ〜っと舌を突き出して、ぷるぷるダンス。
「ん゛〜〜〜〜〜〜っ!!」
「……はあ。
なんて下品な娘なんですか、あなたは。」
「さて……皆さま。
本日は“実技”を行います。
陛下に、“堅すぎる”と叱られましたので……
たまには“楽しく学ぶ”のも、よいかと。」
あの笑顔。土曜の朝八時にハイキングへ誘ってくる父親の顔やった。優しさ100%、地獄100%。だから、私は反射的に口を手で押さえて──
「まずそのスケベ棒、口から抜いてから喋って、マイルズ。」
「……!?!?」
「お前……そこに、いたのですか……!?」
「神い、あなたの“爆裂”……見せてくれる?」
気むうが真顔で言った。
「もちろん!! 行っくよぉ~~!!」
「燃えろ、叫べ、天の底──ッ!!」
手のひらの上に、光がパッと灯った、その瞬間──
「や、やめなさい!! やめろ!!! 絶対にやるな!!!」
幽霊でも見たみたいに、マイルズが叫んだ。
「ちぇっ……」
「クソ真面目か。」
気むうと私、ぴったり声を揃えてそう言った。
───▣◎▣───
マイルズが、別の机を運んできた。それと一緒に、例の魔法グリモワールも。……しかし、その机が。脚が時々ぐにゃって曲がったり、逆にフワッと浮いたりして──最終的には、片脚だけ浮いたまま停止した。
「……あ、これもうダメだわ。」
心の中でそうつぶやいた。バグだ。戻ってきやがった。
「さて、気むう。
今日はあなたに手伝ってもらって、
神いさまに一つ呪文を教えたいと思います。
明日はあなたの訓練日ですので……一人ずつ進めた方が良いかと。」
「問題ない。」
───▣◎▣───
新しい呪文を一つ、選ばされた。一瞬、「いや、爆裂だけでなんとかするわ」って言おうかと思ったけど、メグミン方式で、毎回ぶっ放して倒れるとか、私、そこまでアホじゃない。
「うん、私はメグミンほどバカじゃない。
爆裂は最後の切り札として使う方が、
どう考えても賢い。」
……とか自分に言い聞かせて、数秒だけ、精神的に優位になった気がした。
そんなわけで、真面目にページをめくっていくと……魔法一覧の「引火系」カテゴリに、ひときわ輝く一つの名前があった。
火成波
両手を前に出して、掌を向かい合わせに構えると、その間にオレンジ色の火球が生まれて、一気に前方へ“波”として放たれる──そんなイメージだった。
わかる人にはわかる。これはもう……“火のマセンコー”だよね。エフェクト盛り盛りのやつ。……はい、優勝。
私が呪文を選んだ瞬間、マイルズがなんとも言えない顔でこっちを見た。……まあ、顔に全部書いてあったけど、ちゃんと口でも言ってきた。
「……まあ、“安定した魔法”を選べと言ったのは私ですが。
これを……? 本当に?」
「え、なにが?」
「スタイルがある。」
気むうが、目も合わせずにボソッと言った。
「それそれ! 気むう、わかってる〜!!」
パァンッ!!──姉妹のハイタッチ!
突然だった。一匹のウサギが、部屋の隅から現れて、地面をズルズルと……いや、なんか……不可能な動きで、部屋を横断していった。
「……は?」
誰も何も言わずに、そのウサギを目で追った。ウサギは壁にぶつかりそうになったと思ったら──その場で歴史的なバグムーブをかました後、消えた。
……誰も、何も、言わなかった。
というわけで。結論から言うと、今回の魔法は昨日の爆裂よりはマシだった。単純で、シンプルで。まあ、マイルズって説明だけは、ちゃんとできるんだよね。(人間扱いされない時以外は。)
マイルズの説明によると、今回のこれは“ファイナル”じゃなくて、ただの“マジックスペル”。要するに──詠唱とか、いらないらしい。
「“カセイハーーー!!”と叫んでも構いませんよ。
神いさま、そういうの……お好きでしょうから。」
「……ただ、効果には何の影響もありませんが。」
……いま、めっちゃディスられた気がする。
ちなみに、この呪文のナンバーは「207」番だそうで。
(たぶん明日には忘れてる。)
マイルズの説明によると──まず、手のひらに小さな火球を作る。(爆裂と似てるけど、もっと“制御された”形らしい。)そしてそれをそのまま投げるんじゃなくて……火球に小さな穴を開ける。そこから内部のエネルジアがビーム状に放たれて、“波”になる、という仕組みらしい。
めっちゃテクニカルな説明だったけど……いや、これ、かっこよすぎて、私の唯一の脳細胞が急にスイッチ入ったわ。
「カセイハァアアアアアーーー!!!」
ドンッ!!
……
火球はポトッと落ちて、ガラス玉みたいにパリーンと砕けた。
「カセイ……ハッ!!」
……
今度は出た。出たけど……棒みたいに回転しながら飛んでいった。
からの、
ボンッ!!
「今日は調子いいね、神い。」
気むうが、あの眠そうな顔でにこっと笑った。
「……ふんっ。」
そうして、私たちは続けた。40回。(数えたのはマイルズ。)
そして──
「カセイハァアアア!!!」
ドガンッ!!
ガラス瓶、木っ端微塵。
火花バチバチ。
パーフェクト。
「勝利ッ!!」
「やっとか。」
「下手くそすぎ。」
「ちょ、ちょっと!? 褒めてくれてもよくない!?」
「……39回目に成功とか、逆にすごいよね。」
私は顔をしかめた。
「こんな姉妹がいるなら、敵いらなくね……?」
★ 第6.3話 SS「影」★
次の日は、気むうの訓練日だった。お姫さまルームから起きて、図書室へ直行。……うん。これはもう、完全に日課ってやつだ。
私はというと——暇すぎて、イスシアでも呼ぼうかと思った。見てるだけとか退屈すぎるし。でも、どうやって呼ぶのかわかんない。だって、いつもは勝手に現れるじゃん?
念力っぽく呼べば来るんじゃね?と思って、心の中で「イスシア……来い……」ってやってみたけど——無反応。
ので。脳内で叫んで、罵倒してみた。
「イスシアアアアア!!お前の死んだバグに呪いあれ!!呼んでるっつーの!!」
『い、いま来たよ!? 咳っ……な、なに!?!?』
「やっと現れたか、害虫。」
「ちょ、ちょ、イスシア!
今日は気むうの訓練だってば!
見逃したら損だよ!」
『えっ、気むう!? やだこわっ。もう帰る〜。』
「は?」
『気むうには、白薔薇の加護がついてるからね?
あの薔薇、マジで天才級に頭いいからさ。
でも、変なとこアホで……
平和主義だのなんだの、そういうの好きなんだよね〜。』
「え、それのどこが“アホ”なのよ?」
『平和主義で生きてたら、最後にはみんなに乗っかられるっしょ?
……人生ってそういうもん。』
「あー、なるほどね。」
───▣◎▣───
気むうは、“精神系”の魔法を選んだ。「なんでそれ選んだの?」って聞いたら——無言で、じっと私を見つめてから、一言。
「すべては……意識次第。」
「敵に勝てないなら、
敵を攻撃させなければいい。」
私は思わず、眉をぴくっと上げた。
「……なるほど。」
というわけで、私は椅子に座って、気むうの訓練を見守ることにした。
『さてさて……無口ちゃん、今日は何してくれるのかな〜』
「おい、うちの妹をバカにすんなって!」
『はいはい、ごめんごめん。』
気むうも、私と同じく、“マジックスペル”と“ファイナルスペル”のセットを選んだ。そこで、マイルズがこっちを見て言った。
「神いさま、よければあなたも、
近接用の呪文をいくつか練習してみては?」
「……へ?」
「最初のページに、速度や筋力を強化する術式がありますので。
それに……火属性を組み合わせても良いでしょう。」
───▣◎▣───
気むうの“マジックスペル”は、相手の体内にある感情関連ホルモンを、人為的に増減させる系統だった。
「戦いたくない時に特に有効です。
アドレナリンを下げたり、
メラトニンを注入して眠らせたり……」
マイルズが、冷静に説明した。
「……理系の話じゃん。」
『ほんとそれ。』
そんなわけで。
気むうが、ぬいぐるみにドーパミンだのなんだのを注入してる間に、私はマイルズに言われた“補助系”の呪文を練習してた。
あのグリモワールには、シンプルに「スペル」とだけ書かれたセクションがあって、そこに載ってるのは、いわゆる“状態強化系”。攻撃じゃないから、「マジック」とか「ファイナル」の前置きがついてないらしい。
……ってのを、イスシアが解説してくれた。
『スピード、パワー、飛行、あと火の拳。
その4つ取っとけば、ぶっちゃけ無敵。』
「ちょ、ちょっと待って!? 多くない!?」
『いや、あれよ。
あれくらいはね、普通の小鬼でも覚えるし。
まぁ、賢い小鬼限定だけど……
神いなら人間だし?余裕っしょ、イィィジィィー。』
「あー……」
一瞬、棚の方に目を向けた。なんか、おかしい。
本が、数冊。フワッと空中に浮かんで、まるで誰かがさっきまで読んでたみたいな角度で、スッと落ちていった。
……けど、ただ落ちるわけじゃない。動きが、妙に“正確すぎる”。まるで“記録された挙動”を再生してるみたいに。
そして──床に届くギリギリで、時間が巻き戻るように、また浮かび始めた。
それが……ずっと、繰り返されてた。
「よくやりました、気むう。
とても上出来です。」
マイルズの声が聞こえた。
振り返ると──あのぬいぐるみが、椅子に座ったまま、ビクンビクン痙攣してて、よだれダラダラだった。
(気むう……何を注入したの……?)
……って思ったけど、私は私で練習しなきゃ。
ということで、補助スペル開始。
うん、これ、めっちゃ簡単。結局、体を動かすのに“エネルジア”を使うだけ。
たとえばスピード系なら、筋肉を動かすんじゃなくて、体そのものを“エネルジア”でぶっ飛ばす。最初は違和感あるけど、慣れれば全然いける。
パワー系も似たような感じ。筋肉じゃなくて、腕とか脚を内側からエネルジアで“押し出す”。
だから、本気でやったら、マジでヤバい威力になる。
『ちょっとちょっとちょっと〜!?
骨折れたらどうすんのよ!?
コントロールしてよね!?アハハハハ!!』
「……笑ってないけど。」
飛行系?ふん、はいはい、また“エネルジアで浮かぶ”系ね。
前に本を飛ばしてマイルズの頭にぶつけた時と同じ理屈。今回は、それを自分にやるだけ。
最初はバランス取るのがむずかったけど、一時間くらい練習したら、歩くスピードくらいでなら、壁に激突せずに飛べるようになった。
ふと、天井を見上げた。
……犬がいた。
天井に、普通に、立ってた。
なんで?知らんけど。
めっちゃ怖かった。一ミリも動かないから、逆に怖い。
「……こわ。」
『ぷっ。慣れときなよ。
青薔薇を直さない限りは、こういうの止まらんから。』
「“わたしたち”が直すの……?」
『は?
あんたさ、王様がなんで訓練してくれてると思ってんの?
普通ならもう故郷にポイして、
こっちの世界は崩壊しようが関係なし〜でしょ。
でもそうしてないってことは——』
『“頼られてる”ってことだよ。
姉妹として、青薔薇をどうにかする役目ってわけ。』
「……なんでそんな重大なことを、
豆腐の話でもするみたいに言えるの……」
……まあ、しょうがない。気づけば、私は完全に“少年漫画級の冒険”に巻き込まれてた。はあ。あの日、家にいたままだったらなあ。授業サボって、姉妹でゴロゴロしてた方が、100倍よかったってば。
気むうの方を見ると、今度は“ファイナルスペル”の練習に入っていた。内容は——敵の意識を一瞬飛ばして、脳内に“高音のノイズ”を30秒間響かせる、というものだった。その30秒間、相手は何もできない。……めっちゃ便利じゃん、それ。
私はというと、次なるバトル用スキルを練習。火の拳。これはもう、腕に火をまとわせるだけ。爆裂の後だと、こんなの“楽勝”って感じ。
で。グリモワールをもう少し掘ってみたら、なんかこう……めっちゃ王道バトルアニメっぽいやつを発見。
小規模瞬間移動
半径1.5メートル以内で、好きな位置に一瞬で移動できる術式。
……クールすぎ。
小規模瞬間移動の練習を、イスシアに見てもらってたら——
……突然、
ギャアアアアアアッ!!!
という、ゾワッとするような叫び声が。
「うわ、なに!?!?」
見れば、マイルズがゾンビを2体召喚してた。気むうのファイナルスペル、実戦テスト用らしい。
(いやいやいやいや……
ちょっと待って、それ、聞いてない……)
気むうは、音の魔法で2体とも即ノックアウト。星を見てる間に、胃袋にパンチの雨をお見舞いした。
「イヤァーー!!ヤァーー!!」
……気むうが叫びながら殴ってる……?
どこまでが私の知ってる気むうで、どこからが新種なんだろう。
ゾンビたちは、灰になって消えた。
「素晴らしい!完璧です、気むう!」
マイルズは、しっぽで床をピシッ、ピシッと二回打ち鳴らした。
……それが、あいつなりの拍手らしい。
……ふーん。気むうには従順だからって、そんなに甘やかしちゃってさ。このネコ野郎。
はいはい。私は私で、小規模瞬間移動の練習を再開した。
これまでのスペルより、ちょっとだけ手間がかかる。やることは2つ。
ひとつ:自分の体を“衝撃耐性バリア”で包む。
もうひとつ:エネルジアで自分の肉体を、ほぼ瞬間的に目的地まで“引っ張る”。
この2つを、同時に発動。それで移動できる距離は——1.5メートル以内。
『……この魔法、トイレ送り確定でしょ。』
「……まあ、必要なんだろうね。」
★ 第6.4話 SS「瞬間移動」★
あの術。小規模瞬間移動。練習してた。ずっと、ずっと、ずーーーっと。
イスシアは、もう限界。私の失敗を見るたびに、なんかこう、魂がちょっとずつ死んでいってた。余裕で、数十回は失敗してる。
そんなとき。マイルズと気むうが、こっちに来た。
「気むうは、今日の訓練、これで終わりです。
遅くなってきましたし、神いさまが続けるなら……ご自由に。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったァ!??」
気むうが、すっと片手を上げた。無言で、にこっ。あの“静かに殺す”系の笑顔。私に、手のひらを向ける。
次の瞬間——全身にバチバチとした衝撃が走って、背中にウイング生えてきそうな勢いで、意識だけでバックフリップしそうになった。
「うぉぉぉぉぉぉッ!?!?!?!?!?
ヤバイヤバイヤバイパパ見てええええ!!!!」
「ワアアアアアアアアア!!!!!」
しばらく、私、謎のハイテンションで空回ってた。正気に戻った頃には……2人とも、もういなかった。
『……神い、メンタル逝ってない?』
「うっさい。」
私の瞬間移動チャレンジ、だいたい失敗。しかも、その失敗の仕方が——毎回、意味わからん。
たとえば:防御バリアを忘れて、皮膚がベリベリに裂ける。
たとえば:バリアは完璧なのに、エネルジアで引っ張る力を間違えて、壁に激突、ノックアウト寸前。
……とにかく、すでに体中アザだらけ。傷、擦り傷、青タンコンプリート。
プライド? そんなもん、もう燃え尽きたわ。
でも。私は、諦めねえ!! 根性だよ!!根性!!!
頭にコブ3つ、両腕は傷だらけ、体力? もう爆裂のあとよりヤバい。
そして、試行回数——たぶん、109回目。
『……もう寝なよ、マジで。』
「はぁ……っふぅ……っあと1回だけ!」
『その“あと1回”、5回前から聞いてるけど!?』
私は静かに構えた。体を安定させて、額に指2本を当てる。
……なんか、こういうのってポーズが大事。ゴクウみたいに、ね。
いくよ。
——フレーム単位の操作。
防御展開
↓
エネルジア推進
↓
防御解除
——ズシャッ!!
……
動いた。半メートル。
「ウオオオオオオオ!!!!!」
『神よ……やっとかよ……三年かかった感あるわ……』
「できたぁぁぁぁ!!」
私はその場で膝をついて、地面にバタンッ!!
「……やっと……!!!」
『この子、
もうダメだわ……。』
★ 第6.5話 SS「戦」★
お姫さまルームで目が覚めて、妹を起こした。もう、正直に言うけどさ——「部屋 → 図書室 → 部屋」。このルーティン、完全に染み付いた。ここ数日、太陽の光ってどういう感じだったっけ?……マジで忘れかけてる。
小規模瞬間移動と、他の戦闘系スキルを覚えてから、もう二日が経ってた。最近、マイルズに言いたくなってきてる。「なあ、そろそろ“冒険”行こうぜ?」だってさ、私はオタクだけど、新鮮な空気は欲しいんだよ!!
……で、今日。世界はいつも以上にヤバかった。テクスチャの読み込みがバグってて、モノたちが、ブルブル、ガクガク、震えまくってた。まるで画面の奥から、こっちの現実に干渉してくる感じ。酔うわ。怖いわ。精神的に来るわ。
「ナニコレナニコレナニコレナニコレコレ≠≒≠≠≠≠≠≠≠!?!?」
——ってパニくってるところに、マイルズ登場。何事もなかったかのように、平然とした顔で、廊下で出迎えてきた。
「本日の授業は、特別に──」
「あんた正気!?!?!?
ねぇ、見てよ!?!?
世界が終わりかけてるんだけど!!?!」
「神い、落ち着いて。」
「落ち着けるかァァァァァァ!!!!」
『てか、さ……
ここ数日、レンダリングのバグ波来てるじゃん?
今さら騒いでも意味ないって……』
……そんなわけで。壊れかけの世界をかいくぐりながら、私たちはどうにか図書室へたどり着いた。そしてマイルズは、さらっと爆弾発言。
「本日は、姉妹同士の模擬戦をしていただきます。」
「妹ちゃんに手なんか出せるかバカァ!」
「……いいよ。」
「って、え!?!?
ちょ、気むう!? なんで“いいよ”なの!?」
「神いには、当たらないと思うから。」
「今なんて言ったコラァ!? 虫か!? お前は虫なのか!?」
「よっしゃああああああ!!
ぶっ潰してやんよおおおおおおおお!!!!」
侮辱には、侮辱で返す。私、完全に“戦闘モード”。
「……ほんと単純ですね、あなた。」
マイルズが、ため息混じりに言った。こうして、私たちは距離を取り——向かい合う。戦闘ポーズを決めて。いや、正確には——私はちゃんとポーズ取ってたけど、気むうは……微動だにしなかった。腕を組んで、脚を揃えて、まるで呪われた像。
「え〜っと、それじゃ……
いっくよーー!!
3!!
2!!
1!!
姉妹バトル開始ィィィィィィィィィイ——
ゴホッ、ゴッホゴッホッッ!!!」
私が先に行った。——飛行ッ!! エネルジアで加速。拳に炎ッ!!
「いっけえぇぇぇぇッ!!」
胸に一撃、正面突破だッ!!……が、気むうは——動かない。
「うそでしょ!?」
——ドガッ!!
拳は、防がれた。一瞬で前腕を上げて、魔法の盾を展開。——バシィッ!! 衝撃、全部吸収。
「なにそれ!? 固すぎ!!」
今度は——下段攻撃ッ!! 脚を狙って、振り抜く!!
「よっしゃあァ!!——」
……と思ったら。ヒュッ!! 気むうが、ヒラリと跳んだ。跳躍、高すぎ!! 空中で、こちらを見る。
……そして、指2本をスッと向けた。
「……えっ、なにそれ」
——ボンッ!!
頭が一瞬グラッ。意識がズレた。たいした力じゃない。でも——精密すぎて、逆に怖いッ!!
「ちょ、マジか!? 精神攻撃アリなの!?」
後退。着地。バランス、危うい……!
「しょんかんいどっ!!!」
一瞬で、気むうの背後へ。
「ふふふ……」
そのまま拳を——
「喰らええぇぇぇッ!!」
——スカッ。
「えっ?」
…いない。直前で、消えた!?
「ちょ、待って待って!?」
「あなただけが使えると思わないで。」
「ぐぬぬぬぬ……!!」
「しょんかんいどッ!!」
——ドンッ!!
「しょんかんいどッ!!」
——ドンッ!!
「しょんかんいどォォォォ!!」
——ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
「ちょっ!?!
ねぇ!!
動かないでよ!!
当たらないでしょ!?
こっち本気で殴ってんのに!!」
「ふっ……」
私は一旦、距離を取って——作戦、立て直し。
「ねえ、昨日……私が何してたか知ってる?」
「は?」
「あんたが“飛ぶ”練習してる間に、私はコツ掴んだんだよ。
ただ“早く&同時に”やればいいだけじゃん。」
「簡単に言うなああああッ!!!」
——飛ぶッ!!
真っ直ぐ突っ込む!
でもそれは、フェイント。
「しょんかんいどッ!!」
背後へ——!!
「カセイハァァァァァァァァ!!!!」
——ドオォォォォォン!!
直撃!!!
気むう、吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
「よっっっしゃあああああッ!!」
立ち上がった。
気むうは、一瞬で、私の“勝利ムード”を断ち切った。無言。表情も変えない。
私はすぐに動いた。今度こそ終わらせる。
——が。
彼女の手が、スッと上がった。指2本。私の目に向けて。
「ああああああああああッッ!!!!」
「おやすみ、神い。
ぐっすり、ね。」
「█▓▒░ FINAL SPELL No.345 ░▒▓█」
HIGHHERTZ!
——ボンッ。
次の瞬間。
すべてが——真っ白になった。
視界ゼロ。耳の奥には、キィィィィィィィィィィィィン……
耳鳴り。痛い。響く。世界が、壊れた。
「あ、あ、あああああっ……!!」
その中で——気むうの拳が、私の身体を、的確に、正確に、叩き込んでくる。
数秒後。意識が戻る。私は、地面に崩れ落ちた。
「……くっそ……」
マイルズは静かに腕を組んで、無表情でこちらを見ていた。
「……まあ、初心者にしては、なかなか見応えのある戦いでしたね。
ちょっとアマチュア感は出てましたが。
動きも、まあ、遅い方で。
でも、いいでしょう。
よく頑張りました。」
「遅い!?」
「……本来なら、戦闘速度は音速レベルが基準ですので。」
「え、それ最初に言えや猫ォ!!!」
★ 第6.6話 SS「力」★
その日、図書室に入ると——そこには、マイルズと……よくわからん機械の山。ケーブル、ケーブル、さらにケーブル。金属の玉がぷかぷか浮いてて、椅子に何かのヘルメットがくっついてるし、全体的に……怖い。
雰囲気だけで言えば、『レイン』の世界観と、エリア51の地下実験室の融合だった。
「……え、なに?今日って、誰か“処刑”でもされんの?」
「誰も処刑しませんよ。今日は、あなたたちの“力”を数値化します。」
「は?」
「……“インク”の話、しましたよね?以前。」
「あ、あ〜〜〜……うん、したね……」
(してたっけ……?)
気むうは、当然のようにうなずいてた。くっそ、真面目め。
「要するに、“エネルジア”の出力を測定して、100で割って見やすい数にするだけです。」
「あー……なるほど〜」
(なるほどって言ってるけど、全然わかってない。)
「じゃあ、どちらから測りますか?」
「やだ。」
「やだ。」
「私が先に言ったからね、妹ちゃん。残念だけど、これは宇宙ルールよ。」
「私の方が早かった。」
「はあ!?絶対違うし!」
「……ほんと、うるさい姉。」
気むうは、ケーブルだらけの椅子に静かに座った。マイルズが渡したのは、頭一個半くらいのサイズの金属ボール。なんか……違法家電にしか見えないんだけど。
「はい、気むう。集中して。全エネルジアを球に込めて。全力でね。」
「了解。」
「3秒間。ビープ音まで集中して。」
「はい。」
(……これってなに?“魔法球の運転免許試験”とかそういうやつ?)
「スタート!」
気むうは目を閉じた。相変わらずの真顔で、宇宙と交信でもしてるんじゃないかってレベル。
——ピッピッ!
「よし。息を整えて……はい、もう一回いきましょう。」
気むうは黙ったまま、もう一度集中。
——ピッピッ!ピッ!
(……私だけ?これ、“ポケモン in ソ連ラボ”にしか見えないんだけど。)
「次は、神いさまですね。」
「お、おう。」
私は椅子に座った。渡されたのは、バスケボールサイズのケーブルボール。一瞬だけ、「これ、バウンドするかな……」って思ったけど、やめといた。(惜しい。)
「では、同じく。爆裂の時みたいに、思いっきりエネルジアを球に込めてください。では……スタート。」
爆裂やカセイハの時の感覚で、普通にやった。なんか……医者の検査受けてる気分。魔法版のCTスキャンかよ。
——ピッピッ!
「いいですね。はい、もう一回いきましょう。」
呼吸?別に要らん。こちとら爆裂で何度も死にかけてるんで。
——ピッピッ!ピッ!
測定が終わって、椅子から降ろされた。気むうと私は顔を見合わせて——
(……今の、なに???)
数秒後。ガガッ……ピピッ。機械のひとつが、レシートみたいな紙を吐き出した。
「はいはい、出ました。お二人の“成績”です。」
「おお、見せて!」
「まず、気むう。13,401インク。つまり、1,340,122パワー単位ですね。」
「え、え、え、え!?!?なんか多くない!?!?」
「いや、まあ、そこまでじゃないです。さて、神いさまは……」
「こいこいこいこい!!」
「14,780インク。つまり、1,478,034パワー単位です。」
「うっわああああ!?!ゼンカイもしてないのにこの数字!?!」
「ちょっと、落ち着いてください。いいですか、お二人。」
マイルズはぷかぷかと空中に浮かびながら、体をふわっと膨らませた。
(※猫ボール的“真面目モード”)
「政府の基準によれば、大人の平均は2万〜15万インクです。」
「え、じゃあ……うちら、ただの棒持った雑魚じゃん……」
私はぷくっと頬をふくらませて抗議した。精神ダメージ:即死。
「……むしろ逆ですよ。」
マイルズはくるっと回転しながら、まるで“説教モード”に入るような動きで語り出す。
「あなたたちの年齢で、仮に似たような経験をしていたとしても……大抵は7千〜1万2千インクくらいです。そう考えれば、相当優秀な数値ですよ。」
「……それは、問題なの?」
気むうが淡々と訊いた。
「うーん……場合によります。」
マイルズはゆっくりと一回転して、目を細める。
「スウェットボア様が今後話すであろう“お仕事”に関しては……理想としては、大人並のインク数が望ましいですからね。」
「……まあ、気にしないでください。」
「でさ、結局その数値で……私たち、何ができるの?」
私はちょっと真剣モードになって、尋ねた。
「うーん……いい質問ですねぇ……」
マイルズはふわっと浮かびながら、くるくると空中回転。顔は“難問モード”。
「例えばですね……神いさまの“爆裂”は、全魔力を一発にぶち込むタイプですので。不安定ですが、理論上は——」
「ふんふん?」
「“バリアがない相手や物体”には、一撃で倒すことも可能かと。」
「たとえば?」
「タンスとか。木とか。あと……弱いノームとか。」
……顔が崩れ落ちそうだった。
「あ、いや!いやいやいや!強くない敵には“中ダメージ”くらいは与えられるはずですよ!」
ピカーンッ。私は一気に元気になった。
「なるほどねっ!」
「まあ、過信しないことですね。」
マイルズがスーッと近づいてくる。
「勝つ方法って、必ずしも“力”じゃありませんから。気むうがあなたに勝ったように。」
「……それは言わないで……」
「ふふっ。」
気むうは何も言わなかったけど——
その口元の笑みが、すべてを語っていた。